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二代目殺戮の大魔王として召喚されたけど正直しんどい  作者: 振木岳人
◆ 序章 バシレイオスと言う名の意味
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03 預言者イサベル・プーシェ





 リィガの台地は寒くて暑い。

 湿気を含む空気が西海岸から来る熱い上昇気流で内陸に押し戻されてしまう結果、年間を通して雨の降らない乾燥した土地でありながらも、緯度が高い結果夜は冷えた空気が降りて来る。つまり昼間と夜の温度差の激しい生き物の住み辛い環境となっている。


 そのリィガの中心で目を覚ました「新たな」相良映司は、その誕生を見届けた謎の美女ーーイサベル・プーシェによってエイジ・バシレイオスを名乗る事を促され、このティティエ大陸と言う聞き慣れない異世界で第二の人生を送らざるを得ない事を自覚する。


 ……もう、あの児童福祉施設に帰らなくて良いと言う安堵感はエイジの表情を幾分から和らげるのだが、ブタゴリラに対してアオイ姉ちゃんの(かたき)を討てたのかどうか、積年の怨みは果たせたのかどうかが今となっては確認する事が叶わない事と、アオイ姉ちゃんの墓前にそれを報告出来ない事が、今の彼から晴れ晴れとした笑みを奪っていた。



「えっきしゅん! いっきしゅん! 」

「陽射しは熱いですが風は冷たいですよ、風邪をひかないように気をつけてくださいませ」


 リィガの赤茶けた土地をトコトコと……

 愛嬌たっぷりに歩くロバの背に乗る二つの人影。

 謎の美女イサベルがロバの手綱を握り、その前には毛布にくるまって座るエイジの姿が。

 ともかく、エイジがこの世界で新たな生を受けた以上、いつまでも先代バシレイオスの祠にいるのは無意味だとして、内陸側にある一番近い街「ドロコサ」へ移動しようと促されたのである。


 ドロコサの街へは夕方までにたどり着ける事から、エイジの衣服も調達出来るし温かい食事と安全な寝床も確保出来る……


「わ、私は別にこのまま野宿でも構わないのですが……ふひひ」


 クンカクンカとエイジの耳元に聴こえて来るイサベルの吐息。どうやらエイジの匂いを吸い込んでいるようにも聞こえるが、その点について問いただしたらどんな結果を言い渡されるかたまったもんじゃないと、極力知らんぷりを重ねるエイジ。とにかく話題を健全な方向へ逸らそうと、脳裏に浮かんで来た疑問を片っ端からイサベルにぶつける。


「バシレイオスって何? 」


 つまるところ、細かな質問をふくめ全てがそれに集約されているのだ。


 エイジの質問に対してイサベルは丁寧に答え続けるのだが、総合すると「バシレイオス」とはこのティティエ大陸を恐怖に陥れた魔王の名前だと言う。


 二百年前に突如魔王バシレイオスを名乗る者が現れると、瞬く間にバラバラだった魔族を恐怖で取りまとめてその頂点に君臨し、統率された魔王軍はこのティティエ大陸の三分の二を手にするまでに至ったのだそうだ。


 ーーエルフやドワーフなどの亜人の国、そして人間が住む様々な王国に対して対等の立場を主張した殺戮の大魔王バシレイオスはやがて、兵を引きながら敵国に交渉を持ちかけ、ティティエ大陸を人間・亜人・魔族の三分割にする案で決定させ、魔族国家「バシレイオス」が誕生し、今に至るーー


「そのバシレイオスが七年前に逝去なさいました。その後国内は混乱に次ぐ混乱、クーデターに次ぐクーデター。先代が生きていればこんな事は無かったのに……」


 七年前と言えば、俺が九歳でアオイ姉ちゃんが自殺した年……ブタゴリラを殺そうと心に誓った頃だ。

 過去を思い出しながらバシレイオスとの時系列で奇妙な接点に気付き、それに何か意味があるのかと思案するも、それよりも何よりもイサベルの声が涙声に変わっている事に気付く。

 慌てて振り返って見ると、彼女は今にも泣き出しそうな哀しげな色に満ちており、涙がこぼれ落ちないように意識しているのか、うつ向かずに空を見上げているではないか。


「好きだったんですか? その、先代バシレイオスの事」

「恋愛感情は無かったですね。先代に対しては……そう、尊敬! 溢れるばかりの尊敬を長年抱いていました」


 ーーこのイサベルさんて人、一体どんな立場の人物なんだ? ーー


 うら若き女性のはずなのに、バシレイオス二百年の歴史を見て来たように語る人。そしてバシレイオスの傍らにいて予言を授かり二代目誕生に立ち会う事が出来る人などそうそういないであろうに……

 この人は特別な立場にいたのかなとエイジが疑問を抱いていると、その空気が伝播したのかイサベルはあっけらかんと語り出す。


「あ、そうそう。もちろん人間ではありません、私は堕天使です」

「だ、だだだ堕天使? 」

「はい、堕天使です。およそ五百年くらい前でしょうか、天界から叩き出されちゃいまして」


 この美女は普通の人間ではなく堕天使で、五百年以上も前から生きている……

 あらためてここは相良映司の概念が通用しない異世界なのだと実感しつつも、振り返りながらイサベルの顔をまじまじと見つめる。こんな綺麗な女性が何故追放されたのか気になっているのだ。


「そんなに見詰めないでくださいまし、恥ずかしいです」

「イサベルさん。イサベルさんはどうして天界から追放されたんですか? 」

「理由ですか? それはですね……」


 ーー実は私、天使の頃から少年が好きでして、その日も内緒で天界から下界におりて美少年探しをしていました。たまたま滝で水浴びをしている少年たちを見つけ、草むらに隠れてうっとりと眺めていたのでございます。躍動感溢れる筋肉、朝陽に輝くみずみずしい肌、そして可愛いアレ! もう我慢出来ぬ、これはもうスリスリするしかないと思った瞬間……ビカビカビカと雷に打たれて骨とか頭蓋骨とか透けて見えたと思ったら、その場でもう楽園追放決定です。


 (いかん、この人筋金入りのガチだ)


「しかし私後悔しておりません。追放はされたもののこの地で先代バシレイオスと出会い、不老不死の私は歴史の生き証人として語り継ぐ事を彼から求められ、そして新たなバシレイオス誕生に立ち会った。このイサベル幸せにございます」


 ……クンカ クンカ


「あの、イサベルさん? 」

「エイジ・バシレイオス、あなた様が頂点なのです。ですから私の事はイサベルとお呼びください」


 ……クンカ クンカ


「あのイサベル、その、俺の匂いかいでる? 」

「いえいえ、お気になさらずに前を向いてください。変な事はしませんから」


 (悪いヤツって大抵そう言うよ! )



 こうして、相良映司はエイジ・バシレイオスと言う新たな名前を自身に抱き、堕天使イサベル・プーシェの導きに従いながら、新たな世界にその一歩を踏み出したのである。




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