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最近疎遠になった幼馴染が、勉強以外無能なガリ勉ぼっちの俺に告白をしてきたので俺も好きだと言おうとしたら嘘告白で絶望しました ~でも幼馴染の様子がおかしかったので無理やり家に連れていって問い詰めます~

「ありがとうございました。失礼します」


 高校一年生の十二月の放課後、俺――はやしつとむはペコっと頭を下げてから職員室を後にした。


 別に悪さをして教師に呼び出されたとかではない。授業の内容でわからない事があったから聞きに来ただけだ。


「さて、帰って問題集をやらないと……」


 特に誰に言うわけでもなく、ボソッと呟きながら、荷物を置いてきた教室へと向かって歩き出す。


 俺は勉強が得意だ。いや……得意って言い方だと語弊を招いてしまうか。正しくは、勉強しか取り柄がない。


 別に勉強が好きだから得意という訳ではない。


 俺の顔は、良く見積もっても中の下くらいの顔だし、身長も低い。会話も苦手で長続きしないし、コミュ力も皆無。おまけに運動も散々だ。


 こんな低スペックの俺がこの先の人生で生き残っていくには、勉強をして少しでも学力を上げないと生きていけない――そう思い、好きでもない勉強をしているだけだ。


 そんな訳で、いつもぼっちで勉強をしていたら、クラスの連中からはガリ勉とか言われている。正直どうでもいいが。


「……ん? 教室から話し声が聞こえる」


 外はもう暗くなってきているくらいの時間だというのに、一体誰が教室にいるのだろうか?


 まあ別に誰がいようと関係ないか。そう思っていると、とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ……紗香?」


 教室の中をそっと覗くと、そこには焦げ茶色の髪を綺麗なボブカットにし、クリッとした大きな瞳が特徴的な華奢な少女――如月きさらぎ紗香さやかが席に座って誰かと話していた。


 彼女は幼稚園の頃からの幼馴染であり、学校で唯一の知り合いと呼べる人だ。


 可愛い小物やぬいぐるみや冒険小説が好きで、とても心の優しい女の子だ。引っ込み思案なのが玉に瑕だけど。


 そして、俺の初恋の人で、今も密かに想いを寄せてたりする。


 入学したての頃は、よく一緒に登校したり飯を食ったりしていたんだけど、残念ながら夏前ぐらいから疎遠になってしまっている。


 一方の話し相手だが、ウェーブがかかった金髪を下ろしており、メイクやネイルもばっちりな、いかにもギャルっぽい女子——間宮まみやまりなだ。


 間宮は紗香の友達で、いつも紗香にべったりだ。夏前に友達になったようで……俺と疎遠になったのは、間宮が紗香と常に一緒にいるからだと思っている。


 俺としてはとても寂しいし辛い。でも、紗香は俺以外に友達が出来た事がない。


 だから俺としては、せっかく出来た初めての俺以外の友達との楽しそうな時間を、俺のワガママで潰すのは申し訳なく思い、今日まで何も言わずにそっとしている。


 ……まあそのせいで、紗香から話しかけられる事も連絡される事も無くなり、完全に疎遠となってしまっているのが現状だ。もしかしたら、嫌われたのかもしれない……。


 いや、弱気になっちゃダメだ。今は疎遠になってしまっているが、もっと勉強して紗香にふさわしい男になったら、俺から告白をするって決めたじゃないか。


 っと、話が逸れてしまったな……話を間宮に戻そう。


 間宮は明るくて社交的、見た目に反して真面目なため、教師からの信頼も厚く、かなり勉強が出来る。確かずっと学年で二位だったはずだ。


 ちなみに一位は俺なんだが……上位発表者が掲示板に張り出された時、凄い形相で睨まれた事がある。


 あの時はさすがにちょっと怖かったな……そんなに一位になれなかったのが悔しかったのだろうか?


