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第十話『取り残された者たち』

「……自由な奴だとは思っていた。だからこそ奴は私をも超え、この学園の頂点にまで駆け上がったのだろう。それを否定するつもりはない。……ない、が」


 生徒会室で、霧島早希は何かを抑え込むようにそう言葉を紡ぐ。しかしその戸惑いは隠しきれないのか、手に握られたボールペンは今にも折れそうなくらいに震えていた。


「……気持ちは分かりますよ、霧島先輩。ええ、ひっじょーによくわかります。ですから落ち着いて、ね?」


「落ち着け……落ち着け、か」


 隣に座る真央にそう促されて、早希は一度深呼吸。そののち、改めてその手に握ったボールペンを圧し折った。


「『ポイントを全て放棄して最下層へと乗り込んだ生徒会長』というありえない現象を前に、私が冷静でいられるわけがないだろう!」


「……ですよねー……」


 わなわなと体を震わせながら、早希はこの場にいない少年を呪う。彼女が据わる机には、『生徒会長』と書かれた札が置かれていた。


「そりゃもちろんいつかは生徒会長に……とか思ってましたけど、こんな形で叶うのはとんでもない予想外ですねえ」


「私もだ。……この席は、全力の裕哉を制して奪い取るからこそ価値がある物であったというのに」


 生徒会長が居なくなったことで、副会長と会計がそのままずれ込む形で会長と副会長の座を継ぐこととなった。それは当然喜ばしい事であるはずだが、その達成感などあるはずもない。この昇格は、決して勝利によってもたらされたものではないからだ。


「これ、きっと学園中がとんでもないことになりますよ……ちゃらんぽらんでも元会長はみんなに愛されてましたし、それが居なくなるとなると混乱は避けられません」


「そんなことは誰でも分かっている。分かっていなかったのは裕哉だけだ」


 ……いや、分かったうえでそれらすべてを無視した、というほうが正しいのかもしれない。型にはまらない彼からすれば、生徒たちから受けている感情でさえも行動を縛る物にはなりえないのだ。


「自由ですねえ……ま、だからこそ面白いんですけど」


「……鹿野、何か言ったか?」


「いや、何でもありませんよ?『ここから先は荒れるなあ』なんて、月並みなことを思っていただけです」


「……お前ほどの策士が、この件に関わっていないとは思えないが」


「わたしは策士であっても外道じゃありませんから。誰かをそそのかす形で地位を手に入れるなんてことはしませんよ」


 鋭い目でこちらを見つめてくる早希に、真央は必死にそう弁明する。その言葉に嘘はないが、決して真実もない。鹿野真央は、今日も今日とてグレーゾーンを突っ走る少女だった。


『納得がいかないなら証明すればいい』とは昨日の真央の言葉だ。その言葉にかすかな期待すらもなかったと言えばウソだが、まさか一番面白い……いや、大変なことになる選択肢を昨日の今日で取ってくるなど誰が予想できたことか。


「流石のわたしでもあの人の行動は読み切れませんって……誘導しようとしたってその予想をはるかに超えてくる一手で対応してくるんだから敵わないですよ」


「……それもそうだな。お前ですら、裕哉のことは扱いかねていたように見えた」


 松原裕哉という人間は、誰かが作り上げた枠にはまらない人間なのだ。まるで彼が操る水そのものの様に、誰も想像がつかない形で自らの目的を達成しに言って見せる。その姿は、早希と完全なる対極にあると言ってもよかった。


「その二人がコンビを組んでいるからこそ、見栄えの良さもあったってものですが……それも昨日まで、ですね」


「ああ。……その責任も、重いな」


 ここにいない裕哉を睨んで、早希は強く歯噛みする。当然そこには身勝手な行動への怒りがあったが、しかしそれだけではない。……それを、真央は見抜いていた。


「……早希先輩。このまま元会長への愚痴を垂れるのもいいですが、そろそろ流れを変えていきましょう。……感情を押し込めてばかりでは、きっと先輩だって辛いです」


「ど、どういうことだ……?」


 何かをほのめかすような真央の発言に、早希は露骨に焦った様子を見せる。霧島家の令嬢にも苦手なことはあるのだなというのがなんだかおもしろくて、真央は笑いを抑えるのに必死になってしまう。


「元会長は鈍感……というか、自分にとって大切なこと以外を気にしないタイプの人です。だからこそ、先輩もやきもきしたことがあるんじゃないんですか?」


「……そんな、ことは」


 必死に早希は否定するが、宙をさまよう視線が真央の推測を完全なものへと引き上げてくれる。だらだらと引き延ばしても始業の時間が来てしまうので、真央はさっさと核心を突くことにした。


「……いいんですよ、この際我慢しなくても。……先輩、元会長に恋しているんでしょう?」


「……ッ‼」


 その言葉が出た瞬間、色白な早希の頬が真っ赤に染まる。あまりにわかり易いその反応は、真央の推測が当たっていたこと――そして、裕哉がどうしようもなく鈍感な男であることを何よりも雄弁に語っていた。

次回、もう少しだけ生徒会のターンが続きます!裕哉に置いて行かれた二人が果たして何を決意するのか、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!


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