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第二話

 アリスが見てきたその男は、礼儀の正しい気の遣える良い男だった。

 ルシード。彼は勇者クロウが集めた仲間の一人だった。彼は時たま家に来てはアリスを可愛がり、クロウと仲良くお喋りをしては食事を三人でする仲だった。アリスは彼の事を良い人だと思った。



 だが、目の前に居る男はそのルシードだとは信じられなかった。アリスは先ほどのショッキングな光景のせいで濡らした下着を変え、一階に戻ると、ルシードは血を全身に濡らしたままパンを頬張っていた。


 「アリス、着替えは終わったか?」


 「ああ、ルシードさん、あのクロウは……」


 「もちろん、生きてるぞ、どこにいるかは知らないけど」


 「それってどういう?」


 「俺たちがクルーウの城に行ったのは知ってるよな? そしたら魔王の息子を名乗るふざけた野郎が現れてクロウが攫われた、だから死んでねえ、仲間は大勢の悪魔や魔物に追われ、散り散りだ」


 簡単に説明されたがアリスの頭ははてなが浮かんだ。魔王の息子だとか言われても想像出来ない。だが、ルシードはそれ以上、説明する気が無いのか、パンを頬張り終わるとクロウが普段座っていた椅子に座り、うとうととすると眠りに落ちていった。


 「ルシードさん、いつもと感じ違うね……」


 どこに行っていたのか、ミサが現れ、寝ているルシードを見てそう言った。アリスもうなずき、同意した。


 「まるで別人だ、あのルシードさんがこんな野蛮だったとは」


 「玄関の死体どうしよう……」


 「後でルシードさんに頼んで処理してもらおう、私はもう見たくない」


 「そ、そうね、私も見たくない」


 そう二人で頷きあい、食べそびれた食事を再開さえ、食べ終わるころにはルシードは目覚め、死体の事を相談すると待ってろと言われ、ルシードは出ていくと十分後くらいに近くの川に捨ててきたと、身体にさらに血を付けて帰ってきた。


 「あの人誰だったんですか?」


 「名乗ってたろ、ホワイトレイン王国の騎士だって」


 「え、あれが?」


 「さぁな、俺も別に王国に詳しいわけじゃないし、ただ、今はまだあっちのやつを殺したのがバレてないのか、様子を伺われてるのか知らねえが、もしもあっちが本腰で来たら結構めんどくさいな」


 そう言って、ルシードは外を伺うように玄関近くの壁に寄り掛かった。すでに扉は無く、家の中が丸見えだった。


 「とにかくルシードさん! 血を拭きませんか?」


 ミサがそう提案するとルシードは少し思案した後、頷いた。


 「そうだな、アリス、クロウの服を貸してくれ」


 「多分、サイズが合わないと思うが」


 「じゃあ、一緒に探しに行くか」


 「あ、ああ」


 「ミサはなんかあったら叫べ」


 「分かったわ」


 そうルシードは言うとアリスを連れ、二階に上っていき、アリスの部屋の隣の部屋に入った。

 そこはクロウの部屋で、一つ長方形の枠があり、そこから外を眺められるようになっていた。後はベッドの他に衣装ダンスに棚が一つあり、武器や魔法の瓶なんかが置かれていた。衣装ダンスを開けると、色々服が入っていたが、なんとかルシードが着れたのはまだクロウが履けずに放置した少し古い白い服と黒いズボンだった。


 「なんか血が目立ちそうだけどまぁいいか」


 「あ、あの!」


 ルシードのその言葉にアリスは反応し、声を掛ける。ルシードはきょとんとしてアリスを見ると、アリスは、手を腰にやった。きっと文句を言えばこの人はやめてくれると思い、アリスは思ったことを言った。


 「ああいう殺し方はやめてくれないか? あんなに人体を破壊しなくても良いと私はおもっ!?」


 「あ!? お前ら兄妹は殺し方一つでガミガミうるさいんだよ!」


 だが、アリスの予想とは違い、アリスの胸倉を掴んで持ち上げるルシード。その力は思ったよりも強く、怒鳴られたこともあり、アリスは涙目になり、小刻みに震えだした。


 「ご、ごめんなさ―――きゃっ!?」


 するとルシードは不意にアリスをクロウのベッドの上に放り出すと、脱いだ服から何かを回収していた。アリスは近寄るのが怖く、確認できないないが手際よく何かを回収したルシードは満足そうに立ち上がった。


 「まぁ、ああいう殺し方は実際に余裕があるときにしか出来ないからな、見る機会は少ないぞ」


 そうボソッと呟き、アリスを置いてルシードは部屋から出ていっていこうとしたが、ルシードは何か気になったのか、長方形の枠から身を乗り出し、家の近くをざっと見渡した。


 「ど、どうかしたのか?」


 涙目の目を擦りながら聞いてきたアリスにルシードはちょっと待ってろだけ言い、部屋を出た。


 部屋を出て階段から降りたルシードは、ミサの様子を確認しようと家中を歩き回ったがどこにも姿は無く、外に居るのかと思い、血が拭かれ多少跡は残ったが綺麗になった玄関にある扉があった空間から顔を出した。すると自分の頭に影が降りている事に気づいたルシードは瞬時に頭を引っ込めた。


 「あ、ぶねえな」


 風が両断される音が響き、ルシードは自身の頭があった場所を見ると、そこには長い木製の槍に斧よりも細い刃を槍の穂先より少し下の真横に付けたハルバートと呼ばれる武器が地面に突き刺さっていた。