 まあそれは置いといて。こんな時間に二人で何をして……あ、机に教科書やノートが広がってる。って事は勉強をしていたのだろう。


「まりなちゃん、今回も勉強を教えてくれてありがとう。お礼は何がいい? また駅前のクレープ?」

「それもいいんだけどー。紗香にして欲しいことがあって!」


 間宮はニヤリと笑うと、ヒソヒソを紗香に何かを耳打ちする。


 一体何の話をしているのだろう……流石にここからじゃ聞こえない……まあいいや、さっさと荷物を回収して帰らないと、勉強する時間が減ってしまう。


「あ、勉くん……」

「……ちっ」


 教室に入ると、すぐに二人の視線が俺へと集まる。


 だが、二人の反応が全く違う。紗香は気まずそうに視線を逸らしたが、間宮は舌打ちをしながら、敵意を剥き出しにするように睨みつけてきた。


「勉強の邪魔してごめん。じゃあな」

「あ……うん。また、ね」


 それだけ言うと、俺はさっさと教室を後にした。


 本当はまた前みたいに紗香と話をしたいけど……我慢だ。折角の友達との時間を邪魔はしたくない。


 したくはないけど……やっぱり辛いな。俺は自分で思っている以上に、紗香の事が大好きなのかもしれない。



 ****



「勉くん、来てくれてありがとう」

「……いや」


 翌日の放課後、『お話があるので、放課後に旧校舎裏に来てください』という内容の手紙を俺の机の中から見つけ、その指示通りにやって来たら、そこには紗香が立っていた。


 こうやって紗香とまともに話すのなんていつぶりだろう……でも、急にこんな人気のない所に呼び出して、一体何の用なんだろうか?


「それで、話ってなんだ?」

「えっと……その」


 紗香に問いかけると、紗香は言いにくそうに口ごもっていた。


 ……本格的に要件がわからない。話すなら別に教室でも良いと思うんだけど……いや待てよ? 人気のない場所に呼び出して、しかも言いにくい内容って……もしかして紗香は……。


「勉くん、あなたの事が好きです。あたしと付き合ってください」

「…………」


 まさかとは思ったが、本当に告白だったとは……開いた口が塞がらないとはまさにこれだろう。


「紗香……俺……」

「……ぷっ」


 俺も紗香の事が好きだ――そう言おうとした瞬間、紗香は急にクスクスと笑い始めた。


「……なーんてあたしが言う訳ないじゃん! なになに、勉くんってば期待しちゃった? バッカみたい! あははは!!」


 クスクスから爆笑に変わった紗香は、俺を嘲笑うように腹を抱える。


 え……さっきの嘘だっていうのか……どうして……そんな嘘をつくんだ……?


