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その二

「お帰りー。今日は、早かったのね?」


「ああ。」


「今日はアナタの好物って言ってた、レインボーマイマイのパスタにしてみたの。うまくできてるか分からないからぜひ感想を聞きたいわ。」


「ああ。」


「あ、そうそう。ライナーさんが来たから、余ったレインボーマイマイを渡しておいたわよ。」


「ああ。だが、余り甘い顔を見せないでほしい。」


「心配性ねぇ。大丈夫、別に全部渡したりはしないよ?」


「ああ。」


1か月前。3年間の訓練を終えた私は、獣たちとの決戦に臨んだ。


35人の勇者たちはそれぞれ驚異的な力を見せ、獣たちを寄せ付けなかった。


しかし、私の所属する部隊は、敵の罠に誘い込まれ孤立した。


少しずつ減っていく仲間たちに焦りながら、私は必死に戦った。


そして、脱出口を開くために、私は一番イカツイ鎧をしたやつに斬りかかった。


今まで一撃で、敵を倒した私の剣をそいつは止めた。そして、…言った。


『いい腕だ。」


その瞬間、私に電気が走った…。


…神の声来た…。


私はその声をもっと聞きたくなって、激しく攻撃した。私の剣は力任せの剣。


だけど、単純に手数が多い。防戦すらさせずに一方的に押し込めるほどに。


その私の攻撃をこいつは軽々と防いでいく。


『やるな。貴様が勇者というやつか!もっと俺を楽しませろ!』


1時間ぐらいだろうか、周囲を破壊しながら戦う私たちの周りには、誰も近づくことができず、


不用意に近づいたものは、巻き込まれて、倒れていった。


私の仲間が撤退しきったのを見て、私も脱出するために、最後の力を振り絞る。


「奥義!雷神剣ッッッ!!」


私はアイツの鎧と剣を断ち切り、アイツの首に剣を突きつけようとした、その瞬間、


逆に私は回り込まれて、そのまま地面にたたきつけられてしまった。


『いい戦いだった。お前みたいな女は初めてだ。殺すには少し惜しい気がするな。最後に言いたいことはあるか?』


「あなた、いいっ!」


『…………は?』


「もっと、アナタの声が聞きたいっ!」


『な、なんだ、お前は…、何の真似だ…。』


いい!いい!いい!いいよ!いい!!ヤバイ!あーーーー、いいっ!


仰向けに倒されている私は、起き上がると、彼に抱きついてた。


これが私と、オリバーとの出会いだった…。





なんだか分からんが、一方的に好意を寄せられた俺は困惑しながらも、とりあえず紗奈を


捕虜という形で連れて帰った。勇者というものはこれほど強いのかと感心したのもあった。


仮面を取り、改めて紗奈と向き合うと、やはりビビっていたようだが、


ギャップがあるのいいわとか、言い出して、俺のほほに口づけをしてきたのだ。


なんだこれは、ロードは、一方的な戦いに飽きたから、より戦いを楽しむために勇者を


与えてきたと言ってはずだが…。


リザードマンの王たる自分は、捕虜を自由にするくらいの力は余裕であるので、


とりあえず、家に連れて帰ったのが3か月ほど前だった。


今では紗奈の居ない生活が考えられないほど、紗奈の居る生活に慣れきってしまった。


種族の違いからか、言葉の端々にガードの甘さを感じる。……俺は王だ。好きに振舞うことができるし、俺の捕虜に手を出す命知らずもまあいない。しかし、ここまでの好意を向けられると、紗奈が他の男に世話をされることにモヤモヤする。……という考えになるぐらいに…。


「王なんだから、ずっと家に居れるわけじゃないでしょ?」


その通りではある、だが正しいことと、俺の気持ちとは別だ。


紗奈は、いつも通りの笑顔で俺と食事をする。


「…分かった。護衛も増やすが…、こっちにも居るようにする。」


「ありがと。愛してるわ。」


「お前は、自分が捕虜だと自覚しているのか?」


「もちろん分かってるよ。あなたの捕虜」


 ……と、こんな感じだ。


末端の護衛兵に抱くべきではない嫉妬を抱いた俺は、紗奈に上手くやりこめられてしまった。もっと家に帰れるように戦線を維持しなければ。


勇者たちが加わった人間たちは予想以上に手ごわく、これ以上、何の作戦も立てずに攻め込んでも、ただ消耗するだけ。それは、ロードより先陣を賜った俺にとっては屈辱だ。だが、状況を受け入れ、少し頭を冷やし、戦線を再構築したほうがいいだろう。


「紗奈、うまいよ。」


紗奈が目を潤ませながら固まった。そう、紗奈はこういうときがある。


敵対する人間たちの勇者の一人が、この俺にとんでもない好意を向けてくる。悪くない。


「……ありがとうございます。尊い…。」


ぺこりと頭を下げる紗奈。何故、礼を言われているのだろう。滅多に食べることのできない希少食材で、こんなうまい食事を用意してくれて、感謝するのは俺の方だろう。


「初めて使う材料ではないのか?」


「はい。あなたを思って作りました。あとはこちらになります」


「なっ!!これは…。」


オメガミラージュの幼虫である、ゴールデンギザワーム!!しかも踊り食いだと!


