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表と裏のコンタクト

作者: 遥胡

ツッコミどころ満載です。苦情、指摘は一切受け付けません。広い心で全てをすんなり受け入れられる方が対象の作品です。

 

 止まることのない雨音が世界を遮断する。

 少し離れたところからもれる光が、こことの違いをよりハッキリとさせていた。

 だが、場所だけの問題ではない。自分自身が一般的な世界と切り離されているのだ。



 連日続く雨に、世間はうんざりしているようだ。帰宅時間なのか、傘で幅をとるにもかかわらず周囲から距離をとることも出来ず、結局体を濡らす羽目になり苛立ちがつのる。

 バイト帰りの浅岡詩織もその一人となるはずだった。

「もうこんな時間か。明日、朝から講義だし早く帰ろう」

 詩織が足を速めようとしたとき、ふと横に意識が向いた。

 そこにはビルとビルとの間に出来た細い道があった。街灯はなく、街の光も届かない暗闇だったが、そんなところは建物が多いこの街では珍しいことではなかった。

「こっちの道を通った方が早いかなぁ?」

 人通りの多いところを歩くより、こちらの方が早く進めるだろうという考えだ。道筋もそれほど複雑ではなく、最終的には自分の知っている道に出ると記憶している。詩織は躊躇うことなくその暗闇へと足を踏み入れていった。

「思っていたより暗いわね。まぁ、昼間に通ったときもそんなに明るくなかったし当然か」

 詩織は早く帰ろうと足早に進んでいく。しかし、もうすぐで大通りに出られるというときに、脇道から一人の男が飛び出してきた。

「きゃっ」

「っ!」

 お互い反射的に一歩下がったため、ぶつかることはなかった。

「す、すみません。っ・・・」

 改めて男を見た詩織は、その姿に目を見開き固まった。

 男の左腕からは赤い筋が流れ、着ているスーツも雨に濡れて変色していたが血が流れている所は赤黒く染まっている。左足も同様だ。顔は汗か雨かわからないが水が滴っていて体中を濡らしていた。怪我をした腕と足を庇い、息も絶え絶えといった感じだ。

「だ、大丈夫ですか!?早く手当てしないと!」

 詩織が助けようと手を差し出すと、男はニヤリと笑うと詩織の腕を掴み後ろへ捻りながら背後に回った。

「痛っ!」

「はは、運が悪かったな。大人しくついて来てもらうぜ」

 男は詩織の首にナイフを当ててきた。詩織は声を出そうとしたが、男が微かに震えているのに気づき、男が見ている方へ視線を向けた。

 そこには、男と同じようなスーツを着た全身ずぶ濡れの男が立っていた。

 男二人の違いを挙げるとすれば、今現れた目の前に立っている男の方が背が高く、スーツの着こなしも良い。雨に濡れたせいで少し長めの髪が目元を覆っているが、それでもわずかに見える鼻筋や口元、輪郭や立ち振る舞いから美形であろう事が感じ取れる。後ろの男は、不細工というわけではないが美形とは言い難い。なにより、一番の違いは威圧感だった。目の前の男から発せられる、静かにのしかかる重圧感。ジッと見つめられている突き刺さるような感覚。

 詩織も無意識のうちに足が震えていた。だが、その表情は恐怖を感じているというよりも見惚れているようだった。

「おい、それはどういうつもりだ?」

 目の前の男が喋ったことに、詩織はハッと現実に戻ってきたと同時にナイフが首に近づいてきた。

 声も低音で格好いいなぁ。なんか反則くさい。

 現実に戻ってきたと思ったら、また別の世界へと行きかけた詩織だが、後ろの男によって完全に現実に戻ってくることになった。

「はっ!それ以上近づくんじゃねぇぞ。この女がどうなっても良いのか?」

「え?」

 ちょ、ちょっと、私人質なの!?全く関係ないわよね!?もしかしてこの恰好いい人は警察で、こいつが犯人とか?

「あ゛ぁ?そいつ誰だよ。うちのファミリーの者じゃねぇだろ」

 どうやら詩織の考えはハズレだったようだ。

「た、確かにこいつはただの一般人だが、そう簡単に見捨てるわけにもいかないだろ?こんな事で騒ぎが大きくなったらそっちもやりにくいんじゃねぇのか?」

 後ろの男は、口元に笑みをはりつけているが、震えは止まっておらず口調も慌て気味で焦っていることがわかる。

 そんな男に、目の前の男は余裕の笑みを向けた。

「それくらい、うちのファミリーにとったら痛くも痒くもない。それに、今さら一般人の一人や二人巻き込んだところでどうとも思わねぇよ。俺は正義の味方じゃねぇからな。ましてや、こんな時間に一人でこんな所を彷徨くような女を助けるほどお人好しでもねぇしな」

 ・・・ごもっともです。

 詩織だって、普段ならばちゃんと気を付けて道を選んでいる。しかし、今日はたまたま深く考えず、あるものをすんなりと受け入れてしまったのだ。

「てな訳で、お前がその女を持っていようがいまいが、俺には関係ないってことだ。残念だったな」

「くっ、このままで終われるかよ!」

 男は、さらにナイフを近づけ詩織の首に一筋の傷を付けてきたが、目の前の男は気にする様子もなく、どんどん近づいてくる。

 この状況に詩織は焦りだした。

 ちょっと待って!このままじゃ私・・・殺されるんじゃ・・・。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「うぐっ」

 詩織は、人には決して聞かれたくないだろう、ましてやうら若き乙女が出すとは思えない悲鳴をあげ、掴まれていない方の腕の肘を後ろの男の腹めがけて思いっ切り打ち込んだ。

 突然の悲鳴と反撃に、男は為すすべもなく崩れ落ちる。

 目の前にいた男も、突然の出来事に呆然としていた。

 しかし、詩織はそんなことには目もくれず、一目散に逃げていった。

「う゛っ」

 男のうめき声に、長身の男は意識を男へと戻すと、懐に手を入れてゆっくり近づいた。

「せっかく命だけは勘弁してやろうと思ったんだが、手間とらせたんだから仕方ねぇよな?」

 男は口の端を上げて、懐から出した黒い物体を地面に倒れたままの男へ向ける。

「じゃぁな」

 パァン!

 赤い水たまりの上に、動かなくなった男が覆い被さっている。だが、長身の男は一切興味を示さず、その横に落ちていた傘を拾った。それは、詩織の傘だ。

「くくく、面白い」

 傘が落ちていた横には、この近くにある飲食店のチラシが濡れて地面にへばり付いていた。


 *次の日*


「はぁ、昨日は吃驚した。暫く、あの道通るの止めよ」

 学校から出てきた詩織の首には、昨日の出来事を物語っているように絆創膏が貼られていた。

「それにしても、あの人たち何だったのかな?」

「お前、看護の専門学生だったんだな」

 門を抜けた直後、横から声をかけられた詩織は一歩足を踏み出した状態のまま停止することとなった。

「昨日、落としていったチラシ。お前のバイト先のなんだろ?そこで聞いたぜ」

 確かに、新メニューが出来たからと店長に渡されたチラシが家に帰ったら見当たらなかった。

 詩織は、突然の状況に冷や汗をダラダラ流したまま動けないでいた。

「にしても、看護か・・・。好都合だな」

「え?」

 男は妖しく笑うと、詩織の腕を掴んで目の前に停まっている黒色の車の方へと引っ張っていく。

「え、あの、どこに?」

「新しいバイト先だ」

「え・・・えぇ~!?」


 こうして、裏の世界で恐れられているマフィアと全く関係なかった女子学生との物語がはじまった。



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