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第四話

ちょっと普段より長いかもです、すいません

 ほとんどの人は寝静まり、次の日の朝を待つ時間、その男は火を付けたランタンを左手に持ちながら、家の前に現れた。男が立ち寄ったその家の入り口の前ではハルバートにもたれかかりながら居眠りをしている赤毛の女が居た。

 男はため息を吐くと、その女性を右腕で担ぎ上げ、家の中に入る。

 入り口に扉はなく、開けっ放しだったが、この女性が扉変わりだったんだろうと男は思った。そして、石で出来た階段を登り、二つある部屋の一つを開けた。そこには子どものベッドにしては大きいベッドに少女と少女よりも年上の女性が抱き合って寝ていた。

 男は担いでいた女性をまだスペースがあるベッドに少女を挟むように置いた。


 「お兄さま…」


 少女が起きたのかとぎょっとした男だったがそれが寝言だと気づき、安堵の息漏らす。そして男は目の前の少女の目尻から何かが光っているのが見え、親指でそれを拭った。


 その後、男は少女の部屋を出ると隣の部屋に入り、ランタンで部屋を明るくしながら、部屋にある棚に並んだ小さな瓶を取っては、ずだ袋に放り込んでいく。


 男は満足したのか、ずだ袋に付いた紐を肩から掛けると、そそくさと階段を降り、今度は色々な戦利品が置いてる場所を見つめ、壁に掛かった対に交わっている剣を見つめる。


 一つは赤い鞘に入っている短刀で、持ち手が僅かに金色の装飾がされていた。男は器用に壁に掛けたまま、柄を持って抜けば切れ味の鋭さをアピールするかのように銀色の片側に付いた刀身がランタンの光で輝いた。男はランタンを手近な台に置き、その短刀を鞘ごと、後ろ腰に紐で巻きつけた。


 もう一つは黒い鞘に入っており、同じく短刀だが、赤の短刀より少しばかり長かった。こちらも抜いてみれば刀身が黒く輝いていた。刃の部分だけ銀だったのだ。それも、すかさず、後ろ腰に先ほどの赤い短刀と共に紐で結んでいく。


 最後に紐を前の腰の方で取れないよう硬くむすんだ。男はそこまですると、ランタンを持ち、家の外に一歩を踏み出した。


 ――――――


 目が覚めたアリスは目を擦りながら、ぼやけた視界を正常にしていく。するとだんだんと見えてきた赤毛の女性に目を見開き、飛び起きた。身体が跳ねたように一気に上半身を起こして隣の人物を確認するとなぜか鎧を着たまま寝ていたリディだった。相変わらずのアホ面で寝ており、逆の方を見ればミサが未だに眠りに落ちていた。


 「まったく寝坊助どもが」


 アリスは二人を交互に見て、そう呟くが、なるべく起こさないように音を立てずにミサを跨ぎ、部屋を後にした。

 階段を降りると玄関の扉があったスペースから太陽の光が部屋の中に入ってきていた。陽はすでに上っており、ミサがすでに起きているような時間だったが昨日の件で、精神的に疲れが溜まっているせいかとアリスは思った。


 「生きているという事は何も無かったとはいうことだな……ふっ、あんなやつが居なくても死なんではないか!」


 アリスは昨日追い出したルシードを思い出しながら、久々に外に出てみるかと白いワンピースのスカート部分を揺らしながら外に出た。


 「え?」


 だが、アリスの想像した清々しい朝と目の前の光景には酷く辛いギャップがあり、アリスはその場で呆然と固まってしまった。


 「な、なんだこれは!?」


 アリスの目の前の光景は悲惨だった。外の道に散らばる計六体の死体。身体の内容物をまき散らしているものや身体足や腕が変な方向に曲がっている死体まであった。どれもこれも昨日、襲ってきた黒フードを同じような服装と出で立ちの連中だった。頭を失っている死体もあったが、残っている死体の額には変なマークが刻まれていた。


 「どうしたんですか!」


 固定された腕を庇いながら素早く階段を降りてきたのはリディだった。リディはレイピアを構えながら、アリスの前に庇うように出た。アリスは思わず、リディの腰のしがみつく。


