第十四話『過去、紫電の軌跡』
――力勝負では勝てない。それが幼いころ、裕哉が梓に対して下した評価だった。梓と真っ向から戦っても、有り余る彼女の才能に押し返されるのが関の山だ。そう思ったから、裕哉は違うベクトルに舵を切り始めたのだ。
――誰も知るよしのない、最強の生徒会長の方針決定の瞬間である。
「……さて、いい感じになってきたな」
裕哉の眼前では、三人が声を潜めて作戦会議をしている。その眼にはしっかり熱意が宿っていて、なんとしてでも裕哉を打破してやろうという意思がありありと伝わってきた。
「……それでいいんだよ。正面から勝てないだけで、諦めるなんてあっちゃいけねえ」
自分の可能性に限りを付けるのは本当に行き詰ったときでいい。壁にぶつかっても思う存分足掻けばいい。……かつての裕哉が、そうだったのだから。
だから、裕哉の強さを才能と呼ぶのは少しだけ違うのだろう。あえて強さがあるというのならば、それは折れなかったことだ。圧倒的な才能を前にして折れなかったことが、今の裕哉をここまで連れてきているのだろう。
――だからこそ、今の梓の状態が裕哉にとっては解せなかった。あの才能が未だに梓の中でくすぶっていることが、裕哉にはわからなかった。
その原因に思い当たるところがないわけではない。……むしろ、これが原因だろうと断定できることが一つある。……だが、それは決して裕哉の口から話してはいけないことだ。
脳裏によぎるのは、幼いころの記憶。裕哉にとって、一番死を近くに感じた瞬間。魔獣の息がかかり、体温の行き渡っていない爪が首筋に触れる。それが紅い奇跡を描こうとしたときに、紫色の光が視界を埋め尽くして――
「……今でも、引きずってんのかね……」
襲われた側ではなく、それを助けた側がトラウマを抱えてしまうというのは何とも皮肉な話だ。それを何とか解決しようにも、裕哉の力では何をしても逆効果になりかねない。……最初の一歩は、梓が踏み切らなければならないのだから。
「頑張ってくれよ。……俺は、お前らに賭けたんだからな?」
裕哉の力の限界はある。……だが、だからと言って裕哉ができることの全てが終わったわけではない。これだって、その一つと言えばそうなのだ。
「……さあ、やるか」
そんな回想をしていると、三人が立ち上がってこちらを見つめる。その瞳には、勝利への自信が宿っていた。……もちろん、梓の瞳にも。
「……いい顔してんじゃねえか。よっぽどいい作戦を思いついたらしい」
「まあな。……見てろ、今に度肝を抜いてやる」
「上等だ。そっちこそ、あっけなく破られて吠え面かくなよ?」
威勢のいい暁人の言葉に、裕哉は二ッと笑って返す。その言葉に明確な闘志があるのが、裕哉にとっては救いだった。
「……さあ、行くぞ!」
「ああ。……来い!」
その言葉と同時に、三人が違う構えを取り始める。それは初めて見えた連携の欠片であり、三人の変化の証。……つまり、三人の成長が、可能性がまだ潰えていないことの証明だった。
裕哉の過去に迫ることは、今の状況に至るまでの物語にもつながっていきます。それが解き明かされる時を楽しみに待っていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!!