「どうどう? 最近関わらなくなった……幼馴染に呼び出されて告白だと思ったら、まさかの嘘でしたーって言われるのってどんな気持ち?」

「…………」

「勉くんみたいなガ……ガリ勉なんて好きなわけないじゃん!」

「紗香……どうして……」

「どうして? ずっと昔からつきまとわれて、やっと……離れられたのにチラチラ見てきて、もう我慢の限界だったから! 本当にキモ……キモすぎ!」


 俺が知っている、内気で大人しい紗香の言葉とは思えない程の煽り文句言いながら、紗香はもみあげ辺りの毛先を指でクルクルする。


 この仕草は――


「そんな訳だから、もう……もう話しかけ……話しかけたり、チラチラ見て来ないでよね。正直キモいし、勉くんなんか……大……だい……」


 大嫌いと言おうとしたのだろうが……それを言い切る前に、俺は紗香の手を掴んでその場から駆け出した。


「きゃっ……いたっ……勉くん、やめ……」

「いいから来るんだ!」


 俺は全力ダッシュで紗香の手を引っ張って学校を後にすると、徒歩で十分程度の所にある俺の家にまで連れ込んだ。


 幸いにも両親は共働きで、今この家には誰もいない。これなら誰にも邪魔はされない。


「つ、勉く……ん?」


 紗香はやや怯えた表情で俺を見つめる。いくら幼馴染とはいえ、いきなり理由も告げずに家に連れ込まれたら、警戒したり怖がるのは普通の事だろう。


 でもさっきみたいに急いで連れてこないと、あの場面を見てる可能性のある間宮がついて来てしまう。それでは意味がない。


「……紗香、なんであんな嘘をついた?」

「嘘って……だって嘘告白だし……」

「そうじゃない。あんな心にも思ってない悪口を、なんで言ったのかって事だ」

「う、嘘じゃないもん」


 さっきまでの態度とは打って変わって、とても細々とした声で答える紗香は、また毛先を指でクルクルしている。


「紗香は嘘が下手すぎる。知ってるか? 今もだけど、嘘をついてる時の紗香は、もみあげの所の毛をクルクルする癖があるのを」

「え、うそ……」

「本当だ。それに……嘘告白をするような人間が、そんな今にも泣きだしてしまいそうな……辛そうな顔をする訳がない。そして、優しい紗香が人を傷つけるような事を、自分からする訳がない」


 自分の癖に気づいてなかったのか、紗香は目を丸くして驚いていた。


 正直に言うと、言われた時は死ぬほど辛かった。本当に目の前が真っ暗になりかけたくらいにはショックだった。多分あのまま別れていたら、その足で自分からトラックにひかれに行ってたと思う。


 でも、今紗香に言ったように、彼女の態度……そしてそんな事をする子じゃないと思い、なんとか冷静さをなんとか取り戻した俺は、こうやって誰にも邪魔をされない場所で真相を聞こうと思ったわけだ。


 ……我ながら随分とぶっ飛んだ事を思ったり、行動してしまったな。


「どうして……わかるの?」

「どれだけ一緒にいたと思ってるんだ? それくらいわかる」

「勉くん……うぅ……ごめ、ごめんなさい! ごめんなさい……!」


 紗香は大粒の涙を流しながら、何度も俺に謝罪を述べる。


 そんな泣かないでくれ。好きな人に目の前で泣かれたら、俺も辛くなってしまう……そう思った俺は、紗香の頭を優しく撫でた。


「ごめん、なさい……ごめんなさい……! あだし、酷い事を……どんな罰でも受げるがらぁ……!」

「そんなの受けなくて良いから。なんであんな事をしたのか……聞いても良いか?」

「ひっぐ……ぐすっ……」


 なんとか喋ろうとしているが、嗚咽しか出てこない紗香。


 少し時間を置いといた方が良さそうだ……まだ親は帰ってこないから、話を聞く時間はある。


「落ち着いたか?」

「うん、落ち着いた……」


 泣き出してから五分程が経ち、ようやく泣き止んでくれたタイミングを見計らって声をかけると、目を真っ赤にした紗香は小さく頷いた。


「話してくれるか?」

「うん。あたし……最近よくまりなちゃんに勉強を教わってて、今日もテストが近いから教わってたの。それで、いつもお礼に何か奢ってあげたりしてたんだけど……今回は、奢らなくていいから勉くんに嘘告白をしてって要求だったの……」


 ぽつぽつと説明をしてくれる紗香に相槌を打ちながら、俺は耳を傾け続ける。


「そんな事、あたしはしたくなかった。でもまりなちゃんに、友達は言うことが聞くのが当たり前って言われて……やらないなら友達をやめるし、友達を裏切ったって言いふらすって言われて……」

「酷いな……」

「あたし、どうすればわからなくなって……! 昨日の夜からずっと悩んでて……その間に、まりなちゃんが勝手に手紙を書いたり、あたしをさっきの場所まで連れて行って……あたし、もう逃げられなくなっちゃって……!」


 なるほど、そういう事だったのか……事情は大体わかった。


 それにしても酷すぎじゃないか? 俺はよくはわからないが、友達ってもっと助け合うものじゃないんだろうか……?


