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第三話


 「いたたたった!! 痛いです! アリスちゃん!」


 「我慢しろ、私の非力ではこれが限界だ」


 アリスはリディの籠手を外した右腕の関節に深々と刺さっていた刃物を抜こうと精一杯、引っ張るが全然抜けず、逆にリディを苦しめる結果になっていた。するとリディは限界だと言うようにアリスの肩を叩き、刃物から手を離させた。


 「ちょっと待ってください! やっぱり自分で抜きます!」


 そう言うと、リディはあっさりと左腕で刃物を抜きとった。抜いた部分から血が溢れ出すがそれよりもアリスは自分がどれだけ力を入れても取れなかった刃物を軽々しく取ったリディを睨んだ。


 「んんん!! 最初からそうしたまえ!」


 「だ、だってアリスちゃんみたいな可愛い子に看護されるなんて一生に一回あるかないかじゃないですか~」


 リディは照れながらそう言い、怒ったアリスは瓶に入った消毒液をリディの腕に傾けた。


 「私の周りには少女大好きなやつしか居ないのか!!」


 叫んだアリスは消毒液の瓶の口を真下にし、その傷口に垂れ流し出す。消毒液はドクドクと音を立て、リディの腕に降り注がれていく。


 「ああああ!! ア、アリスちゃん!! や、やめえてえええ!!!」


 「うるせえぞ! お前ら!」


 リディが叫んでいると裏から帰ってきたルシードが吠えた。するとアリスは消毒液を掛けるのを止め、顔を背けた。それを見たルシードは目を見開いた。


 「お前! アリス! 貴重な消毒液をその間抜けにどんだけ使ってんだ!!」


 「ま、間抜け?」


 「ふんっ! そこのバカ女が私をバカにしたからだ!」


 「バカ女!?」


 「バカ女はバカな事しか言わないんだよ! 分かるだろ!」


 「またバカ女って!?」


 「それは同意する、すまなかった、ルシードさん」


 「仕方ねえな、これから使う分量は俺が決めるからな」


 「あの! 私にも謝罪を! 大体こうなったのはあなたのせいですよ!」


 そう言って仲直りの雰囲気を醸し出している二人にリディは物申すがルシードは見て見ぬ振りをし、衣服をアリスに差し出した。


 「そんな事より、アリス、これに着替えろ」


 「こ、これをか?」


 「ああ」


 「着てほしいのか?」


 「ああ」


 「そ、そうか、わかった」

 

 なぜかアリスは顔を赤くしながらそう言った。ルシードはなぜか分からず、疑問符を浮かべていると、突如、目の前にリディが現れた。


 「あの!! そんな事じゃありません! 早く包帯を巻いてくだ―――」


 「うるせえ! 左腕にも穴開けるぞ!」


 「ひぃぃい!? そ、それだけは勘弁してください! あ、あのでもほ、包帯はま、巻いてほしいなーって……」


 「……分かったよ、アリスはこれに着替えてこい」


 「分かった、そういえばミサは?」


 「そろそろ戻ってくると思うぞ、裏庭でお前の服を洗濯して乾かしていたのを回収してた、こんな時でもお前の身の回りの事やってくれてんだ、感謝しろよ」


 「そ、そうか……そうだな、ありがとうと伝えといてくれ」


 「それくらい自分で言え」


 「わ、わかった」


 アリスは恥ずかしそうな態度をし、返事をするとその衣服を持って、二階に上がっていく。アリスが上に行くのを見送ったルシードはリディの腕に包帯を巻こうと身体を屈ませた。


 「あ、あの優しくしてくだたたったたあ!?」


 「んだよ、普通に巻いてんだろうが」


 「いえ! 締まりまくりです! 腕が潰れます!」


 「腕に貫通傷があんだからこれくらい普通だろ」


 「本当ですか!? なんか私の事をいたぶって楽しんでませんか!?」


 「気のせいだろ、ほら終わったぞ」


 ルシードが巻いてくれた包帯を見ると思ったよりも綺麗に巻かれており、血がはみ出したりせず、リディは感心した。


 「はえー、ガサツに見えましたがなかなか丁寧な巻き方ですね……」


 「一言余計だ、なんか手ごろな布を持ってくるから待ってろ」


 ルシードはそれからリディの腕を布で固定させ、治療を終わらせた。それから、洗濯物を入れた籠を持ってミサが帰ってきた。


 「わぁ! あなた大丈夫?」


 「だ、大丈夫です、あ、リディって言います、初めまして」


 「私、ミサって言うの、ここでは家政婦的な事をやっているわ」


 「ええ、毎日、働いていて素晴らしいと思っていました」


 「ん? リディさんとどこかで会いましたっけ?」


 「そいつ、三日前からこの家に張り付いている変態だぞ」


 「ええ!?」


 「ちょっと! ちょっと! 語弊だらけじゃないですか! 任務ですよ! 任務!」


 「おい、着替えたぞ」


 騒ぐリディを遮り、下に降りてきたのは袖が無い茶色っぽいレザーベストを白く薄い服の上から着たアリスだった。下は短い黒いズボンを着ており、細く白い足が目立っていたが動きやすい服装ではあった。