「今日は、ちょっと遠かったけど、シュレッダー通りまで行ってきたんだよ。」


行動力の逞しさが勇者らしい。


普通のリザードマンの戦士なら1週間は掛かる距離なんだが、…俺でも2日は掛かる。


しかし、なんだこいつは?1か月だぞ、なんだこの距離の詰め方は。異世界の勇者はこんなにも距離を詰めてくるのが早いものなのか?


同じく先陣を賜った、ワーウルフの王、ギドウェアも女を捕虜にしたが、結局勇者は服従を選ばず、処刑したと聞いている。


…旨い。鮮度が違うとこんなに違うものなのか。


「紗奈はいいのか?」


「うん。私はあなたの喜ぶ顔が見たかっただけだから。」


いかん。こいつは捕虜だ。従順であり害がないから、ほぼ自由を与えているが、


これ以上、好き勝手にされたら、捕虜ではなく、客人のように扱っていることが、


ロードに。ばれしまうのではないか。


戦線を膠着させておいて、これはちょっと不味いのではないか。


「ああ。だが……危ないから余り、遠出はしないようにな。」


「はい。ありがとう。」


紗奈との食事を終えると、紗奈は隣の部屋に入っていった。そのあと、ギドウェアと撤退のタイミングをどのようにするかを念話で打ち合わせて、俺は、その日は川にに行ってさっぱりした後は就寝した。


最前線に居ながら、久しぶりの旨い食事にありつけた俺は、軍を率いてギドウェアとの合流地点に向かう予定だ。


鎧を着こみ、さっそく合流地点に向かうべく部屋を出ると…


「はい、今日はきっと大事な日なんだよね。お弁当作ったよ」


「おお。」


扉を開けて外にでると、正面に立つ 紗奈が弁当を手渡してきた。


「あれ?どうかした…?」


「ああ、目の前に急に紗奈が居たものでな、ちょっと驚いただけだ…。」


 紗奈を見ると、俺を凝視している。


 やや、頬が赤く、息遣いが荒い。


 これは俺にも分かる。発情期というやつだ。だが…人というのは発情期はないと、聞いていたのだが、違っていたのだろうか?


「もしかして、俺が出てくるのをずっと前で待っていたのか?」


 扉を開けた瞬間には外にいた。俺が部屋を出てからでは間に合わない。


 ここまでの好意を向けられてはいるが、俺は曲がりなりにもリザードマンの王。俺の寝こみを襲うことで、一発逆転を狙っているなどということを考えているのではないか。


「もちろん。だって…夜遅くまで念話で作戦会議をしていたようだし、いつ出てきてもいいように待ってたのよ」


「む?ずっと外で待っていたっということか?それはいつからなんだ?」


「さあ?お弁当を作ったあとからだから、3時くらいからかな?」


「お前は4時間もここにいたと?」


「うん。」


笑顔で返事する紗奈。俺に対して積極的すぎるだろう、お前は捕虜で勇者だ。寝首をかくにしても、4時間も待ち構えておいて何もしてこないだと。分からない。こいつはなぜこんなにも。


「何故だ?お前は…勇者だろう?」


「勇者なんて私の意志ではないわ。…この世界の人間の都合で勝手に呼ばれたんだもの。」


「自分の世界に帰りたいとは思わないのか?こんな捕虜のままで苦痛ではないのか?」


「苦痛はないわ…むしろ、あなたの声を聞いていたい、傍にいたい…。」


笑顔でまっすぐに紗奈は俺を見てくる。


俺に捕虜にされたことを全く悔しく思っていないのだろうか。王城に居る時の近侍すらここまでの気遣いはできていなかった。


「ああ。分かった。」


「頑張ってきてね!待ってます!」


小さく手を振る紗奈。難しい…。


悪態をつくか、単に取り入ってこようとする捕虜ならやりやすいのだが、どうしても紗奈を連れてきておいて、実験体のように扱う気になれない。これが紗奈の狙いなのだろうか?


「ああ、行ってくる。」



俺は、紗奈に笑顔を向けて、戦場に向かった。

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