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第十一話『この感情の意味』

「……感情を悟られぬことには、自信があったんだがな」


「そういう人ほど色恋沙汰になるとわかり易いってのはよくある話ですよ。霧島先輩もその例に漏れなかったってだけです」


 普段は恐ろしいほどに何も読み取れない早希の感情が、裕哉が絡むとこうも簡単に表出するのだから恋の魔力というものは恐ろしい。何がきっかけかも分からないその感情は、しかし早希に根深く息づいているようだった。


「いやー、まさかまさかですね……。それに元会長が気づいてないってのがまたおかしな話です」


「……やはり、アイツは気づいていなかったのか……」


「そうだと思いますよ?そうじゃなきゃあんな振る舞いはできませんもん」


 良くも悪くも、裕哉の接し方は自然が過ぎた。それがいい方向に働くことも数多いが、しかし悪影響のことの方が遥かに多い。……現に、ここで一人の少女が打ちひしがれていた。


「……私より強いアイツは、そのことにこだわりもせぬ。強さとは違う別の何かを求めて進むやつの姿は、どうしようもなく輝いて見えた」


「ま、そういう不思議なところがある人でしたもんね……着眼点が違うというか、人と違う何かが見えているというか」


 その慧眼がこの学園にもたらしたものは数多い。学園の中にも、裕哉のスタイルに勇気をもらった、感銘を受けた生徒は数知れなかった。……それだけに、今回の事件は影響が大きいのだ。


「……そうは言っても、霧島先輩ほどショックを受けている人もいないでしょうけどね」


「……それは、否定できないな。私は、ひどくショックを受けているらしい」


 自分でもその感情が処理しきれていないのか、早希は一つ一つの言葉を選んでいるかのようだ。この恋が初めてだったのだろうと、真央はひそかに推測した。


「……ああ、私はひどく落ち込んでいるのだな。……それと同時に、ひどく怒ってもいるらしい」


「生徒会の仕事をすべて放り投げていった松原元会長に、ですか?」


「ああ、それもある。……だが、それはあくまで便宜上の物でしかない」


 感情に振り回されていた様子はすぐに消えうせ、そこには普段通り冷静な口ぶりの早希が残る。しかし、その言葉に抑えきれない熱がこもっているのは真央にも伝わっていた。この感情は、きっとどこかに向けなければ焼けこげてしまうような類のものだ。それほどまでに強い感情を発露させているのを、真央はこの時初めて目にしたのかもしれない。


「……私があれだけ思いを向けておきながら気づきもしなかったあの男が。……置いて行かれた形になってもなお愛おしい松原裕哉に、私は怒っているんだ」


「……やっぱり、簡単には諦められないですか。それでこそ、初恋ってやつですね」


 普段は冷静な少女ほど、のめり込んだ時の熱量はすさまじいものになりかねない。恋は盲目という言葉は今の時代になっても語り継がれているが、目の前で怒りに震える少女の状態はまさにそれだと言ってよかった。


「……で、どうしますか?無理やりにでも連れ戻します?」


「いや、それは私の権限をもってしても不可能だろう。……それに、アイツは何か意味があってあの場に向かったのだ。その意味を果たさない限り、どうせ何度でも私たちの手を離れるさ」


「脱走癖があるみたいに言うじゃないですか……。まあ、その考察に関しては大体あってると思いますけど」


 裕哉の行動は時に突飛だが、その行動に意味がなかったことは無い。だからこそ彼は生徒会長として生徒から認められているのであり、教師からも一目置かれる存在であり続けられるのだから。


「……だからこそ、私は裕哉の思惑を正面から否定しに行こうと思う。アイツの考えを真正面から上回ったうえで、もう一度私の方を振り向かせてやる」


「……自らの正しさと愛の証明、ってやつですか」


「ああ。裕哉は私にとって必要な存在だ。誰かに譲るなど絶対にありえない」


 その瞳はブレずに真央を捉えており、その覚悟のほどが痛いほどに伝わって来る。それはきっと尊重するべき感情で、真央はそれを支えるべきだ。―—その道中で、面白い者も見られそうだし。


「目には目を、歯には歯を……証明には証明を、って感じですかね?」


 この二人の思考が対極にあることは、二人を一番客観的に見て来た真央が最もよく理解している。だからこそ早希も裕哉に惹かれるものを感じたのだろうが、その二人が真正面から激突するなら話は別だ。……途轍もなく、事態は錯綜していくだろう。


「とはいっても、生徒会としての介入は積極的にはできませんよ?何もしていないクラスに、私たちが過干渉するわけにはいきませんし」


「分かっているさ。……まずは、様子を見させてもらう」


 裕哉の考えは何なのか、何が彼をそこまで突き動かすのか。……早希は、それを理解したうえで正面から否定する必要がある。そうでなければ、真の意味で裕哉を超えたことにはなるはずもなかった。


「……鹿野、出来る限りの業務を寄越してくれ。動きが激しくなる前に、出来る限り多くのことをこなしておきたい」


「了解しました。備えあれば憂いなし、ですね」


 早希の意向に賛同し、真央は今できる仕事のリストアップを始める。その姿を、早希は真剣な目つきで見つめていた。


――裕哉の行動が火をつけたのは、最下層でくすぶっていた幾人かの生徒の魂だけではない。……ひそかに恋する氷の乙女の心にも、誰よりも熱い炎が燃え盛っていた。

ということで、事態はさらにややこしくなっていきます!果たして早希たちがいつ、どのように動くのか、そこにも期待してお待ちいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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