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第九話『証明のためのメソッド』

「つーわけで……大変なことになったな?」


「『なったな?』……で済む話でもないと思うんだけど⁉」


 あくまで気楽な姿勢を崩さないその姿に、梓は思わずそう突っ込まざるを得ない。外部からの介入で動かせるものではないのがこのクラスの現状だが、まさか直接乗り込んでくるなんて梓には想像もしていない事だった。


「いや、確かに一番手っ取り早い方法ではあるんだけどね……?」


「……最初からクラス全体に喧嘩を売るなんて、やっぱりやることのスケールが違うというか……」


 困ったようにこめかみを抑える梓の隣で、凛花が言葉を選びながらそう続ける。傷つけないようにという配慮にあふれたその言葉は、逆説的にその困惑をより強調していた。


「そんなに大きく見る必要はねえよ。俺はもうお前たちのクラスメイト……そんでもって、ともに可能性を証明する仲間なんだからな」


 しかし、裕哉は緊張したそぶりも何も見せない。むしろ、この現状を楽しんでいるようにすら梓たちの目には映っていた。


「……そうはいっても、その道のりは決して簡単なものじゃないぞ。……このクラスの惨状を見れば、添えれは分かり切ってると思うが」


「惨状なんて言ってやるなよ……。まあそれはともかく、予想よりチームメンバーが少なかったってのもまた事実だな」


 裕哉の予想では、五、六人くらいのメンバーが裕哉の呼びかけに答えて集まるはずだった。……では、実際に放課後になってみたら、どうか。


「……メンバーはあたしたち三人だけ……これ、相当まずくない?」


「……かなりマズい。けど、ぎりぎり想定の範囲内だな」


 教室に残る裕哉のもとに集ったのは、梓と凛花、それに暁人の三人のみ。梓一人だけという最悪の事態は回避できたものの、未だに厳しい状況に置かれていることは変わらなかった。


「……これだけの戦力で、クラスの九割以上に勝つって言うの? ……大分、難しくない?」


 あえて『無理』とは言わない。その言葉は、自分たちで己の可能性を否定してしまうものに他ならないからだ。……だが、梓の脳内で何度模擬戦を行っても結果は梓たちの敗北だった。


「……難しいさ。難しいからこそ、達成する価値があるってもんだろ?」


「……お前、思ったよりギャンブラーの気質があるんだな。生徒会長なんて立場の奴だから、てっきり肩ひじ張ったカチコチ野郎かと思ってた」


 裕哉の強気な発言に目を丸くしながら、暁人はそうつぶやく。彼が思い描いていた裕哉のイメージがあまりにかけ離れているものだから、梓は苦笑しながら手をひらひらと振った。


「残念ながら、裕哉はその真逆よ。ふにゃふにゃのヘロヘロで、いっつものらりくらりしてるんだから」


「大体そうだから耳が痛いな……。その通り、俺に世間一般の『生徒会長』らしさを求められてもそれに応えてやることはできねえ。失望したか?」


「……いや、むしろ逆だ。……お前とは、きっと仲良くなれる」


 そう言って、暁人は改めて右手を差し出す。それは、あの時教師に阻まれた握手の再演だった。


「ああ。これから頼むぜ、暁人。俺のことは裕哉でいい」


「……男の友情ってやつだねえ……ところで梓、聞きたいことがあるんだけど」


「ん、どうしたの?」


「いや、幼馴染とは言えかなりあの人のこと知ってるんだなーって。……ホントのとこは、どうなの?」


「ほ、ほんとのとこ⁉ いやそれは、その……」


 これこそが『女の勘』の真骨頂とでもいうべきか。いきなり核心をついてきたその話題に、梓の視線はあちこちを泳ぎ回る。どう答えるか決めかねていた梓を見て何事か察したのか、裕哉が突然その肩を抱きよせた。