 少なくとも、言う事を聞かせるっていうのはおかしいし、それに従わなかったら友達をやめたり、裏切り者だって周りに言いふらすのもおかしいと思う。


「本当にごめんなさい! ごめんなさい……!」

「落ち着け。紗香は悪くない。悪いのはそんな事を指示した間宮だ」

「あたしが悪いの! 嫌なら断ればよかったのに……その場の空気に流されて……勉くんに嘘告白なんてしたくなかったけど、まりなちゃんにも嫌われたくもなかった……そんな優柔不断な女なの!」


 紗香はパニックになってしまっているのか、幼子の様にイヤイヤと首を横に振りながら自分を責め続ける。


 困った……勉強しかしてこなかった俺には、こういう時にどう対処すればいいかの知識がない。


 いや、知識が無いからといって、放置するなんてことはあり得ない。不格好でもいい……俺の正直な気持ちを紗香に伝えよう。


「俺は怒ってもないし嫌ってもいない。むしろ、俺は紗香が自分からあんな酷い事をしたんじゃなかったんだってわかってホッとしているんだ」

「勉くん……でもあたし……」

「でもはいらない。言われた俺がいいって言ってるんだから、紗香はわかったって答えればいいんだ」


 紗香が自分で言っていたように、紗香は気が弱いせいか流されやすく、ノーと言うのがとても苦手だ。更に言うと、自分の事を卑下する癖もある。


 だから、こうやって多少強引にでもしてあげないと、紗香はずっと自分を許す事は無いだろう。


「許して……くれるの?」

「許すもなにも、俺は怒ってないしな。それに、嘘だったとはいえ、告白自体は嬉しかったしさ……」

「え……?」

「あっ……」


 ……しまった。紗香を元気づけようと考えていたら、完全に口を滑らせた……!


「い、今のは……その、なんていうか……」


 ま、マズイ……こんな所で告白なんてするつもりなかったのに……早く何かを言わないといけないのに、心臓がこれでもかってくらいバクバクして俺の邪魔をしてくる。それに顔が熱でもあるんじゃないかってくらい熱い。


「え、あの……その……本当に……? あたしを慰めるためとかじゃなくて……?」


 紗香は頬を紅潮させながら、俺の事を上目遣いで見つめてくる。


 完全に想定外の状況だけど、ここまで来て違うなんて言ったら、それこそ紗香は傷ついて立ち直れなくなる可能性がある。


 なら、俺がやるべき事は一つしかない。


「慰めるためじゃない。幼稚園の頃からずっと、紗香の事が好きだ。俺みたいな勉強しか取り柄のない男と一緒に笑ってくれる紗香が好きだ。いつもは大人しいのに、冒険小説の話をする時は子供みたいにはしゃぐ紗香が好きだ。それから――」

「え、いやあの……その……やだ……ま、待って。嬉しいのと恥ずかしいので死んじゃいそう」


 まだ紗香の好きな所を言い足りないのに、俺は真っ赤な顔の紗香に口を手で優しく押さえられてしまった。


 ……紗香の手、めっちゃ柔らかいな。


「すーはー……すーはー……」

「……落ち着いたか?」

「ほんのちょっぴり……」


 紗香は俺の口を押えたまま、深く深呼吸をする。その間に、俺はそっと紗香の手を口から退かしながら聞くと、紗香は小さく頷いた。


「あたしね、ここに来る間に凄く後悔してたの……あたしが嫌だってはっきり言えなかったから、人生で初めての告白……それも、大好きな人への告白が、嘘告白になっちゃったって……今更何言ってんだって思うよね」


 紗香……今、大好きな人って……まさか、紗香も俺と同じ気持ちなのか……?


