その九
謁見の日を迎えた。何故か、分からないけど、昨日オリバーが必死になって、私に最小限のことしか答えるなと迫ってきた。オリバーの命に係わるらしい。それは困る。この至福の時間がなくなるなんて、耐えられない。
少しは、ロードという存在に興味はあるけれど、オリバーに比べれば石ころだね。
もう時間だと、オリバーを抑えるジャンヌがちょっと面白かった。
そうして、今に至る。
目の前に居るのがロードだ。
大丈夫。昨日、顔を上げるタイミングから、聞かれたことに答えるタイミング、すべて練習済みだ。今日の私に死角はない。
「なんか強いんだってね。勇者さん。」
「そんなことないですよ。オリバー様に負けて、ここに居るんですから。」
おい!敬語だ敬語!昨日練習しただろおおおおおおおおおお。
「ところで、これ。」
「…?。ああ、最初の勇者の人ですね。」
皇帝は無造作に私の目の前に死体を放り投げてきた。
「気の毒なことです…。私もこうなると?」
「いや…、それを見ても特に何とも思わないのか?」
「いえ。別に?」
「そうなのか?人間は仲間の死に恐怖し、怒り、悲しみ、そして、その死を力に変える…、と認識していたのだが…。」
なるほど…。私の反応を試したのか。
確かに悠人か結の死体だったら危なかった。でも、一緒に戦ったとはいえ、数回しか
話したことがない他人に、そこまで関心を抱くことはない。この世界に来たばかりの
私だったらすごく動揺しただろうが。私はもう普通の女子大生ではないらしい…。
「…。」
ロードは私を試すように見つめている。あのワーウルフのカスと違って、いやらしい感じはない。
それどころか好意的な視線すら感じる。何故だろう、私は敵対こそしていないが、別に積極的に彼らに協力しているつもりもないのだが…。
「お前はオリバーともう一度戦ったら勝てそうか?」
「絶対勝てませんね。」
「ほう?ギドウェアをあっさり瀕死に追い込んだと聞いたが?」
「ギドウェア…?」
誰だっけ?オリバーのほうをちらっと見る。
普段は威厳があり堂々としてるオリバーだが、アチャーみたいな顔してる。あれ?
「あはははははははははははは。」
わざとらしいほどに、ロードが大笑いした。
「そうか。ギドウェアのやつは名前も覚えてもらってなかったのか。お前が手足をぶったぎった、ワーウルフの王のことだ。」
「ああ?あの変態のことでございましたか。」
「うむ。変態か。身も蓋もない言われようだな。余は久しぶりに笑わせてもらったぞ。」
「お気に召されたようで光栄でござりまする。」
「さて、余が、この世界の覇者たる王の中の王、ロードである。よくぞ来た、異世界の勇者よ。」
「あれ?歓迎してくれるの?」
「そうだな。既に歓迎はしている。余は強いものが好きだ。賢く力のあるもの。余はそういった者たちを求めている。」
オリバーもジャンヌも特に反応はなく、私の横に控えている。今のところ、私の対応は合格点というところだろうか。
なぜか、ロードの機嫌が良くなってるようだ。さっぱり分からない。
オリバーには口酸っぱく、最低限のことしか返すなと言われたし、これがその最低限のことだろう。『お前は俺のものだからな』。神セリフを記録させてもらった甲斐はあったもんだ。
「ところでどうだ?勇者よ、余とも一線交えてみる気はないか?」
「いいの?オリバーからは自重しろって言われてるけど。」
あれ。何か右隣に居るオリバーからの圧が高まった。ちょっと隣を見たくないぞこれは。
「オリバーがどう言おうが関係ない。余が尋ねたのはそなたの意志だ。余ともいい戦いができるようであれば、すぐに自由の身にしてもよいのだぞ。」
「別に興味ないですよ?」
今更ながら、改めて問われて、即答してしまった。
24時間、推しと居られて、何なら推しが様々なセリフでイチャイチャしてくれる。なんだここは天国だったか。別に不自由してないし、何の興味も湧かなかったんだけど。
「ほほう…。そなたは自由に興味がないと申すか。」
ん?ロードは、私を挑発してるのかな?
その程度の挑発では私は乗らない。そうだな、オリバーが耳元で3時間ぐらい、色々とセリフを言ってくれるなら考えてもいいんだけど。
「フッ。挑発には乗らんか。」
「期待外れでしたか?」
「いや。そんなことはない。余を前にして、全く動じないその強き心。よほど腕に覚えがなければ、そうはいかんだろう。」
「オリバー様!私、褒めてもらったよ?」
「いや…。褒められてはいない…と思うぞ?」
オリバーが遠い目をしながら答えてくれた。
「さて…、そなたの人となりは十分に分かった。そなたの処遇はオリバーに任す。オリバー及びジャンヌ!下がってよい!」
ロードは屈託のない笑顔を見せながら、高々に言い放った。。