 「クロウに買ってもらって一度も着なかったが、役に立つとは思わなかったよ……」


 「すごくかわいいよ! アリスちゃん!」


 「はい! すごくかわいいです!」


 アリスはリディとミサが褒める中、顔を赤らめながらルシードの前に立った。


 「おい、着てきてやったぞ」


 「ああ、そうか」


 ルシードはその言葉に素っ気なく、そう返し、アリスは少し不機嫌そうに腰に手を当てた。


 「ルシードが着てこいと言った物をわざわざ着てきてやったんだぞ」


 「……動きやすくはなったが、手足の露出が激しいな、まぁ、腕と足に傷が負うほど追い込まれるくらいなら諦めるしかないがな」


 「なんだその感想は!?」


 ルシードのその感想にアリスはとてつもない剣幕でそう怒鳴るとルシードはアリスに睨み返した。


 「おい、勘違いするなよ、俺はお前の兄じゃないし、その代わりをしてやろうってほど優しくもねえ、可愛い服を着て褒めてもらいたいならさっさと兄を見つける事だな」


 「……それが出来るならそうしている……」


 アリスは顔を俯かせ、そのまま黙ってしまう。長い髪に隠れ、表情は見えない。そんな二人を見てリディとミサの二人は何も言えずに戸惑いながらもリディが動いた。


 「大人気ないですよ! ルシードさんぁ!?」


 リディがさりげなく、ルシードを責めようとするとルシードはすかさず腰から血濡れていない刃物を右手で取り出し、リディに向けた。リディは間抜けな声を出して手を上げた。


 「お前も! さっきから慣れ慣れしくてうざいから教えてやる、お前を生かしたのは騎士団長の元に案内してもらうためだ、そこのガキの心を癒すためじゃねえ」


 「は、はい」


 刃物を向けられたリディは青い顔をして大きく首を振った。ルシードの眼光の鋭さにここに居たものは誰も文句を言えなかった。次第に場が沈黙した。


 「というわけで、今からこの女を寄こしたやつに会いに行く、三日前からこいつを忍ばせていたこということは何が起こるかを知っていたという事だ、それを聞きに行く」


 「ア、アリスちゃんも?」


 「当たり前だ、ここに居たらアリスは死ぬ、ミサはもう帰れ」


 「で、でもクロウくんの代わりに面倒を……」


 「もうお前は見なくていい、俺がこれからアリスの面倒を見る、それがあいつが消えた瞬間、俺に託した最後の言葉だ」


 「ク、クロウ君が?」


 「ああ、分かったな? アリス?」


 「うるさい」


 「あ?」


 ルシードの問いかけにアリスは静かにそう呟いた。ルシードは怒りを隠せず、喧嘩腰にアリスを見下げた。


 「なんなんだ! お前は! 勝手に助けに来て、冷たくしたり、優しくしたり! でも私が何か言えばそうやって怒り出すし! 何がしたいんだ! お前なんかに守ってもらうなんて真っ平だ! 帰れ! クロウが生きているなら私を守ってくれる! 約束したんだ!」


 アリスはそう怒鳴った。小さい身体の全力を振り絞って出されるその言葉にルシードも黙りこんだ。だが、ルシードは眉間を弱める事無く、睨み続けると、不意に後ろを振り返り、家を出ていった。


 「い、良いの? アリスちゃん?」


 「ああ、あんなやつに守ってもらうくらいならミサと一緒に居る」


 「そ、それは嬉しいけど……」


 「大丈夫です! ミサさん! 元々私が守る役目だったんです! お二人は私が守ります!」


 そう意気込むリディにアリスは笑ってありがとうと答えるとリディはデレデレとし、ミサは少し不安そうな表情をしたがすぐに笑顔に戻し、その日は三人とも泊まるということでご飯やお話をし、眠りに入ろうとしていた。


 「では、私は外で見張っておりますので!」


 「大丈夫ですか?」


 「はい! 一日二日の徹夜くらい!」


 「でも三日間、この家を守っていたんじゃ……」


 「だ、大丈夫です! 五日間の徹夜くらい!」

 

 「無理はするな、大丈夫そうなら寝ろ」


 アリスのその言葉にリディは笑顔ではい! と答えると勇んでハルバートを片手に持って外で立っていた。アリスは少し頼りない女だと思ったが彼女が守っていてくれるという安心感が功を成し、ミサと添い寝をするとすぐに眠りについていった。


 夢は相も変わらず、兄の夢を見た。兄と一緒に食べるご飯。いつも勇ましく冒険の話をする兄。そればかりを思い出し、起きた時はいつも涙を流していたが、次の日の朝、ミサとリディに両方から抱き着かれ目覚めた朝は涙ではなく笑顔が零れたアリスだった。

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