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第一話 

 勇者クロウたち勇者パーティーが魔王の城に行ってから一ヶ月が過ぎたが、勇者クロウは帰ってこなかった。それどころか他の仲間も帰らなかった。その悲報は国中に知れ渡り、国では死体なしで国葬をやろうという話が進んでいた。



 「アリスちゃん! 今日もご飯いらないの? 食べないとクロウ君心配しちゃうよ!」


 家にはもうあの外にまで届く大声を出すクロウは居ない。代わりに聞こえてくるのは元気が良い女性の声だった。その声は勇者の妹、アリスを呼ぶがアリスは、クロウが死んだと噂されだしてから部屋から一歩も出なかった。


 「アリスちゃん! クロウ君死んだなんて嘘だよ! だってクロウ君、あの魔王にも勝ったんだよ? そんな人が死ぬわけないよ!」


 女性の声と言葉に反応したのか、部屋の中から何かが動く音が微かに聞こえた。それを聞いた女性は畳みかけるように話していく。


 「クロウ君が帰ってきて、アリスちゃんがやせ細ってたら、私、クロウ君に殺されちゃうよ! それにクロウ君も俺の責任だ! とか言って自殺しちゃうかも!」


 部屋の中で物音がどんどん大きくなっていき、女性が微笑みながら部屋の前で待機していると、扉が開いた。出てきたのは、綺麗な金髪に寝ぐせをトッピングした白いワンピース姿の幼い女の子―――アリスだ。

 そして、目の前に立つ女性は、白い布服を着た背が高くて、胸が大きいお姉さんだった。


 「アリスちゃ―――」


 「さっきからうるさい、おっぱい女」


 「ありふはゃん! 手ろけて!」


 アリスは扉の前に立つ女性の頬を背伸びをして、両手で挟んだ。女性はそれでも笑いながらどけてと言うと、アリスは手を退かし、女性を見つめた。


 「ミサ、君はお金も出していないのによく毎日来るもんだね」


 「だってクロウ君の妹さんだもん!」


 「君はお嫁さん気取りなのか? 私はミサを義姉と呼ぶ気はさらさら無いぞ」


 「え!? 私なんかがクロウ君と結婚できるわけないよ!」


 「ほんとに君のそういうところが苦手だよ……」


 「ん? 何か言った? アリスちゃん?」


 「なんでもないよ……」


 アリスはミサの事を置いて石造りの階段を降りていく。一週間くらい、下に降りなかった割には綺麗だったが、ミサが居るから当たり前かとアリスはウキウキで降りてきたミサを見て思った。


 「なぜ、そんなに上機嫌なんだ? 私はクロウが帰ってくるのを諦めたから部屋に籠ったのに、ミサは悲しくないのか?」


 「悲しいよ」


 アリスの質問にミサは声のトーンを落として答える。質問をしたアリスはその声のトーンの低さに驚き、目を逸らし、冷や汗を掻いた。だが、それもその一言だけで、ミサはすぐに口角を上げた。


 「でもクロウ君が生きてるって信じる事にしたの! だからその間、アリスちゃんを守るのは私!」


 その言葉にアリスは少し機嫌が良くなり、腕を組んでミサの目を見て、品定めのように足から頭を見た。一瞬、胸で視線が止まり、アリスの眉間に皺が出来るが、それでもすぐに収まった。


 「ど、どうしたの? アリスちゃん?」


 「ふむ、クロウにもした質問なんだが、君は魔物一人倒せなさそうだぞ」


 「そ、それは……」


 言い淀むミサ。先ほど、守ると言った手前、今更、守れないと言いずらいんだろうとアリスは思った。


 「良い、ミサは出来ることをしてくれ、魔物の事は心配するな」


 「ア、アリスちゃん!」


 「わ、わぁ!? だ、抱き着くな! そこまでは許していないぞ!」


 アリスは前までならこんな事を死んでも言わなかっただろうが、クロウが居なくなった事で出来た寂しさをミサで代わりに埋めようとしているようだった。アリスは自分のそんな感情に気づかずに感激して抱き着いてくるミサを避けるのに必死になった。


 「ほら! アリスちゃん! ご飯食べさせたあげるから! おいで!」


 「ご飯くらい一人で食べれる!」


 「そんなこと言わな―――」


 ――――――ドンドンッ!!