「だからね、勉くんが良かったら……あたしにもう一度チャンスをください」


 深々と俺に頭を下げる紗香の肩に手を乗せながら、「もちろん」と咄嗟に答えると、紗香は真剣な表情を俺に向ける。


「今度は嘘告白じゃない。あたしも……子供の頃から、勉くんが好きです」


 真っ直ぐと俺を見つめる紗香の言葉と気持ちは凄く嬉しい。だけど……どうしても俺には紗香の気持ちが信じられなかった。


 何故なら、俺が一方的に紗香の事が好きだと思っていたし、俺のような勉強以外のスペックが低い男よりも、良い男は沢山いるはずだ。


 だから……俺は自然と自分を卑下する言葉を言い始めてしまった。


「ほ、本当に俺の事が好きなのか? 俺、ブサイクだぞ? 目つきも悪いし」

「悪い、かな……? キリッとしててカッコいいと思うよ?」

「チビだぞ」

「大きければいいってものじゃないと思うよ……?」

「運動出来ないぞ」

「出来なくても、いつも頑張って体育に取り組んでるの、あたし知ってるよ。そういうの、凄くカッコいいと思う」

「コミュ力ないし、友達も全然いないし、会話も苦手だぞ」

「それなら……あたしも仲間。勉くんとまりなちゃんしか知り合いはいないし、会話も凄い苦手」

「ガリ勉とか言われてるぞ」

「そんな風に言われるほど、勉くんは勉強を頑張ってるって事だよ」


 何を言っても紗香に言い返されるのを繰り返していると、紗香はムッとした表情を浮かべながら、俺の手を握った。


「あたしは何を言われても……勉くんは魅力的だと思うし、カッコイイと思うし、好きなのは変わらないよ。って……人を騙しておいて、なに偉そうに言ってんだって感じだけど……」

「……ありがとう。紗香、俺と付き合ってくれるか?」

「はい。よろしくお願いします」


 間髪入れずに返事を返してくれた紗香の事を見ていたら、俺は自然と笑顔になっていた。それに釣られるように、紗香もようやく笑ってくれた。


「本当に嬉しいよ。夏前ぐらいから話しかけて来なくなったから、てっきり俺の事が嫌いになったのかと……」

「そ、そんな事無いよ! あたしが勉くんのご飯を誘おうとしたり、一緒に帰ろうとすると、タイミングよくまりなちゃんが話しかけてきて……それが続いたら、話しかけにくくなっちゃって……それに、凄い勉強を頑張ってるから、邪魔したくなくて……」

「そうだったのか。俺も紗香が間宮といつも飯も登下校も一緒にいるから、邪魔しないようにって思ってて……あと、少しでも紗香にふさわしい男になるために、最近更に勉強に力を入れてて……」


 互いに互いを考えた結果、疎遠になってしまっていたんだな……変なすれ違いが起こったものだ。


 ……待てよ? よく考えたら、なんかおかしくないか? そんなに都合よく間宮が話しかけてくるか? 毎日登下校が一緒っておかしくないか?


