その三
ああ、いいわ。この心地よい声。私の脳を震わせるような響き。
いけない、涎が出そうになる。最高のクッションに包まれるかのようなこの感覚。
追い打ちをかけるかのように、ジッと見つめてくるあの細い視線。
男のハートを掴むには胃袋。庶民だろうと、王だろうと、異世界だろうと、リザードマンだろうと、それは変わらない、最前線では、いかに王と言えども贅沢はできないだろう。食事もきっと保存食が中心で、嗜好品などは後回しのはずだ。
そう読んだ私は、彼の側近に、彼の好物を取り扱ってそうな店がどこかを尋ねる。何とか聞き出したところ、片道一週間は掛かるであろうとのことであった。舐めてはいけない。私は勇者だ。足に魔力を纏い、走り抜けながら、近接ワープを繰り返しながら突き進む。僅かな時間のロスも勿体ない。魔力ポーションを飲みながら私は一目散で店を目指し、半日でたどり着くことができた。
ハァハァ。彼になんて言われるだろうか。
俺のためにとか感動してくれるだろうか。いけない、妄想は後だ。
店に入り、食材の名を伝えると、店員に軽く挨拶をされつつ、店の奥へと案内される。
かなりの高級食材らしく、店頭には置いていないそうだ。
マイマイとワームという単語を聞いた時から、少し嫌な予感をしていたが、やはりそうだった。
カタツムリと幼虫だ。出された食事は普通だったから、気が付かなかったが、やはり彼はリザードマンだ。
調理直前に締めるか、生きたままでないと、味があっという間に落ちる鮮度が命の食材らしい。
なかなかハードル高いな。うにょうにょ動くこいつらを生かしたまま運んだあげく、調理しろだと。
…やってやる。私は勇者だ。
そして、頑張って作った甲斐あって、彼はすごく喜んでくれた。
嬉しさのあまり、徹夜でお弁当を作ってしまい、彼の部屋の前で朝を迎えてしまった。
これが…沼か。
『あぁ。行ってくる』
今日も最高に彼の声に痺れた。