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第十三話『火種を燃え上がらせるもの』

「……といっても、アレをどうにかする方法なんてあるの?」


 凛花のその問いに、三人は言葉を失う。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、作戦会議はその始まりから行き止まりにぶつかっていた。


「前々から目にする機会はあったけど、まさかここまで強いとは思わなかったな……あれで全力ではないんだろ?」


「聞いた話だと魔獣を一撃で沈めるくらいの火力は出せるらしいわよ。まあ、あたしもそれを直接見たことは無いんだけど」


 多くの時間を裕哉と共有している梓だが、魔獣狩りだけは一切踏み込めない領域だった。そこで戦う裕哉はまるで知らない英雄のようで、それが梓にとっては辛くてたまらない。


「だけど、それでも霧島副会長の方が純粋な火力としては上なんでしょ? 目標にしてる人よりも明らかに強い人とか、三人がかりでも勝てる気がしないわよ……」


「同じ氷を使う魔術師だもんね……意識するのも無理はないか」


 凛花だけでなく、この学園に通うすべての氷魔術使いは早希を意識せざるを得ないだろう。それだけ彼女の力というのはわかり易く、そして絶対的だ。……それを超えたからこそ、裕哉という存在がさらに際立っているのは言うまでもなかった。


「だけど、ここでうじうじしてるばかりで勝てるわけもねえ。……何かしら、やるしかないだろ」


「全く以て正論ね。……松原くんだってできない課題を出すほど鬼畜じゃないでしょうし、何かしらの突破口はきっとある」


 それがどこにあるのかは、残念ながら分からないが。だが、課題というのならば解けなければならない。そうでなければ、裕哉がここに来た意味自体が否定されてしまうのだから。


「習うより慣れろ、ってことかしらね……まあ、とりあえず踏み込んでみる?」


「ああ。……三人で、呼吸を合わせるぞ」


 とりあえずの方針を決定して、三人は姿勢を落とす。炎と氷、そして雷の魔力がそれぞれの術者に装填され、今にも的へと向かっていきそうな形で保持された。


 しかし、その中でも梓のまとう魔力はとても弱々しい。全身を覆う武装の形を取っている暁人と凛花とは違い、手の内で小太刀を作り出す程度が手いっぱいだった。


(やっぱり、私は――)


 何かしらの原因があるのは分かっている。だが、それは今でも分からないままだ。まるでもやがかかったように、梓は原因不明の不調の中で苦しみ続けていた。


 だが、今はそれを押し殺すしかない。その持ち札でも、三人でなら何か、そう何かはできるかもしれないのだから――


「……行くぞ‼」


 暁人の号令に合わせて、三人は一斉に的へと向かう。いくら裕哉といえど、直接迎撃無しでそれを押し返すことは不可能だ。そう、梓は信じていたのだが――


「積極的でよろしい。その調子で色々チャレンジしてくれよ、な!」


 無造作に投げつけられた水の弾丸が破裂し、突如として現れた水の大壁が三人の突進を完全に足止めする。その規模の大きさに、三人は言葉を失うしかなかった。


「一つヒントをやるなら、足し算じゃダメだ。……掛け算、あるいはそれ以上の何かじゃないと。単純な力比べで、三人が二十七人に勝てるわけもないだろ?」


「現在進行形で三人のことを一人で、それも手加減しながら力比べで押し込んでるアンタが言っても説得力ないわよ……」


 その理屈自体はなにも間違ってはいないが、いかんせんそれを教えているのが規格外すぎる。数的有利の原則をひっくり返しながら語られては、流石の梓も苦笑せざるを得なかった。


「だけど、アイツの言うことが大方間違ってないのも事実だ。正面からそれぞれ突撃するだけじゃ、いつまでたってもアイツを超えられない」


「それに関しては確かね……といっても、どうやって仕留めに行くかは難しいけど」


 的の隣に置かれた椅子に腰かけているだけの裕哉が、おそらくこの学園一厄介な的の守り手だ。それに打ち勝つことが初めての課題だなんて、無理難題にもほどがありすぎるというものだろう。


「だけど、それくらいのことをしなくちゃあたしたちの可能性を証明することはできない。……ちんたらやってる暇がないのなんて、最初から分かってることだからね」


 いろいろなマイナス要素を脳内から振り払って、梓はあくまで前を向く。……今は、裕哉との実力差に歎いている場合ではなかった。


「そうね。……問われているのは、その実力差を分かったうえでどうするか。……何が、突破口になりうるか」


 それについてのヒントを、裕哉はほとんどこちらに投げかけていない。単純な足し算ではない、つまり連携が問題になっていることは間違いないのだろうが、そんなことはあくまで大前提でしかないのだ。


「……厳しいわね、裕哉は」


「それくらいでいいんじゃない?私たちに厳しく接してくれてる人なんて、もうしばらくいなかったわけだし」


「そうだな。優しさ擬きのぬるま湯に着けられるくらいだったら、これくらいの厳しさがあった方がよっぽどマシだ」


 それくらいの方が張り合いがある、と。


 二人の表情は、いつの間にか楽し気なものへと変わっている。その目に移る強大な壁は、久々に現れた越え甲斐のある課題だった。


「……さあ、どうする?半端な一手じゃ、アイツは潰れてくれそうにもないぞ」


「そうね。……こっからが、あたしたちの可能性を見せつける場面ってわけ」


 その言葉ともに、作戦会議は再開される。裕哉の実力が、示した高い壁が、久しくくすぶっていた火種を強く燃え上がらせていた。

これは梓と裕哉の物語ですが、それと同時にその周囲を取り巻く環境の物語でもあります!3人がどうやってこの壁を突破するか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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