 「ア、アリスちゃん!」


 「興奮してないで説明しろ! こ、これはお前がやったのか!?」


 「え、えっとですね! 私、実はあんまり外に出てから記憶が無くて……」


 「おい、こら、守ると言ってたのはどこの誰だ」


 「ま、まぁ、でもどこの誰だか知りませんが夜襲を防いでくれて助かりましたね!」


 「いや、この殺し方はあいつしか居ないな……はぁ」


 アリスは昨日追い出した男を思い浮かべる。昨日の晩にやってきて、守ってくれた。アリスは昨日は言いすぎたかもしれないなと少し反省しつつ、辺りを見渡した。


 「そういえば、どうして私が気づくまで誰も言いに来なかったんだ? ここは少ないが人が通るはずなのに……」


 「た、確かに……この時間にはすでにブレイドさんとおじいさんが来るはず……」


 「ブレイドさん?」


 「ああ、ここを通って国に通っている、諜報担当の騎士です、かなりの熟練騎士で、元々は王の親衛隊だったらしいですけど、なぜか諜報に回されました」


 「ああ、あの、優しそうなおじさんか? 前、兄と話していたかもしれん」


 「多分、そうです」


 「アリスちゃん! 大丈夫? ごめんね、寝すぎちゃった……ってきゃあ!」


 二人で会話をしているとミサが降りて来て、アリス同様に叫び声を上げる。そして、腰が抜けたのか、ふらふらと床に座った。


 「大丈夫か? ミサ?」


 「ああ! 大変です! 今、肩を貸しますから!」


 「だ、大丈夫! それよりこれ……」


 「夜の見張りをしていたはずの女が即効寝てしまって代わりに、何しに戻ったのか、ルシードがやったんだと思うぞ」


 「す、すいませぇん」


 アリスに責められ、リディは少し涙目になりながら謝罪をするとミサは笑って、みんな無事だったから良いのと笑って許し、リディは上機嫌にありがとうございます! と頭を下げた。

 だが、不意にミサは少し表情を落とした。


 「そ、そう、ルシードさんやっぱり、来てたんだ……」


 「やっぱり?」


 「昨日、物音がして起きたらアリスちゃんが少し涙をこぼしそうになっていたんだけど、それを拭いていた人が居たの」


 「ルシード……私、ルシードともう一度話してみる! まだそこらへんに居るかもしれない!」


 「あ、アリスちゃん!」


 アリスはルシードが本当は優しい人物だと分かった。あれだけ言ったのに守ってくれた。涙を拭いてくれた。アリスはもう一度だけ、ルシードに会いたいと思った。アリスはミサの引き留めに応じず、外に出た。


 「おっと、どこに行くんだい?」


 家を飛び出したアリスは人とぶつかり、その人物は声を掛けてきた。上を見上げるとそこには神父服を着た緑髪の男が立っていた。どこかいやらしい目つきをしていると感じたアリスは後ろに数歩下がり、距離を取る。


 「あら、教会職員ののロマネスさん?」


 ミサは知っていたようでそう聞くとロマネスという教会職員の男はニコリと笑い、後ろを振り返った。あの死体はどうしたのかと尋ねたいのだろう。察したミサは言葉を濁した。


 「あー、あのですね!」


 「何か酷い事故でもあったのですか?」


 「い、いえ」


 「まぁ、いいです、後で私が騎士団に通報しておきましょう、今日はですね、国で国葬に決まったのでそのご相談に来ました」


 それを聞いたアリスは怒りの表情を表し、ロマネスに怒鳴りつけた。ミサがアリスの表情を見て慌てて止めようとしたがアリスの口の方が動くのが速かった。


 「妹の私がまだ死んだと認めていないのにもう国葬を始めるだと!? バカにしているのか!」


 「迅速かつ丁寧な対応で国民の皆様を不安にさせないためにですね?」


 「兄は死んでいない!」


 「いいえ、死んだんですよ」


 「死んでいない!」


 「とにかくご一緒に来てください」


 「さ、触るな!」


 「大人しくして―――なんですか?」


 「少し無神経が過ぎるのでは?」


 ロマネスがアリスの腕を握ろうとした時、リディがアリスを背後にやり、ロマネスの腕首を握り絞めつけた。ロマネスは冷ややかな目でリディを睨む。リディはその冷たい目を向けられ、少し怯えるがすぐに表情をキリっとさせた。


