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第五話

 

 アリス達が見上げる中、屋根の上でトランプをバラまいた服が血まみれの男は近くに居たおじいさんを横目で見ると、しゃがんだ。


 「え? え!? ルシード! なぜ、来ないんだ! 私、死ぬぞ!?」


 「二階に行ってろ!」


 「無理だ! 入ればこいつら、雪崩れ込んでくるぞ!」


 「なんのためにその女が居んだよ!」


 「片腕じゃキツイです! 助けてください!」


 「しょうがねえな……」


 アリスとなぜかしゃがんで動かないルシードに文句を言い、リディが救援を請うと、ルシードは適当にそう返事を返し、肩から紐で下げているズタ袋から出した液体の入った瓶をロマネス率いる黒いローブの職員たちに投げつける。ロマネスたちはその瓶を警戒し、後ろに下がっていく。


 「おら! 今だ! 中に入れ!」


 ルシードのおかげで逃げれるようになったアリスはなんなんだ! あいつは! と憤慨しながらリディとミサと共に家の中に下がっていく。教会の職員たちは彼女たちを追おうとするがロマネスが手を上げ、職員を止めた。


 「まずはあいつからだ! 家の中に居るならあんな小娘どもはどうにでもできる、今は同胞を殺したあの男を殺せ! 老人もだ!」


 ロマネスがそう宣言すると職員たちは黙って頷き、屋根の方を見た。屋根の上ではルシードがおじいさんに訴えかけていた。


 「なぁ、じいさん、やっぱりノーカンだと思うんだ、だから金を返してくんねえ?」


 「お前さん、それは無理じゃよ、お前さんのせいで牛の世話も遅れ取るし、その分、銀二枚で我慢してやってるんじゃないか」


 「ああ?? くそじじい! あのまま、あの道いつもみたいに通ってたら今頃捕まって殺されてたかもしんねえだぞ! 救ってもらったの間違いだろ!」


 「うるせえ! 若いもんはか弱い老人に優しくせえ!」


 「か弱い老人はうるせえ! なんか言わねえ!」


 「死ねえ!」


 老人とルシードが言い争っている合間に突然、ドスの効いた声が片耳に入ってきた。ルシードが横目に確認すると、どうやったのか屋根まで飛び上がってきたのは黒いローブの男で、手にはハンマーを持っていた。


 「お前が死ね、クソ」


 ハンマーをルシードに振り下ろそうとした男に、そう吐き捨てたルシードは素早く右手の袖を二回ほど振り、自身の手元へ小型の先が鋭い刃物を落とすと、そのままハンマー男に投げつけた。

 刃物はハンマー男に向けて直線に移動し、ハンマー男がハンマーをルシードに振り下ろすよりも先に、右の目玉を抉った。刃物が刺さった目玉は風船のように割れ、目から血がとどまることなく溢れ出した。


 「あえあああえあえあ!? 俺の目があぁああ!?」


 ハンマー男は鋭い痛みに耐えられず、両手で右目を押さえようとハンマーを宙に放った。

 ハンマーは地面に突き刺さったのか、地面を少し揺らした。そして男も空中だったためにどんどん落下していき、最後には地面に強く後頭部を打ち付け、後頭部を破裂させると真っ赤な血を草木に付け絶命した。


 「なんだと!? こうも簡単に!?」


 下で驚いたのはやはりロマネスだった。ロマネスは自慢の部下がこんなにも犬死するとは予想していなかったのだ。唇を強く歯で噛みだしたロマネスの表情は想像を絶するほど怒りに満ちていた。


 「おお、すごいのう、お前」


 「ほら、助けてやったろ、金返せ」


 「それとこれとは話は別じゃのう」


 ルシードの技におじいさんは感嘆の声を上げたが金は返さんと一点張りになり、ルシードは表情を歪ませた。


 「なら下の奴ら全員、始末してやるよ」


 「おお、なら、その見物料として払ってやっても良いのう」


 「よし、決まりだ」


 ルシードはおじいさんとそんな約束をすると立ち上がり、屋根の石を見た。この家は基本的に全てが石造なのだが、ルシードは知っていた。この石は特別な石なのだと。そして、屋根の石瓦を一枚剥がした。

 

 「ほらよっと!」


 石瓦を両手で持ったルシードは、石瓦を振り子運動をするように揺らし、それを下に放り投げた。石瓦はゆっくりと地面に落下していき、さらにルシードも降りていった。


 「今だ! 火球を撃て!」


 地面に華麗に着地したルシードを待っていたのは、四つの火で出来たエネルギーの塊がだった。撃っていたのは五人のローブの職員で、その背後で残りの職員とロマネスはほくそ笑んでいた。だが、ルシードはさっきまでのおちゃらけた雰囲気を無くし、真顔になると先に落とした石瓦を両手で持つと、それを火球の方に向けた。

 すると火球は、その石瓦に当たると石瓦に燃え跡一つ残さず、消えていった。残り三つの球は時間差でその石瓦を壊そうとぶつかったがどれも消え散っていく。


 「クッソ暑いダンジョンで見つけた珍しい鉱石で作った屋根だ、砕けるもんなら砕いてみろ」


 そう呟くと、火球を防ぎながら、ルシードは石瓦を構え、前に跳躍するかのように火球を撃つ魔術師の職員に突っ込んでいき、魔術師の前に立つとその石瓦で目の前に居た魔術師の一人の頭を真上から殴りつけた。ルシードは石瓦を退かし、確認すると魔術師の頭部は破壊され、身体だけが勝手に揺れていたが、それもすぐに止まり、後ろに倒れていった。