 もしかして……間宮は意図的に俺と紗香が一緒にならないように仕向けて、疎遠になるようにしたんじゃないだろうか。


 それに、間宮が紗香に半分脅すような事を言って嘘告白をさせたのも気になる……ちょっと調べてみる必要がありそうだ。


「紗香、ちょっとお願いがある」

「お願い? あたしに出来る事なら何でもする!」

「ありがとう」


 俺は紗香にして欲しい事と、その目的を端的に説明をすると、やや驚きながらも頷いてくれた。


 さて、一体間宮は何が目的だったのか……白黒はっきりさせようじゃないか。



 ****



 翌日の放課後、俺は紗香に嘘告白をされた旧校舎裏に、再度足を運んでいた。


 そこには、先に来ていた間宮が、旧校舎の壁に寄りかかりながら、退屈そうにスマホをいじっていた。


 ちなみになんでここに間宮がいるかだが、紗香にお願いをして、間宮をここに呼び出してもらったからだ。


 さて……事前準備は全てやったし、間宮の所に行くとしよう。


「あ、おっそいよ紗香……って……は? なんであんたがいるわけ?」

「俺がお前に用があるからだ」

「なにそれきっも。うちは紗香に呼ばれてここにいるんだけど?」

「紗香はここには来ない。俺が紗香に頼んで、お前を呼び出してもらったからな」

「はぁ? 意味わかんないだけど。うざいから消えてくんない? ていうか死ねば?」


 初っ端から敵意剥き出しだな。まあいい、別に俺はこいつと仲良しごっこをしにきたわけじゃない。


「そうだ! あんた昨日紗香をどこに連れていったわけ!?」

「連れていったって……なんで俺が昨日紗香と一緒にいた事を知っているんだ?」

「質問してるのはうちなんだけど!? あ、わかった! 人気のない場所に連れ込んでいやらしい事をしたんでしょ! うちの友達にそんな事をするなんて……最低! 死ね!」


 俺の言葉は都合よく聞かないようにできる耳を持っているのか、俺の質問をスルーした間宮は、凄まじい形相で俺に罵声を浴びせてくる。


 ……凄い妄想力だな。どんだけ俺の事が気に入らないんだか……尊敬の念すら覚えてしまうほどだ。


 一応言っておくと、人気のない場所に行ったのはある意味正解だが、あの告白の後、俺はすぐに紗香を家に送っていった。紗香に聞けば証言してくれるだろう。


 ていうか……こいつは本当に学年二位の学力を持つ生徒なのだろうか? あまりにも考え方が自己中心的というか、子供って言うか……お粗末すぎてついていけない。


「よくもまぁ……そんな発言ができるものだな。まあいい……お前に報告があってな。俺と紗香は付き合うことになった」

「…………は?」

「今まで、紗香につきまとって一緒に登下校したり飯を食ったり、俺よりバカなくせに紗香に勉強を教えてたりしてたみたいだけど、それはもう不要だ。それを言いに来ただけだ……じゃあな」


 フッと間宮をバカにするように笑いながら、俺はその場を去ろうとすると、背後から「待ちなさい!!」と、間宮の怒鳴り声が聞こえてきた。


「付き合うって嘘でしょ!? 紗香はうちの指示通りに嘘告白をしたのに!? うちの考えた台詞を紗香に言わせたのに、本当に付き合うとか信じられるわけ――あっ」

「へぇ、面白そうな話だな。詳しく聞かせてもらおうか」


 案の定乗って来たな。わざと煽ってやれば、俺を嫌っているこいつなら怒って口を滑らせると読んでの作戦だったんだが、見事にはまったな。


 もし乗ってこなかったとしても、恋人になったからって言っておけば、多少の牽制にはなるだろうという考えもある。


「実は、紗香から昨日の事の話は大方聞いていてな。だから、お前が何をしたのかっていうのは全部知っている。それで……なんでこんな事をしたんだ?」

「は? そんなの、うちが一番になるために決まってるし!」


 間宮はまるで開き直ったかのように、鼻をフンッと鳴らしながら、大きな声を上げる。


 一番に……? もしかして、テストの順位の事を言っているのだろうか?


「今まで何でも一番だったのに、うちが一番じゃないとかありえない……! だからあんたを精神的に揺さぶるために、唯一の知り合いだったあのブスに友達のフリをして、あんたから奪ったの! なのに……あんたはそれからもずっと学年で一番で、うちが二番……本当にむかつく!」

「紗香が……ブスだと……?」

「そうだけどなに? あんな根暗ではっきりしない女、明るくて可愛いくて、クラスの連中や先公に信頼されてるうちに比べたら、ブス当然っしょ! うちに利用されて、むしろ感謝してほしいくらい!」


 ここまで冷静にしてきたつもりだったが、今の発言には堪忍袋の緒が切れそうになった。眉間には勝手に力が入ってるし、握りこぶしもいつの間にか二つ出来ている。


 ただでさえこいつのせいで、俺はここ数か月の紗香との生活を奪われてて腹が立っているというのに……言うに事を欠いて紗香をブスだと……? 利用されて当然だと……!?


 いや、落ち着け俺。ここでキレても事態は好転しない。あくまで冷静に……淡々とこいつを追い詰めるんだ。


「紗香の事をブスとか言ってるけど、お前の方が何千倍もブスだな」

「は……? あんた、目が腐ってんじゃないの?」

「性根の底から腐ってるお前に言われるとはお笑い種だな。見た目もだが、紗香は心がとても美しい。人を疑う事を知らないで、お前みたいなクズの言う事を聞いてしまうほどにな」


 必死に感情を抑えながら、俺は更に間宮を煽っていく。このままもっとこいつの汚い部分を表に出してやる。


「はー!? もう本当に意味わかんない! あんなお人好しのブスなんて、ちょっと真面目にしただけで優等生と勘違いをしてるバカな先公と同じように、ころっと騙されただけっしょ!」

