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森の中の月子診療所

作者: 上野公子

人って、助け合わなければ生きていけないんだよ。

おそらく、ほとんどの人はそんなこと知っている。


人って、誰かに認めてもらえないと生きていけないんだよ。

おそらく、それも、なんとなく気づいている。


でも、そんなこと知ってても、気づいていても

孤独を感じ、助けても言えない人って・・・・・・

結構たくさんいるんだよ。


じゃあ、私はどちら側の人


心も体も元気な時は、助ける人側。


でも、ちょっとしたことで、自信をなくし、

ちょっとしたことで、体調を崩すと、

助けられる人側になる。


当たり前だけど、どちら側にも私は居るのだ。


でも、どちら側にも行き来する私は健全で、

おそらく、ほとんどの人は、何をあたりまえのことをと思うだろう。


でも、みんなと違うことが重なると

それは、どちら側にも行けず

別世界の人になる



月子診療所に

一人の青年がやってきた


その青年は、

月子さんに、静かに話しを始めた


彼は

何が違うのか、何がおかしいのか、

ほんとうの自分がわからなくなったと話す

彼は、私の人生の中で、出会った

これまでで、一番こまった人だったのだ。


彼は、とても愛されて育った。

彼がお腹が空いたと言えば

祖母が、おいしいおにぎりを作ってくれた。

母が、ホットケーキやドーナツを作ってくれる。

遊んで欲しいと言えば、

祖父が、竹とんぼやけん玉、竹馬で遊んでくれたし、

父は、サッカーや野球のキャッチボールをしてくれた。

みんな彼には、やさしい笑顔で

そばに居てくれた。


でも、そんな生活は、幼稚園に通い出したころから

少しづつ、変わっていった。


彼は、先生がみんな仲良く遊びましょうと言えば

仲良くが何を言っているのかわからなかった

遊ぶということは分かる

祖父や父と遊んでたから

だから、彼は、友だちにボールを投げた。

だから、彼は、遊具置き場から、竹馬を持ってきた。


いままでだったら、みんな、褒めてくれた。

上手に竹馬を乗って歩いたら、凄いってね。


なのに、先生は

ボールをお友達に投げたらいけません。

今、竹馬はしません。

って、言うんだ。


仲良くってどんな遊びなの

だれも、それを説明してくれなくて、

結局、彼は、彼が思う

仲良くを試行錯誤するうちに

問題行動ばかりする子になっていた。


ほかのみんなは、誰かと一緒に行動し

にこにこと楽しいそうだ


彼は、誰も近くに居ない

家に帰ると、祖父と祖母は

かわらずに、彼を笑顔で迎えてくれるけど


父と、母は、

困った顔をするような日が増えて行った。

父も、母も

先生の言うことを聞きなさい

友だちを怖がらせたらいけません

っていうけど、

彼は、何も意図的に問題を起しているのではない


自分では、素直に気持ちを表現しているのに、

他と違うからと、注意され、

自分では、素直に行動しているのに、

それも、違うと注意され、

みんなは楽しく過ごしているけど、

自分は、全く楽しくない。

みんなは、褒められて、うれしそうだけど、

自分は、なんでみんなが褒められているのか、

なにがうれしいのかわからない。


そんなことが、いくつもいくつも繰り返されて、

ますます、自分がわからなくなって、

気が付けば、自分は、誰にも理解されない

困った人になっていた。


と、彼は、私に話してくれた。


月子さんは、彼に言いました。


心の声を誰かに話したことはありますか?

誰か、あなたに、何で?と理由を聞いてくれたことはありますか?


お互いの考えてることなんて、一致することが奇跡であり、たいていは、ズレている。


でも、ズレが大きすぎると、立て直すのは難しい。ズレは、ズレてると自覚すると、途中で調整できる。

でも、ズレを自覚しないと壊れるまで気が付かない。


だからね、面倒だけど、声に出して、何で?は伝えないといけない。

言い訳は良くないって言われるだろうけど、言い訳は、納得できないから出てくること。

それを誰にも言えないのは、とても辛い、

何がダメだったのかもわからない。


誰も言い訳を聞いてくれないなら、いつでも

ここに来て話してください。


そうそう、私は、何も思わず無意識に人を傷つける、何も考えずに行動する、言動、行動に何も理由がない人が一番困った人だと思いますよ。


青年は、少しだけ、気持ちの整理ができたみたいだ。


また、こちらに来させてくださいと言い帰って行った。


月子さんは、青年を見送り、

呟いた。


誰にも理解されてないなんてことはないと言いたいところだけど、

それは私が思っていることで、その人はそう思わないから、孤独を感じているのだ。


その人に、気持ちの表現をこういう形で伝えてみたらってアドバイスをしたとします

それって、もし、自分なら、それは素直な表現となるのでしょうか


みんな、小さい頃は、物事の良し悪しが分からないから大人に教えてもらい

正しいと思われる行動を学んでいく。

でもそれは、親や周りの期待と愛情を感じるから素直に学べるのだ。


大多数の普通に、私たちは当てはめて生きていくのが当たり前の社会の中で

大多数の普通に当てはめて生きていけない人は、自ら進んでその道を歩んでいるのではないのに

理解を得られるように努力を強いられ、社会で生きて行かなければならない


私たちは、そんな人を知らず知らずに、分かり合えない人にしている、


同じ人間、お互いさまなんだから


そんな人が居ることを無関心で生きていける社会ではなくなっているのだということを

私たちは気づかなければいけない。


産まれた限りは、心穏やかに、助け合い、安心して暮らせる社会は誰にでも約束されることであり、

それが、できないことを、人の責任にするのもおかしく、社会情勢、制度の責任にするのもおかしい


素直な表現を受け止め、そんな表現の仕方をする人を当たり前の人として

まず私たち自身が思わなければ、きっとその人の孤独は解消されない。


どこかで、理解できない人と思っている限りはいくら、助け合う社会と思っていても言葉だけが先走り、

いつまでたっても、進まないのだ。


自分自身の事だって、ちゃんとわかっていないのに、

他人をわかるなんてことは、無理な事。

それを分かった上で、知りたいと思う気持ちが、大事だと思うのです。

自分に心地よい人には、好意的な興味

自分に心地悪い人には、悪意、疎外するのでは、世界平和は生まれない。

壮大なことを言ってるけど、かならず、自分に降りかかることである。


誰もかれも、自分の正義で生きている。

誰も、自分は愛おしい。

言動、行動には、ちゃんと理由があるのだ、思いがあるのだ。だから、それがダメだというなら、先に理由を聞いて欲しい、そうでなければ、納得できない。そうでなければ、振り返り、次に進むことすらできない。


みんな、自分のこと知るのに精一杯。人のことまで理解する余裕ない。

みんな、何に急かされているのか、


世知辛い世の中に、

月子さんのため息は、とても深く、

森の中の月子診療所は、

いつまで経っても、消えない。



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