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二代目殺戮の大魔王として召喚されたけど正直しんどい  作者: 振木岳人
◆ 序章 バシレイオスと言う名の意味
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04 忌み嫌われる者



  ◆ドロコサの街

 リィガの台地を内陸側東に進むと、その台地の外縁に小さな街がある。それがドロコサ。

 過酷な環境に置かれるリィガの地を迂回しながら作られた南北に伸びる交易路の中継地点であり、先代バシレイオスの聖地であるリィガへの巡礼の拠点でもある。

 だが悲しいかな、七年前に逝去した時は盛んにこの地を訪れバシレイオスを偲んでいた者たちも、時と共に記憶が風化し、今となってはこのドロコサの街も、交易商たちが旅の疲れを癒すだけの街となってしまった。


 赤茶けた道を挟み数件の宿と食堂が並ぶ寂しげな中心街と、交易路を挟んでおよそ三十件ほどの個人宅が並ぶだけの簡素な街。その中でも比較的安宿の部類に入る「トンビ亭」に、エイジとイサベルは宿を取った。


 一階は食堂、二階三階は狭い個室が並ぶトンビ亭。夕方街にたどり着いたエイジとイサベルは、取り急ぎエイジの服だけ揃えた上でこの宿にチェックイン。そしてのんびり足を伸ばす前に腹ごしらえだと食堂になだれ込んだ。


「うわ、すごい、すごいね。周りの人たち皆んな魔物だ」

「もちろんですとも、ここは魔族の国ですからね。人間は一人もいませんよ」


 硬いパンをかじり、それを塩辛い野菜スープで胃に流し込むエイジ。周囲の席は魔物たちで溢れ、酒だつまみだと賑やかに騒いでいるのだが、初めて見る魔物たちが珍しいのか、キョロキョロと辺りを見回し全く落ち着いていない。

 鳥カエルの唐揚げをつまみにぬるいエールを楽しむイサベルは、見るもの聞くものにいちいち反応する大げさなエイジが可愛いのか、穏やかを通り越してうっとりと見詰めている。


「人間はこの国にいないの? さすがにちょっと安心出来ないよ」

「う〜ん、いる事はいますが魔物の食糧にされてしまう可能性がありますからね。絶対数は少ないはずです」

「人間は食糧? 」


 あり得ない事じゃないけど、あり得ない事じゃないけど! だったら俺も食糧にされちゃうよ、命の危険が迫ってるよこれ!

 急に慌て出したエイジは周囲から目立たないようにと肩をすくめて頭を下げる。うつむいたままイサベルに向かって早く部屋に戻ろうと声をひそめる。


「安心してくださいエイジ。あなたはもう人間じゃありません」

「うい? 」

「人間ではないのですよ、エイジ・バシレイオスは」


 イサベルがエールのお代わりをしながら語ってくれた内容によると、別の世界からこのティティエ大陸の世界に対して転生したり転移して来た者は、普通の人間が持たざる力を得るのだと言う。

 RPG風に言うところのオリジナルスキル、様々な固有スキルが与えられて、このティティエ大陸の世界での人生をスタートさせるのだそうだ。


「この世界の人間たちは、そう言う“力持つ者”を同じ人間とは呼びません。全く別の存在として“魔人”と呼んで忌み嫌っております」

「忌み嫌う? 」

「人間の男女が愛し合って新たな命が誕生する。その魂はこの世界のオリジナルでなくてはならないのに、異世界からやって来た魂に横取りされた。この世界の人間たちはそう言う概念でいるのです」

「じゃあ、俺も人ではなく魔人なのかい? 」

「そうです、魔人であり更にバシレイオスの刻印持つ者として、ムンムンと負のオーラを放っておりますよ」


 俺が魔人で、更にあの「ひらがな」の刻印がオーラを……?

 よくよく周囲を見渡して見ると、確かに魔族たちの視線を感じる。先方が気になってこちらに視線を向けて来るのだが、エイジが視線を合わせると慌てて目を背けている。

 それだけ自分は恐ろしい存在なのかと身震いしていると、気にする事は無いのだとイサベルがなだめる。


「まだ力のコントロールが出来ていないから、強くて不安定なオーラが漂うのでしょう。多分周りの魔族たちは、こんな田舎になんで上級悪魔がいやがるんだと怯えていると思いますよ」


 そう言ってクスクスと笑うのだが、エイジの瞳の奥に一瞬見え隠れした寂寥感にふと気付く。

 自分自身がもう人間ではないと言う事実がなかなかに受け入れられず、エイジは過ぎ去った日々を思い出しているのではと心配したのだ。


「エイジ、以前のいた世界であなたがどう生きたかは知りませんし聞きません。今大切なのは、これからあなたがどう生きるかなのです」

「そうだ、そうだね。力をどう使うかとか小手先の話じゃなくて、俺は俺としてこの先どう生きるかなんだよね」


 (うわっ、うわっ! その笑顔可愛い、可愛いいいい! )


「イサベル、ありがとう。イサベルがいてくれれば俺も安心だよ」


 (ああ、その曇りなき瞳で見詰められると、身体がトロけてキュン死してしまう! )



 かたやむせ返るような毒々しい負のオーラをこれでもかと放ち続ける謎の少年。かたやその少年に向かって徹底的にフェロモンを放つもガン無視される堕天使。

 悪寒や誘惑臭が渦巻くこの食堂、当事者以外の魔族たちは間違いなくこう思っていたであろうーーいい迷惑だよ! と



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