「……散々な言いようだな」


 つくづくクズだなこいつは……これ以上話していたら、俺の怒りが爆発しそうだし、自白も大体聞けた。そろそろお開きとしよう。


「あ、そうだ。言うの忘れてたが……この会話、全て録音してるから」

「はぁ!? ふざけんじゃないわよ! そんな卑怯な事して楽しいわけ!?」

「むしろ丸腰で来る方がバカだろ……言っておくが、別に脅すつもりはない。お前がこれ以上紗香に害をなすようなら、これをばらまく」

「脅すなんて信じられない……!」


 その発言、特大ブーメランすぎるだろ……流石にちょっと笑いそうになったぞ。


「お前も紗香を脅しただろ? その仕返しだ。わかったら、俺に勉強も勝てないうえ、紗香に可愛さも美しさも勝てない卑劣な負け犬は、俺達の前からとっとと失せろ!!」

「うっ……! 調子に乗って……! お前達、絶対に泣かせてやるんだから! 覚えておきなさい!!」


 涙目になりながら、まるで三下が逃げる時のような捨て台詞を吐いた間宮は、一目散にその場から逃げていった。


 あそこまで言ってやったら、流石に仕返しとかはして来ないと思うが……っと、そんな事を考える前に、さっさと呼んであげないと。


「紗香、終わったよ」

「うん……」


 俺が紗香の名を呼ぶと、物陰から落ち込んだ様子の紗香がトボトボと歩いて来た。


 紗香には、これ以上間宮と関わらせないようにするために、間宮の本性を聞いててもらったんだが……想像以上に落ち込んでいるな。


 そりゃそうだよな。友達と思っていた間宮は、実は俺をトップから引きずり下ろすために利用してただけだったんだもんな……紗香のためだったとはいえ、荒療治だった。


「紗香、大丈夫か?」

「ちょっとショック、かな……昨日の時点で少し変とは思ってたけど、あんなに酷い事を言われるとは思ってなかったから……」

「紗香……」

「でも、今のうちに知れてよかったかな! おかげで、早いうちに勉くんと仲直りできた、し……」


 そう言いながら、紗香は震える手で俺の手をそっと握る。口では強がってはいるが、やはりショックを隠せていない。


 なんとか元気付けたいをだけど……そうだ、良い方法を思いついた。


「紗香、今日も家の人は仕事で帰ってくるのが遅くて、家で一人なんだろ? 久しぶりにうちで飯を食ってきな」

「え、でも……」

「いいから。親父もお袋も、最近紗香に会ってないから会いたいって言ってたし。それに……付き合い始めたってちゃんと報告したいしな」

「勉くん……わかった」

「決まりだな。お袋に連絡を入れるから、ちょっと待っててくれ」


 流石にお袋に何も言わないのはマズいと思った俺は、スマホを操作してお袋に『今日紗香が飯を食いに来てもいいか?』という旨のメッセージを送ると、『すぐに呼びなさい!』と、なんとも前のめりな感じのメッセージが返ってきた。


