その六
彼らの本拠地に向かうにつれて、景色は変わっていった。
聞いていた話では、滅ぼしたっていうからもっと廃墟になっているんだとばかり思っていたんだけど…。
「どうした…?」
「ううん?なんでもない」
向かいの席に座るオリバーが訝しんだような表情を向けてきた。移動は魔法?で浮かぶ車のような乗り物だった。馬車とかだと思ってた。
山本に騙されていたんだろうか?もう、私にとってはどうでもいいことだけど…悠人と結は元気にしてるかな…?勇者を倒したら教えて欲しいとは伝えてあるけど。
私はこれから連れていかれる彼らの本拠地で、オリバーの謁見の際に、彼らの指導者である、ロードと呼ばれる存在に、人の勇者として初めて会う人間になるらしい。
「さすがというべきか?冷静だな?さすがは勇者といったところか」
「そう?ロードって人とも戦った方がいいの?」
「絶対にやめてくれ…。」
「オリバーがそう言うなら止めておくね。」
そんな風な会話を続けていたら、後ろの席に座っていたジャンヌが、
指から、氷の矢を出してきたので、軽く叩き落とした。
「脳筋すぎない?」
「そうかな?」
ジャンヌはオリバーの副官だ。当然リザードマンなんだけど、雰囲気が女の子してるから、オリバーより気安い。
「私は、あなたを認めたわけじゃないからね!」
ジャンヌは…ツンデレかな、ちょいちょい絡んでくる。
オリバーが特に注意しないので、私の力もジャンヌの力も信じてるんだろう。
本拠地までは二週間ぐらいの距離らしい。
途中の都市で何度か休憩しながら向かっていた。
「ジャンヌはオリバーと結婚したりするの?」
私は…ふと気になって聞いてみた。
ジャンヌは、少し挙動が不審になりながらも、軽く返してきた。
「私は副官だ。王たる閣下とは身分も異なる。そんなことは考えたこともない。」
「へ~~~~、じゃあ、今晩はオリバーの部屋に私が行ってもいいのかな~。」
私が頭を預けていたヘッドレストが簡単に砕かれ、私の頭が支えを失う。
「違…そういうことではない。私がどうあれ、捕虜たる貴様が、閣下と夜を共にするなど許されるはずもないだろう!」
ジャンヌがヘッドレストを砕いたため、持つところがなくなったジャンヌは、今度は座席のシートをミシミシ言わせながら答えた。
こんなに分かりやすい子はいない。かわいいな~。
「おい…。車はロードからの支給品だ、壊さないで欲しいんだが…。」
オリバーから声が聞こえた。
オリバーを見るとすごく呆れたような顔をしつつも、何だか焦っているようにも見える。ふざけてるだけなのに、どうしたんだろ?
「紗奈は捕虜だが一応客人待遇でもある。私はお前を奴隷のように扱うつもりはない。お前は俺のものではないのだからな。」
おおおお惜しい!!神セリフが来たかと思った。そこは、『お前は俺のものだ』でしょ!
オリバーは、女子トークに耐えきれないのか、緩い空気を引き締めようとしてきた。
いや、オリバーはさすが王だけあってあって、マジメだ。
「申し訳ございません…!」
「気を付けてくれよ。」
ジャンヌはすっかり副官モードに戻っている。仕方ない、今日はこれくらいにしておこう。
「そろそろ、ヨウインビの首都キョクヤーだ。今日はここで一泊する。降りる準備をしておけ。」
少し進んだところで車が止まった。
「さて、降りるぞ。」
オリバーが降りて、そのあとにジャンヌが続く。捕虜の私は一番最後だ。それくらいの常識はさすがに弁えている。
そこから、少しあるいたホテルが今日の休む場所だった。
ちょっとほの暗い感じのする、元居た世界で、行ったことのある外国のホテルみたいだ。
「すごーい。すごーい。」
「ふむ、こういった建物は珍しいのか?元はと言えば、お前たち、人が造ったものなのだが。」
ホテルの受付の人から、ルームキーを渡された。全く同じだ。
オリバーもジャンヌも同じフロアのようだ。他の兵は下のフロアで、私たちのフロアに不審なものが侵入することのないよう、防ぐ役割も担うようだ。
うーん…私は捕虜なのにやっぱり待遇が良すぎる。
ロードとかいう彼らの指導者に会ったときに、オリバーが怒られたりしないだろうか。
…このフロアにはオリバーとジャンヌのみ。
これは、神が与えたもうたチャンスではないだろうか。
そうだ。また、作戦会議などで、部下に指示を出すかも知れない。あの部下に命令する時の、重厚な声、あれを記録しないほうがどうかしている。少なくとも私は許せない。
「フフフフフ…。」
私の口からは自然と笑い声が漏れていた。
「おい、お前」
「何?」
「妙なことはするなよ!」
「やだなぁ。信用がないのは寂しいよ。私は従順な捕虜だよ?」
俺は寒気が走った。
しかし、今更部屋割りを変えるのも、王として情けない気がする。
それどころか、障害があれば、それはそれで乗り越えてきそうな予感がした。
落ち着け、俺は誇り高きリザードマンの王。好意を向けてきた女に怖気づくなど、オスとして情けないことのはずだ。