神との出会い
山に住む前に宛もなく彷徨っている時に見かけただけの森なので、本当にこの方角で合っているのか不安になりながらもヴェルーナは飛び続けた。竜種は5日は飲まず食わずでも飛べるため、あのしつこい赤竜にも追いかけられないよう休まずに飛んだ。
そうして飛び続けること3日。目的の森がようやく見えた時、ヴェルーナはほっとした。
50mは優にある大木が箱状に囲んでいるその森に降り立つと、太陽の光が優しく白金の鱗を照らした。
(まずは寝床を探さなければ)
寝床に適した場所を探すため、森の中を歩きだす。木々は青々と生い茂り、果実が実っている木もある。食べることには事欠かなさそうだ。
ヴェルーナは木よりも小さい。これはヴェルーナだけではない。ここら一体の竜は皆そうだ。体は大きくないが、強く、知能も高い竜は「古竜」と呼ばれる。
3日前のしつこい赤竜も古竜で、あの山に住んでる者は皆古竜だ。
『古竜』は、とても珍しい。普通の竜より小さいが、さまざまな生物に姿を変えることが出来る。その物珍しさから人間に狩られることもあり、古竜は人気のない場所に好んで住む。
しばらく歩くと、大きな湖が出てきた。水が澄んでおり、湖の底が見える。湖の淵に沿って歩いていると、近くに窪地を見つけた。ヴェルーナの大きさにぴったりだ。その窪地を寝床にしようと決め、敷き詰めるための草をかき集める。と、草の中できらりと何かが光った。
手を伸ばして拾うと、綺麗な鏡だった。花の模様が施された美しい鏡。
鏡に見入っていると、鏡が突然光った。あまりの強さにヴェルーナは気を失った。
夢の中で、誰かが呼んでいる。
「おいっ」
銀色の腰まである長い髪に、海のような青い瞳。その顔は整っており、いつか見た彫刻のようだとヴェルーナは思った。と同時に、彫刻などいつ見たのかわからず、首を傾げた。彷徨っていた時は人を避けていたし、竜の山に彫刻などない。
不思議に思っていると青年の強い眼差しと目が合った。
「お前は、今日から『神竜』だ。」
彼の姿が、ぼやけていく。
目が覚めると、空は赤く染まっていた。かき集めた草の上に倒れ込んでしまったため、草が散らばっている。
何が起こったのか分からないが、手にしていた鏡を窪地のそばに置き、草を再びかき集め窪地に敷き詰めた。
寝床の出来に満足していると、額が熱くなった。先ほど拾った鏡を手に取り、額を見た。
鏡を覗いたヴェルーナは驚いた。
額に青い物が付いている。先程夢に出てきた青年の瞳を思い起こす青いもの。擦っても取ることはできない。
その時、さっき見た夢で青年が言っていたことを思い出した。『神竜』と言っていた。
昔、山の長老が言っていた。
『神竜とは、神に認められた竜の事。誰もが敬う竜だ。その証に、青い珠が体のどこかに付くのだ。もう長いこと神竜は現れていないがな』
(ということは……私は、神竜?)
そんなことを考えていると、鏡からふわふわした銀色の丸い物が出てきた。ふよふよと宙を浮いている。ひっくりかったと思ったら、一対の青い眼が出てきた。
ヴェルーナよりも、深い青い眼。
ヴェルーナは、眼を細めた。
(これは何だ?)
生き物なのか、などと考えていると、玉が喋り出した。
「ふんっ、我は神に決まっているだろう」
(神って……)
「神は神だ。」
居丈高な物言いでその球体は言った。
「お前は、俺の竜だ。」
これが、神とヴェルーナの出会い。