「コイツは俺の幼馴染で、恋人だ。……ま、アッツアツってやつだな」


「えええええ⁉ 梓、どうして教えてくれなかったの⁉」


「それは重大な問題だな……。俺は又聞きしただけだが、このクラスでもお前はかなり人気上位にいるらしいぞ。それに恋人がいるとなればもう大事件だ」


「それはいけないな。こいつは俺の彼女だって、どっかでしっかりアピールしとかねえと」


「しなくていいわよ!……じゃなくて、どうしてそれをそんな簡単に言っちゃうの⁉」


 心の準備も何もできていないものだから、心臓がうるさくてたまらない。こうやって裕哉に恋人関係を主張されるのは、なんだかんだでこれが初めてだった。


「いや、もう隠す必要性もねえし。……というか、最初から隠す必要なんてないはずなんだけどな」


「……いや、流石にあるわよ。昨日までのアンタは誉高い生徒会長で、あたしは最下層の住人なんだから」


 裕哉の姿に思いを寄せていた人だってきっといたはずだ。そんな彼が一番に思う存在が最下層所属となれば、流石に波が立つ。……それは、梓にも容易に想像できてしまうことだった。


「そうなるシステムだからこそ、壊そうって気にもなるんだけどな……今から俺たちがやることは、その第一段階に過ぎないわけで」


「……教師込みの二十七人にあたしたち三人と裕哉の援護だけで勝ち切る。……これが一歩目のアンタの計画って、かなりぶっ飛んでない?」


「いや、こういうのは最初が一番厳しいもんなんだぜ?このクラスでもまだやれるんだって意識が芽生えれば、その後は割とどうにでもできる。……そのための一番の障害が、あの教師ってわけだ」


 悪い人ではないんだろうけどな、と裕哉は苦笑する、悪人ではなくとも、裕哉の道の前に立ちふさがる強敵であることは確かだ。そして、敵と認定したものに裕哉は一切の容赦をしない。


 きっと今でも、裕哉は勝利のための策を練っている……或いはすでに練り終わっているのかもしれない。あの場でのやり取りすら、裕哉の作中なのではないかとまで梓は疑っているほどだ。


「……じゃあ、それを取り除くためにどうするんだ? 何か作戦が無きゃ、教師どころか生徒二十七人にも勝てねえだろ」


「そこは暁人の言う通りだな。一まずのボスはあの教師だが、それ以外に足をすくわれることだってきっとある。あくまで一歩一歩確実に、だ」


 さながら薄氷を踏みしめるような道のりだが、それはちゃんと未来に繋がっている。氷が砕けない道を選ばせる渡しの役割を、裕哉は果たすべきなのだ。


「……ま、決まったからにはやるしかないわね。……二人も、そのつもりで来てるんでしょ?」


「ああ。……このままここで終わりとか、まっぴらごめんだ」


「私も同感。……また、あの場所に返り咲いてやるんだから」


 梓の問いかけに、二人は力強い頷きを返す。それを見て満足げに頷くと、裕哉はくるりと黒板の方を向いた。


「……よし、三人ともその意気だ。俺たちの可能性がまだ終わってないって証明を、ここから始めよう!」


 そう言って、裕哉は黒板にチョークで何かを書きつける。お世辞にも綺麗とは言えないが、大きく力強い字は三人の視線をいやおうにも引き寄せた。


「……てなわけで、今日からさっそく特訓を始める。初日となる今日は、まず――」


 そう言うと、裕哉は右に大きく一歩ずれる。そうすることで、黒板に隠されていた文字があらわになった。


「……今の自分の『底』を、知らないとな?」


 黒板では『誰よりも己を知れ』という力強いスローガンが躍っている。三人が思い描いた特訓とその言葉が重ならないのか、三人は困ったように首を傾げた。

次回、一度視点が生徒会に移動します!裕哉の決断によって早希たちにどんな影響があったのか、彼女らの反応を楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また次回お目にかかりましょう!

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