 ルシードは距離を取るため、階段の傍まで前を向いたまま、後退していく。


 「くそっ!」


 そう毒を吐きながら、ハルバートを地面から引き抜き、現れたのはまだルシードよりも若い赤髪を外ハネさせた女性だった。

 女性は銀製の軽装型の鎧を見に包んでおり、腰には王国の紋章が入った鞘があった。王国の騎士だとルシードは一目でわかった。だが、騎士にしてはどこかその表情は怯えているように感じた。

 ルシードは黙ったまま、先ほど回収した木製の柄に付いた短い片刃が付いた得物を二丁、それぞれ片手づつ逆手持ちをし、刃先を女性に構え、身を屈めた。

 するとルシードに合わせるように女性はハルバートを外の地面に突き刺し、腰の鞘に手をやり、鞘から取り出したのは細長いレイピアの様な剣だった。それを右手に持ち、ルシードに向けた。


 「降伏しろ!」


 「気が向いたらな!!」


 女性の問いかけに答えると、ルシードは彼女に低姿勢のまま飛び込むように近づいた。女性は慌ててレイピアをルシードの顔を貫くように突き出した。だが、ルシードは目の前にレイピアの剣先が来ても瞬き一つせず、さらに身を屈めて避けた。


 「早いっ!?」


 ルシードは彼女の懐に飛び込むのに成功し、彼女が伸ばしきった右腕を戻す前に左手の刃物で籠手が張れない腕を曲げる関節にその刃物を突き刺した。彼女はレイピアを離し、目に涙を浮かべ、口を大きく開いた。


 「いっあぁああ!?」


 「ちっ!」


 肉が潰れた音と彼女の悲鳴が聞こえたと同時に刃物で貫かれた腕は玄関の壁に叩きつけられた。だが、家が石造で出来ていたため、縫い付ける事が出来ずに貫通した刃先と石がぶつかる音が聞こえるのみで、ルシードは舌打ちをする。


 「いやぁあ! い、痛い!」


 彼女が刃物を抜こうと左手を伸ばした瞬間、女性の首を思い切り、掴み、玄関に転がした。女性は痛みのせいかろくな抵抗も出来ずに背中から玄関に叩きつけられる。腕の血が先ほど拭いたばかりのカーペットを赤く濡らした。


 「カーペットがあって良かったな、石造の床にそのまま頭なんか打ち付けてたら死んでたぞ」


 そう呟いたルシードは彼女にまたがるように足を開いて、頭を床に押し付けながら、首元に右手の刃物を向けた。


 「まぁ、返答次第じゃ、大して未来は変わらんが」


 「や、やめてくれ!」


 「なら、話せ! お前は誰だ! ホワイトレイン王国の騎士か!? 名前は! なぜ俺を狙った!」


 「あ、ああ! 私は、ホワイトレイン王国の騎士団の一人だ! 名前はリディだ! 二階でアリスちゃんに乱暴していたのが見えたから暴漢かと……」


 「あ!? んなわけねえだろ! てゆうか、覗いてた方が問題だろうが」


 「に、任務だ! 私はただの見張り! 団長に見張りに付いて、勇者の血を継いだアリスを守れと言われていた!」


 ルシードはその言葉に訝し気に眉をひそめ、怒りの表情を浮かべた。

 こいつが来ていれば、無駄にアリスを怖がらせる必要は無かったと思ったからだ。

 怖がらせた結果、演技をする手間が省けたのは良かったが、演技のままでアリスと接する方が警戒されずに済んだと思うと、怒りが収まらない。女の子が好きな優しい男のままで接しようと思ったが、あの殺し方で優しい爽やかなお兄さんでは逆に警戒される。だから演技を止めたのだ。


 「あ? なら、さっきはなんで放置していた?」


 「え? な、何の話だ!」


 「さっき黒いフードのつるぴか野郎が来てただろうが!」


 「し、知らない! じ、実はさっきまで実は朝食を取りに言ってて……」


 「役に立たない女だな、殺すか」


 「ま、待ってくれ! い、いや! ごめんなさい! 許してください! 私、一人で朝も昼も晩も見張りなんて無理に決まってるじゃないですか!!」


 確かに、ルシードはこの女の言う事は最もだと思った。こいつ、一人を見張りに立たせたルシードと見知らぬ仲では無い、騎士団団長に憤りを感じていく。


 「ああ、そうだな、そりゃ確かに厳しいわな」


 「でしょっ!?」


 腕の痛みが痺れて痛みを感じなくなったのか、ヤケを起こしたのか、リディはまるでテンションを高ぶらせたように叫んだ。それを見てルシードはため息を吐いた。


 「ああ、悪かったよ、いつから見張ってた?」


 「三日前くらいです!」


 「そうか、そういえばこの家に毎日来てた女が居たろ? どこに居る?」


 「あの方なら先ほど、庭の手入れをしに裏に行きましたよ」


 「わかった、アリス!!」


 それを聞き、ルシードは刃物を腰の後ろにある鞘に戻すと、リディから退き、アリスに呼びかけると、部屋の中にあった布と消毒液を人の家にも関わらず、特に迷いもせずに用意した。


 「勝手に使え、俺はミサを見てくる、今、アリスを呼んだから、すぐに来るだろ、手伝ってもらえ」


 「や、優しいんですね、ありがとうございます!」


 「刺したの俺なんだけど……後、カーペットをこれ以上、汚したらまたあのクロウ並みのめんどくさいことを言う妹がまた文句を言ってくるからな」


 「むむむ、前言撤回です、でも少し感謝します」


 「きゃぁ!? 何!? なんなんだ!? カーペットが!? いや、腕は大丈夫か!?」


 階段から降りてきたアリスが現状の光景に驚き、慌てているがルシードはほら、うるさいと呟き、裏庭に回っていった。

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