表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/26

その一

3年と聞くと、長く感じるだろうか、それとも短く感じるだろうか。


最初、3年間と聞いたとき、紗奈(さな)は絶望のどん底に突き落とされた気がした。


でも、今日がその3年目を迎えたのかと思うと、思ったより短かったのかなと


少し余裕を感じられるようになっていた…。


紗奈がこの世界に来てから3年が経っていた。


3年前、悠人(ゆうと)(ゆい)との帰り道、目の前に現れた、小さな竜巻に巻き込まれて、


この世界へやって来た。


「おお、よくぞお越しくださった勇者様方!」


竜巻に巻き込まれて、パニックに陥った私たちは、気が付けば見知らぬ、大きな部屋に


立っていた。


3人が唖然としていると、突然、話しかけられた第一声がそれだった。


よくぞ来てくださった勇者様方…。


聞き覚えのありすぎるセリフに、私は、まさか自分がと思わずにはいられなかった。


悠人と結もそんな感じっぽい顔をしているように見えた。


「なんだここ…?」


悠人は、自分自身に何が起こったか全く分かってはいなかったが、あまり物怖じしない


性格であったため、素直に思ったことを吐き出していた。


「おお、これは失礼いたしました、勇者様方。ここはタンレストという国で、


私たちがあなた様方を呼び出させてもらったのです。」


「は?呼び出した?」


悠人は、訝しむように目を細めながら、声のした方に顔を向ける。


結は、不安から両手で悠人の手を少し力強く握った。そして考える。


これは、異世界転移とかいうやつではないだろうか。


紗奈が面白いよと薦めてくれたネットマンガのサイトで連載しているマンガの


一つにこんなのがあった気がする。そして、同時に思う、あの手の話で、


召喚された勇者が幸せになるような話なんて、これっぽっちもない。


自分の人生はここで詰んだのではないかと…。


「そうです。私たちは、今、世界を滅ぼさんとする獣どもに抵抗しており、


その切り札となる勇者を求めていたのです。」


うわあ。これ絶対最悪なやつだ。


紗奈は思った。


異世界ものには転生や転移、色んなパターンがあるが、この勇者召喚というやつは、


性質が悪いものが多い。自分たちでどうしようもなくなって、余所から力を持った


ものを無理やり連れてこようとしているのだから。最悪だ。


異世界に行くなら、恋愛ゲームが良かった。


紗奈は自分が軽い沼にハマっていると自覚しており、バイト代を毎月、3万円まで。


そう決めてるイケメン武将のゲームなら良かったのにと思った…。


「勇者って。言われてもなあ。ってか、えっと、おじさんは誰なの?」


ちょっと!この手って、話しかけてくるの王様とかでしょ!悠人って、あまり、


アニメとか見ないから、まだピンと来てないのか…。


無礼者!とか言われないかな。更なる不安から、悠人の手を握る手の力が少し強くなった。


「これは、大変失礼いたしました。勇者様。私はこの国の神官長を務めております、


山本と申します。」


えっ。山本って。めっちゃ日本人の苗字じゃん。ってか、すごいな悠人。普通に話してるし。


おまけに日本語じゃん!ここほんとに異世界?


紗奈は悠人にある意味感心しつつ、少し冷静さを取り戻していっていた。


とりあえず、悠人に任せよう。あれこれ聞いたところで、ぱっと見たところ、


あのオヤジしか、この部屋には居なさそう。


神官長か~。うーん、王様とか宰相とかだったら、何となく国の位置づけみたいな


立場が分かるんだけど、神官長って微妙。


その国の信仰とかによって、どういう立ち位置なのか、大きく変わる。


「ども。自分は、鳳蔵院(ほうぞういん)っていうんだけど…、それで…、結局何?