 とりあえずこっちはオッケーだな。さて……あとは、こいつを送ってっと……。


「じゃあ行こうか」

「うん! おばさんのごはん、久しぶりだなぁ……」

「中学の頃まではよく食べに来てたもんな」

「懐かしいね」

「卒業してそんなに経ってないぞ?」

「あっ、言われてみればそうだね……ふふっ」


 俺達は手を繋いで他愛もない話をしながら、俺の家へ向かってゆっくりと歩き出すのだった――



 ****



 翌日、俺は久しぶりに紗香と一緒に登校をするために、紗香が住むマンションの前に立っていた。


 もちろん間宮に先に紗香の家に行かれないように、いつもより早くに迎えに来ている。


「おはよう、紗香」

「おはよう、勉くん。それじゃいこっ」


 紗香と合流をした俺は、手を繋いで学校に向かう。


 もう冬という事もあってとても寒いが、紗香と手を繋いでいると、身体中がポカポカしてくる。緊張もあるだろうが、それよりも嬉しさで身体が火照ってるのかもしれない。


「ちょっと!!」

「……ん?」


 せっかく紗香と一緒に楽しく歩いていたっていうのに、背後から鬱陶しい声が聞こえてきやがった。まあ……来るのは予想していたが。


「まりなちゃん……」

「紗香、そいつと付き合い始めたって本当!?」


 聞くというよりも、責めるといった方が正しいような声量と勢いの間宮から紗香を守るように、俺は一歩前に出た。


「……本当だよ。これからはあたしは勉くんと一緒にいる。だから……イジワルなまりなちゃんとは、バイバイなの」

「紗香は騙されてるだけだって!」

「残念だが、紗香は昨日の現場で俺達の話を全部聞いてる。もちろん、化けの皮が剥がれたお前の事も知っている」


 二人の話に割って入ると、間宮は睨み殺しに来てるんじゃないかと思うくらいの鋭い目つきを俺に向けてきた。


「ていうかあんた……!! 昨日の会話のデータ、ばらまいたわね……! さっきからクラスメイトから、どういう事なのかってメッセージが飛んできまくってんだけど!?」

「俺はクラスメイトの噂好きの奴に、お前と話す前に面白いものを後で送るからって言っておいて、後に録音データをそいつに送っただけだ」


 俺は指摘されても特に慌てず、淡々と答える。


 クラスメイトの男子、上手くやってくれたようだな……全く話をした事の無い間柄だったから、話しかけた時は怪訝そうな目で見られたけど……勇気を出して話を持ち掛けてよかった。


「言い訳なんかしてんじゃないわよ! あんたがばらまいたと同じじゃないの!」

「同じではない。言葉は正しく使おうな」


 ただの屁理屈なのは言われなくてもわかっているが、間宮を煽るためにわざと言う。それくらい、俺はこいつに対しての怒りがあるって事だ。


「人を騙せば、自分も騙されるって事だ。まあ一つ言っておくなら……あんな少し怒鳴った程度で、俺の幼馴染を利用した挙句、ブス呼ばわりされた怒りが収まるわけないだろ? 勝手に俺がばらまかないと思い込んだお前の負けだ」

「くっ……このっ……!!」

「さっさと学校に行って、言い訳の一つでもしてこいよ、学年二位の優等生さん?」


 そう言うと、間宮は忌々しそうに俺を睨みながら、急いでその場から去っていった。学校に行って言い訳をするのか、それとも家に逃げ帰るのかは知らないが……もうこんな卑怯な事をせずに、正々堂々とテストで勝負を挑んできてもらいたいものだ。


「もしかしたら謝ってくれるかもって思ってたけど、全然そんな事無かったなぁ……」

「だな……じゃあ行こうか」

「あ、ちょっと待って」


 紗香は何故か辺りをキョロキョロと見渡してから、俺の事を潤んだ瞳でジッと見つめる。


 一体どうしたというのだろうか――そんな事を考えていたら。


「ちゅっ」


 紗香の小ぶりだけど柔らかい唇が、俺の頬にちょんと当たった。


「え、え……??」


 まるで想定していなかった事態に、俺の思考は完全にフリーズした。


 い、今……頬に紗香の唇が……え、俺キスされたのか……えぇ??


「その、今回はありがとうって気持ちと、これからは彼氏さんとしてよろしくねって事で……ご、ごめん。嫌だった……?」

「全然嫌じゃない!」

「よかった。それじゃ、今度こそ行こう!」


 顔を真っ赤にしながらも、明るく振舞う紗香に手を引っ張られた俺は、一緒に学校へと歩き出す。


 思わぬ形で紗香と結ばれたのはとても嬉しいが、この先には数々の試練が待ち構えているだろう。


 でもきっと――紗香と一緒なら乗り越えられる。俺はそう信じている。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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それと、ただいま別のラブコメを連載しております! いじめのせいで絶望していた主人公が、幼い頃に離ればなれになってしまった幼馴染兼婚約者と再会したのをきっかけに、幸せな生活と楽しい学校生活を目指して頑張るお話です。時にざまぁ、時にイチャイチャするお話です。


ページ下のリンクから読めるので、そちらの方も応援していただけると嬉しくです!


それでは、また別の作品でお会いできることを祈っております。

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