 「神の使いに乱暴はいけませんよ」


 「幼い子どもに兄が死んだなどと真正面から平気で言ってなお、無理矢理連れ去ろうなんて、それこそ神が許しませんよ!」


 「そ、そうです、ロマネスさん! 少し強引すぎます! 神様もそんな強引な手に賛同はしません!」


 「あなたたち如きが神を語るとは……仕方ない」


 リディとミサの言葉にロマネスは身体を震わせると、リディの腕を払いのけ、指を鳴らした。すると、どこに居たのか、アリスの家の真正面を囲むように十何人もの黒いローブを着た男たちが武器を持って現れた。


 「こ、こんなに……!?」


 驚いたのはリディだった。片腕が使えない今、二人も守れる自信は彼女にはなかった。


 「アリスを渡せ、さもなくば全員、殺します」


 「そ、そんな! ロマネスさん! 私たちはなにも!」


 「いいえ、見てください、この死体の山、それに昨日ここを訪ねたはずの教会職員も帰ってきてません、あなたたちが殺しましたね? そうですね? ならば神の怒りを与えるが同義! ですが、今、勇者の妹であるアリスを渡せば許します、どうしますか?」


 いやらしい笑みを浮かべながらそう聞いてくるロマネスに三人は固唾を飲んだが、三人の中でリディが一歩前に出て、そばに刺さっていたハルバートを片手で抜いた。


 「アリスちゃんは渡しません! 私の任務は彼女らを守る事ですから!」


 「ふむ、ああ、あの忌まわしい女騎士団長の派閥のお方ですね……良いでしょう、そのお言葉後悔しないようにお願いしますね……やれ、ガキは捕まえろ」


 ロマネスは態度を一変させ、周りの部下に命令すると部下たちは一歩一歩、アリスたちに近寄ってきた。


 「大丈夫、大丈夫だからね、アリスちゃん」


 「さぁ! 掛かってきなさい!!」


 アリスを守ってくれる二人。アリスはどうすることも出来ずにただ怯えて見ていた。そして心の中で叫ぶ。クロウ助けて、お兄様、助けてと。だが、クロウは来ない、ここで終わりだと思った瞬間、何かが潰れた音が響いた。


 「へ?」


 「なっ!?」


 リディの素っ頓狂な声とロマネスの驚いた声が被り、彼らの視線の先を見ると、かなり大きい石に頭を潰され、身体を痙攣させながら脳みそと血をバラまいている死体が出来ていた。アリスたち三人は息を飲んだが、これまでの出来事で死体になれたせいか、誰もが冷静だった。


 「だ、誰だ!? 許さん! 許さんぞ!」


 むしろ慌てたのはロマネスだった。潰された男は先ほどまでこちらに寄ってきていたロマネスの部下の一人だと言う事に気づくのに時間は掛からなかった。彼は部下の死で動揺し、辺りを見回した。だが、人影は見えない。


 「ええい! どこだ!?」


 「おい! そこの牧師もどき! 今、じいさんといい勝負だったのにお前らがうるさいせいで集中できなくて負けたぞ!」


 そんなどうでもいい理由を並べたてる声が上空から聞こえ、アリス達三人とロマネス、教会の職員たちは上空を見上あげた。

 見上げればそこにはトランプをシャッフルしながら石で作られた屋根に立っている男が居た。男のそばにはいつもアリスの家の前を通る牛使いのおじいさんが自慢気な顔で銀貨を二枚見ながら笑っていた。


 「どうしてくれんだ、クソ野郎ども! お前らのせいでボロ負けだ!!」


 そう言い捨て、男は手にあるトランプを勢いよく上から放り投げた。投げられたトランプは宙を舞い、アリス達や職員たちの元へ落ちていく。綺麗とは言えない光景だったがアリスの不安はどこかに消えていった。


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