おじさんは、さっきから一体何を言ってるん?さっぱりイミフなんだけど…。」


「ああ、本当に申し訳ありません。そうですよね。あなた方にしてみれば、


突然、この場所にやってこられたのですから。失礼いたしました。順を追って、


あらためてご説明いたします。立ち話も何ですから、少し場所を移しましょう。


付いてきてください。」


そういって山本は、歩き出した。


「ささ。どうぞ。付いてきてください。」


「どうするよ?さっぱりわけわかんだけど、何これ。来月の学祭のなんか?」


「違うと思うよ…。ってか、悠人すごいわ。よくあんな感じでグイグイいけるね…。」


「いや、普通っしょ。わけわかんなすぎだし。」


「とりあえず、今はあの山本さんって人についていくしかないんじゃない?」


「やっぱ、紗奈ちゃんもそう思う?」


「うん。これあれだよね、きっと異世界~ってやつだよね?」


「だよね。やっぱそれだよね。うわー、マジかーって思ってたけど、紗奈ちゃんも


そう思ってたんなら、やっぱそうかも~。」


「え?二人して何言ってんの?」


「いや、まったく気付いてない、あんたも大したもんよ。」


「はあ?」


「いーから。ちょっと後にしよっ!とりあえず、付いていこ。ここで殺される系の


異世界とかだったら最悪だし。」


「だね。さっ、いこっ!」


「わけわからん…。」


悠人は全く納得いっていない顔で、先を行こうとする2人に付いていく形で、山本と名乗る男に付いていくこととなった。


「ね。紗奈ちゃんはどうなの?こういうのって、体験してみたかった方?」


「うーん。いやあ、正直、バトルものとか見たりするのは好きなんだど、


あたし自身が戦えってのは、ちょっと違うなー。」


紗奈は、ちょっと残念そうな顔をしながら、結とヒソヒソと置かれた状況について、


何となくの意識合わせをしながら、山本に追いつきすぎず、離れすぎず付いていった。


「ささ、どうぞお入りください。」


山本が大きな扉の部屋に立ち、扉を開けると、3人に部屋の中に入るよう促した。


扉の前に着き、結と紗奈は少し身構える。


結は、さっきの会話で、何となく置かれた状況については、紗奈と認識があったことに


ある意味安堵し、ある意味不安が増していた。


ここまで付いてきておいて、今更部屋に入らないという選択肢はない。


しかし、部屋に入ることで、自分たちの想像が想像ではなくなり、決定事項となる。


そんな不安から、部屋には居ることを躊躇した。


ふと、横を見ると、紗奈もちょっと不安そうだ。少し肩が震えている。


「入れって言ってんだし、入ろうぜ。とりあえず、ちょっと座りたいわ。」


悠人はそんな二人の緊張をスルーし、あっさりと部屋に入った。


「ちょ、待ってよ~。」


「全く。私たちがバカみたいじゃない…。」


あっさりと進む悠人に呆れた声を出しながら、二人も追うように部屋に入っていった。





「さて、改めまして。私は山本と申します。このタンレストの国の神官長を務めております。」


椅子に座るよう勧めてきた山本は、三人が座ったのを確認してから、軽く会釈して挨拶してきた。


 最初はオヤジだと思ったが、もうちょっと歳が上のようだ。神官長と名乗る通り、何となく、神職が着るような雰囲気の服を着ている。


 そして山本が顔を上げると、今度は紗奈が少し会釈して名乗る。


「初めまして。私の名前は|参月(みつき)紗奈と言います。私の隣の二人は私の友人で向かって右が鳳蔵院悠人、左が平善(ひらいし)結です。」


紗奈が自己紹介を済ませると、山本は少し表情が柔らかくなった。わけのわからないまま、付いてきた三人がとりあえずは友好的であろうとはしてくれている、そう伝わったようだ。


今度は、結が軽く会釈し自己紹介する。


「平善結と申します。」


そして、最後に悠人も顔を突き出したような下手な会釈で、結に続く。


「鳳蔵院悠人っす。」


「気になることが多々あるでしょう。都度、質問に答える形でもよいのですが、まずは私から、


勇者様方を呼んだ理由を説明させていただき、そのあとで質問に答えるという形でも


よいでしょうか?」


「あっ、はい。それでお願いします。」


その方が話がスムーズなんだろう。紗奈が代表してそう答えた。



山本が話す内容はかなり酷いものだった。


この世界には8個の大陸があるが、既に7個の大陸にあった国々は、獣たちに滅ぼされたらしい。


人は奴隷とかで使われることもなく、ただ殺され、滅ぼしたのちに、獣たちがそこに住み着いているそうだ。


獣たちっていうのは、便宜上の話で、獣人とか色んなものを呼びやすくしているだけで、色んな種族が居るらしい。


そして、4年前、獣たちの王を名乗る獣が、言ったそうだ。


『4年間やろう。最後の抵抗をするがいい。最早お前たちには滅びしかないが、華々しく滅ぶ機会を与えてやろう。4年後、我らは最後に残ったその地に向かうとする。精々楽しましてほしい。そうそう。ただ、絶望して、無為な4年間を過ごしてもらっては困る。お前たちに希望を与えてやろう。それは勇者というものだ。他の世界から援軍を呼ぶと言い。勇者というのは、言い伝えとして、お前たちも名前ぐらいは知っているだろう。この書に記された魔法陣を描き、祈ることで、勇者を召喚することができる。もっとも、誰にでも扱えるものではないがな。それでは4年後を楽しみにしているぞ。」


余裕なのか、バトルジャンキー系なのか分からないが、そういって、1冊の本が人間に渡ったらしい。


人々はこぞって、魔法陣を描き、勇者を召喚したが、全く誰も呼べなかったらしい。


希望を与えたフリをしてバカにするために、そんな本を与えたのかと、人々が絶望した頃、


山本さんが、遂に勇者を召喚できたそうだ。


1回目は1人。2回目は5人。そして、今回が私たちの3人らしい。


何故、たった3回なのかというと、召喚したあとは、期間を置かないと、召喚できないようだったらしい。


1回目の召喚をしてから、半年ほど経ってから、2回目の召喚が成功したそうだ。そして、さらに半年が今回の3回目のようだ。半年後に4回目の召喚を行う予定だそうだ。


人数は山本さんが決めたわけではなく、そこは山本さんも分かっていないらしい。


唯一、勇者を召喚できた山本さんは、人々の希望の光となり、神官長として、そこそこ敬われているそうだ。


だが、召喚された勇者は、召喚された時点では特に普通の人ばかりだったそうだ。


それはそうだ。私たち3人もただの大学生だ。魔法が使えたり、剣が得意だったり、そんな能力はない。だって、今まで生きてきて、そんなものに関わったことはないから。


けど、勇者が普通じゃなかったのは、その成長速度と、得る力らしい。


1週間もすれば、戦い方を教えていた戦士たちを圧倒したらしい。


それで、人々は勇者に期待するようになった。


勇者は、戦い方を覚えることで強くなる。だから、勇者には訓練をさせているそうだ。


そう、私たちにはこれから3年間、戦闘の訓練をしてほしい。


そう言われたのだ…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