【短編版】「気が触れている」と王家から追い出された俺は自説通りに超古代銀河帝国の植民船を発見し大陸最大国家を建国する~今さら帰って来てくれと言ってももう遅い!超テクノロジーを駆使した俺の建国史~
――気が触れているとしか、言いようがない。
――そんなに死の砂漠に興味があるならばよかろう! 丸ごと貴様にくれてやる!
――そこで貴様が妄想した最大最強の国家とやらを建国してみせるがよい!
――その代わり、今日これより貴様は王子でもなんでもない! 家系図からも抹消してくれるわ!
……我が親愛なる父王殿よりそのような言葉をたまわってから、早五年ほどになるだろうか。
手切れ金として渡された我が領地、死の砂漠……その地下深くに存在する巨大な空間で、俺は哄笑を上げていた。
「やった……!
――やったぞー!」
今まで、何度となくこの瞬間を夢想してきたはずなのに……。
いざ、実際にそれを迎えてみると語彙力を失ってしまうものである。
だが、それも致し方あるまい……。
今、目の前にあるモノ……。
それは、王家に伝わる古文書をもとに俺が探し求めてきた――超古代文明の遺物なのだから。
一見するならばこれは、船舶……のように見える。
だが、ガレー船のような櫂も、帆船のようなマストも存在しない……。
鉄どころかミスリルとも異なる、神秘的な金属で形作られた船体は両舷部を翼のように緩く湾曲させており、およそこれを動かす仕組みのようなものは見当たらなかった。
それに何より……でかい!
自分の腕などをもとに計算してみるが、全長はおよそ260メートル。全高は30メートルほどもあるだろう。
浮遊術で浮き上がり確認したところ、甲板は存在せず、船体上部は美しい曲線を描く装甲で覆われていた。
こうして俯瞰してみると、巨大な鳥類のようにも見えなくはないな……もっとも、竜種でさえここまでの巨体は確認されてないが。
そのようにしながら、観察していた時だ。
『マスターと同様の遺伝子情報を確認……。
遺言に従い、あなたを新たなマスターとして設定することが可能です』
果たして、どこからそれを発しているのか……。
透き通るような女性の声が、眼下の船舶から発せられた。
驚き、浮遊術の制御を誤ってしまいそうになるが……どうにか気を取り直し、尋ねる。
「それはつまり……これから先、俺の望む通りにお前の力を使えるということか?」
『イエス。マスターとして登録して下さるなら』
間髪を入れず、質問への答えが返ってくる。
それに満足しながら、続く質問をぶつけた。
「では……お前の力を使って、どんなことができる?」
『質問内容が漠然としています。
もう少し、範囲を絞ってご質問ください』
「そうだな……」
そう言われて、質問内容を変えることにする。
「この空洞の上……地上では不毛な砂漠地帯が広がっている。
それを、緑あふれる大地に変え、豊かな国を作ることはできるか?」
『それは――』
続く言葉は、俺を大いに満足させるものであった。
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――この光景は、いかなることか!?
ロンバルド王国の将軍、ダイセルは眼前の風景を見て我が目をうたがった。
それも、無理からぬことであろう……。
大地には、青々とした若草が生い茂り……。
果たしてどこから連れて来たものか……野生の馬や牛が群れを成し、行進している……。
遠くには巨大なオアシスと、そこを水源にしているのだろう広大な水田地帯が見えているが、そんなものここにあるはずがない。
――死の砂漠。
六年ほど前、狂気王子と呼ばれた第三王子に手切れ金代わりとして与えられたのが、この地のはずである。
その名が差す通り、大地はどこまでも不毛。
生気も水気も一切感じさせぬ砂ばかりの風景が、ここには広がっているはずだったのだ。
それが、見るからに豊かな緑地と化しており……。
そして、自分が率いる王国軍と相対するように、奇妙な装いの兵士たちが布陣している。
兵士たちはいずれも人の耳を持たず、代わりに頭頂部から獣のごときそれを生やしていた。
――獣人。
死の砂漠を挟んだ隣国、ファイン皇国における被差別種族だ。
それだけでも奇妙であるが、彼らが身にまとった装備の奇抜さときたら……!
彼らはいずれもが、頭部以外全ての部位をびしりと覆う純白の鎧を身に着けていた。
装甲部以外は漆黒の下地に覆われており、地肌というものは一切うかがえぬ。
大地こそ豊かになってはいるが、日差しの鋭さと気温は砂漠のままであり、暑くはないのかと思わされるが……彼らは皆、暑さや鎧の重さを微塵も感じさせぬ軽快な動きをしていた。
そして、獣人兵全てが手にしている奇妙な筒……。
一見すれば、ごく一部の地域で用いられている鉄砲と似ている。
だが、見たこともない素材で作られたそれは、ダイセル将軍の知識にある鉄砲より明らかに完成度が高く……。
そして、はるかに凶悪な威力を持つのであろうと彼に直感させた。
不毛な砂漠地帯を緑豊かな大地として蘇らせ、そこへいかなる手段によってか家畜となる生物や兵となる獣人たちを招き入れる……。
それを成し得たのは、上空に浮かぶアレの力があってこそであろう。
――超巨大な怪鳥。
――あるいは、船舶。
上空に浮かぶそれを見て思い浮かぶのは、そのような言葉である。
全長200メートル以上もあるであろう巨体は、あますところなく神秘的な輝きの金属で覆われており……。
底部からは、摩訶不思議としか言いようのない光が発せられ、これを浮き上がらせていた。
これの正体を、ダイセル将軍は知っている……。
――超古代文明の遺物!
これの存在を主張し続けた第三王子は、果たして狂気王子などではなかった。
その主張通り、見るからに凄まじいそれは実在しており……彼の執念によって、今ここに蘇りその力を振るっているのである。
「王子! そこにおわすのですか!?」
駄目でもともと……。
上空に向けて呼びかけてみるが……。
『いかにも!
……久しぶりだな、ダイセル将軍』
果たして、遺物からは六年ぶりの懐かしき声が大音量で響き渡った。
ごくりと喉を鳴らし、続く言葉を放つ。
「王子の研究が正しかったこと! そして、それが想像以上の力を持っていたこと!
私が、確かに確認いたしました!
――どうか国元へ戻り、その力を使ってくだされ!」
沈黙が、かつての砂漠地帯を満たす……。
背後に控える兵たちのみならず、前方に布陣する獣人兵たちも緊張し固唾を飲んでいるのが伝わってきた。
やがて、答えが返ってくる……。
『師父とも崇めるお前の頼み、できるなら聞き入れたいところだ……。
――だが、もう遅い!
ここに我らは独立を宣言する!』
その言葉に、獣人兵たちが筒を掲げながら歓喜の声を上げた。
それこそが、建国史の第一ページ……。
後に大陸最大の版図を持つ国家の、産声だったのである。
※連載版初めて見ました→https://ncode.syosetu.com/n8731gs/