第十五話『裕哉の立ち位置』
「―――—だーっ、本当にどうなってるんだよ⁉」
「ここまでやっても勝てないどころか、的に触れることすらできないなんてね……」
「話には聞いてたけど、まさかここまで強いなんて……」
――作戦会議から十分ほど。即興でくみ上げたとはいえ頭を使ったはずの手が全てあっけなく防がれ、三人は力尽きて地面に倒れ込んでいた。空はすっかり夕焼けに染まり始め、春の風は少し冷え込み始めている。
「いやー、いい作戦だったけどな。クリアまでにはもう少しだけ工夫不足か?」
「言ってくれるなよ……。俺たちだって見切り発車なのは分かってるんだからさ」
誰を軸にするか、何の魔術を起点にするのか、そして最終的に的を砕くのは誰の役割なのか。それらすべてを考えて臨んでも、全て想定通りだと言いたげに裕哉はその策を打ち破って来る。それは裕哉の強さの証明であると同時に、三人の力がまだまだ足りないことの根拠にもなりえるものだった。
「ここまで完敗になるとはね……松原裕哉、その強さは言わずもがなだけど」
「そんなに大きく見なくてもいいって。それよりも大きい事がちゃんとあるんだからさ」
完敗にも見えるこの中にも、裕哉は何らかの光明を見出しているらしい。その真意は相変わらず読めないが、満足そうな裕哉の表情を見ることが出来たのは梓にとってうれしい事だった。
「今お前たちは、限界の限界まで魔力を使っていろんな策を試した。……その結果、お前たちは魔力切れで倒れ込んでるわけだけど」
「それがいいことだっていうの……?アンタが言うと皮肉にしか聞こえないんだけど」
「いや、皮肉でも何でもねえよ。……限界まで魔力を使うなんてこと、ここじゃなかなかできなかっただろ?」
その言葉に、三人はふと気づく。そういえば、こうして地面に倒れ込んでいるのはいつぶりだったか。限界に至るまで魔力を使わなければならないような課題に直面したのはいつぶりだったか。……ぬるま湯の中で、いつの間にか自分に無意識のブレーキをかけてはいなかったか。
「……限界を知るってのは、自分が今できる全てを知るってことだ。それを知らなきゃ、どこまで攻めたことが出来るかってのも分からねえからな」
――だからこそ、今日お前たちには限界まで削れてもらいたかったんだ。
裕哉はお茶目に笑いながら、今日の課題の真意を告げる。それは手荒いやり方のように見えて、三人に足りていなかったものを的確に供給するようなものだった。
「今日の足掻きを見る感じ、皆極端に魔力が扱えねえってわけじゃねえ。何らかのところに難はあるけど、皆可能性はしっかり持ってる。あとはそれを見出して、伸ばしていくだけだな」
「だけだな……って、それが一番難しい事なんじゃないの?」
それが出来れば誰だってここを抜け出せている。できていないからこそのこの場所で、出来ていないからこそ辛いのだ。……それを、裕哉が理解できているのかどうか。
「ああ、難しい事だな。自分の適性ってのは痛い思いをしなきゃ見つからねえし、それをするには勇気がいる。……だから、俺は背中を押すための役割を果たさせてもらうぜ」
「……背中を、押す」
手を引くのではなく、裕哉はそう表現した。背中を押し、支えるために裕哉はいるのだと、自らの役割をそう定義する。
「俺はあの戦いに直接は介入できねえ。だからこそ、お前たちは自分の力で壁を越えなきゃいけねえんだ。……それを見つけるために、俺ってやつはいるんだよ」
生徒会長としてでもなく、ただのクラスメイトとしてでもなく。……それこそ、教師という立ち位置が一番近いのだろうか。その不思議な立ち位置に、裕哉は自らを置いている。梓たち三人の可能性を信じているからこそ、出来ることだった。
「幸いなことに、お前たちの適性はなんとなーくわかってきた。……明日から、期待しとけよ?」
空が夜の色へとまた形を変えていく中で、裕哉は楽しそうに宣言する。……その自信に中てられたのか、梓の体の中を何か熱いものが通り抜けていったような気がした。
最初の力試しも終わり、物語はどんどん加速していきます!果たして裕哉はどんな手を打つのか、そして七日後までに勝機は見いだせるのか!楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!