 「ひいいい!?」


 その右隣で頭部を潰された魔術師の血を被り、呆然と見ていた魔術師が恐怖のせいか悲鳴を上げ、火球をルシードに適当に放った。それをルシードは軽く姿勢を低くし、避けると火球はルシードの背後に居た魔術師に当たった。


 「アアアアアアアアア!!!!!」


 炎で燃やされた魔術師はこの世のものとは思えない絶叫を上げながら、地面をのたうち回りだす。肉が焦げる匂いが辺り一面に広がるとロマネスが絶望に顔を染め、後ろに足を後退させた。


 「な、なんなんだお前は……あ? なんひいいい!?」


 後退させた先には今朝、放置されていた死体があり、それに後退させた足を当てたロマネスは知っていたにも関わらず、無様な悲鳴を上げる。

 

 「あっ!? ぎぃぃいぃいあっやや!!!」


 「おあがええあえええ!?」


 ロマネスは自身が恐怖している所にさらなる悲鳴が聞こえ、前を見る。目の前の光景は悲惨だった。

 態勢を低くしたルシードが左腕を振り、腕に落とした刃物で魔術師二人の喉を素早く捌いていた。圧倒的な力に魔術師二人は呆然としていたせいでろくな反撃も出来ずに切られた喉に手を押さえながら、地面に崩れ落ちていく。

 他の職員たちは逃げ出す一歩手前だった。これではいけないとロマネスが一歩踏み出した。


 「ひ、怯むな! まだ君たちには武器が―――」


 「武器同士なら今度はこいつだな」


 「そ、それは!?」


 ルシードは持っていた小型の刃物を捨てると、後ろ腰の赤と黒の鞘からそれぞれ抜いた二対の双剣を出すと逆手に持ち、腕を顔まで上げ、構えた。ロマネスはその双剣を見たことがあった。


 「我ら悪魔崇拝の宝物(ほうもつ)!」


 「やっぱり! ビンゴじゃねえか! この双剣の鞘に付いてるマークとその額の出来損ないみたいなマーク似てると思ったんだよ、そうだよな、お前ら、昔、クロウに潰されたヒスマとローグエンとかいう二対の悪魔を信仰してたやつらだろ!」


 ぴったりとピースがハマり、ルシードは満足そうにそう大声で話すとロマネスは冷や汗を垂らし、声を荒げた。


 「く、くそ! 正体がバレているなら! お前ら! 絶対そいつを殺せ!」


 「……まぁ良いけどよ」


 諦めて撤退すると思ったルシードは、ため息を吐くと、もう一度、真顔に戻し、ロマネスの言う事を忠実に聞くローブの職員たちが刃物や鉈、鎌にハンマー、さらには農具、斧まで持ち、ルシードに向かってきた。


 刃物を持った相手がルシードに振るえば、双剣で受け止め、上方向に打ち払い、相手が衝撃で腕を上に上げている隙にその相手の腹部を斬り裂き、その人物はうめき声を上げながら臓物を吐き出させた。


 ルシードの隙を突けると勘違いし、横から攻撃してきた鉈の男には、先ほど臓物をぶちまけ死んだ死体を放り投げる。鉈をすぐに減速できなかった男はそのままの勢いで鉈をその死体に刺してしまい、深くまで刺さったのを抜くのに手間取りだした。ルシードはその間にその死体を背中から蹴り倒し、双剣を宙に投げると鉈の男を下敷きにした死体が持っていた刃物を器用に足で広い上げると、死体ごと下の鉈の男を刺し貫いた。その後、一番下の男が動く気配は無かった。


 そして、先ほど宙から帰ってきた双剣はそう上手く手元に戻らず、地面に刺さってしまう。さらに今かと思ったのか、鎌を持っている人物とハンマーを持った人物がルシードが双剣を取る前に同時に襲ってきた。

 ハンマーは両手持ち。鎌は片手持ちだった。ルシードは鎌の方に神経を集中させ、バックステップで避け続け、ハンマーを持った人物は鎌の人物が攻撃を止めるタイミングに合わせ、ルシードに振り下ろした。だが、ルシードは瞬間、一歩前に跳躍し、鎌の人物にタックルをすると下敷きにし、何度も顔面を殴りつけた。殴りつけられた人物は気絶をしたのか動かなくなる。


 「お前の命は無駄にしない!」


 そこへ、ハンマーを持った人物が下に居る男に気にも留めずにハンマーを振り下ろす。それを狙ったように転げて避けるルシード。ハンマーは下に居た鉈の男だけに浴びせられ、鉈の男の胴体はぐちゃぐちゃになっていた。

 ハンマーの人物が、潰されたのは仲間だけと知り、呆然としだす。そこへ、ルシードは転げた先に落ちていた双剣を素早く逆手持ちに拾うと、ハンマーの人物の頭部と胴体を繋ぐ部分を切り裂いた。頭部ははじけ飛び、地面に叩きつけられる。

 

 そこまでの残酷ショーを見せると農具と斧の職員たちは恐怖で近寄ろうともしなくなった。ロマネスもそれを責める事無く、呆然とルシードを見つめている。

 

 ルシードは髪にまでかかった返り血を拭きもせずに、死体を見ても特に何とも思っていないのか、真顔で次は誰だというような態度で双剣を構えた。その目は乾いており、まるで死んだ魚のような目だった。

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