 「いで?」


 ミサとアリスが追いかけっこをしていると、不意に扉がノックされた。クロウが居た頃はここを襲うバカなど居ないと玄関は開けっ放しにしていたが、今はミサがきちんと戸締りをしているおかげで扉は閉じられていた。だが、このノックがクロウのものでは無いことはこの二人には分かっていた。

 クロウは恐ろしく天然で、鍵が掛かってようがまずノックをせずに開けてしまう。なまじ力が強いせいか、普通の木で出来たドアのカギなどすぐに壊れてしまう。

 だからこそ、正体不明のその人物が居るであろう、玄関の前にミサは恐る恐る立った。


 「どなた様ですか?」


 ミサは声を震わすのを我慢しながらそう尋ねた。アリスもその人物がクロウではないと知っていたので、ミサの後ろに隠れながら様子を見た。


 「ホワイトレイン王国の騎士です! 勇者クロウの居場所が分かりました! ドアを開けてください!」


 「え!? 本当ですか!?」


 その人物は爽やかな声でそう言ってきた。ミサは感激のあまり、すぐにドアを開けようとしたが、アリスがミサの服のすそを引っ張った。


 「うわっ!? ど、どうしたの? アリスちゃん?」


 「急に見つかるなんておかしい、これまで一切連絡を寄こさなかった国がどうして急に……」


 「あのー、早く開けてください」


 「え、えっとですね、ちょっと待ってください」


 ミサはアリスの疑問に合意したのか、外に居る人物にそう伝えた。すると、その人物は黙り込んだ。そして、数秒の沈黙が続いた瞬間、木が破裂する音が響いた。


 「きゃあ!?」


 「いやぁ!」


 二人はそれぞれ悲鳴を出した。その悲鳴は扉にあった。なんとクロウが暖炉や焚火を使う際、使用していた斧が扉を貫通して突き刺さっていたのだ。


 「開けてくれないと今度は扉を本気で破ります」


 斧が抜かれ出来た隙間からその男は見えた。それは騎士というよりも闇の魔術師といった風貌だった。黒いローブを顔の上部分まで隠しながら着用し、口元も黒い布で隠されていた。声も先ほどの爽やかさを無くし、まるで感情のないような棒読みだった。


 「……返事がないようなので破壊します」


 「待って! きゃあ!?」


 アリスとミサは驚きの余り、その男に返答さえ固まってしまったのを男は返答無しとし、さらに斧で木製の扉を叩き壊していく。木が破裂する音が響き、最終的には扉が耐えられず、開いてしまった。アリスとミサはあまりにも怖く、床にへたり込んで二人で肩を抱き合うしかなかった。


 「開けてくれてありがとうございます、では、教えて差し上げましょう、勇者クロウの居場所を」


 男はそう言って、一旦、間を置くと、頭のローブを取って、口元を歪ませた。隠された頭はスキンヘッドの男で額に何かのマークが刻まれていた。それを見せつけるように指で押し、目を白くさせた。それだけでアリスとミサは怖くて動けなかった。そして、そんな二人に斧を振りかぶった。

 

 聞きたくない。この男の言葉を聞いて最初に思ったのはそれだった。

 アリスはこの男の言いそうな事が分かっていた。だが、聞きたくない。ミサのおかげで多少は元気になったが、それは乗り越えたわけじゃない、このままじゃダメだと思ったからだ。だが、もしもこの男がそれが真実だと言わんばかりにそれを言ってしまえば、アリスの心は壊れてしまう。


 「クロウはね、死んだん―――アッ、アッ、アッ」


 だが、その言葉を紡ぎ終わる前に、男は何かが刺さったような鈍い音と共に間抜けな声を出して痙攣を始めだし、頭から流れるように赤い液体が溢れさせた。その液体はどんどん男の顔を赤く染め上げた。

 男は手で頭にゆっくりと触れる。頭には何か刃物のような物が突き刺さっていた。男は痙攣する身体をなんとか後ろにやると、どこから現れたのか謎の男が真顔で男を見ていたのが分かった。

 そして、アリスとミサは驚いた。その男を知っていたからだ。だが、これまでの印象と大分違う彼に戸惑った。

 だが、そんな事を知ってか知らずか、謎の男はただ、刃物が刺さっている男を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


 「おいおい、聞かせてくれよ、クソ野郎、クロウがなんだって?」


 「アッ、アッ、アッ」


 「大それた事をお前ごときが言おうとするなんておこがましいって気づいたから何も言わねえのか?」


 「アー、アッ、アッ」


 「そうかそうか、偉いな、お前……そうだ、褒美をやるよ」


 そう言うと男は頭に刺さっていた刃物の刃部分を持ち、一度抜くと、木製の柄の方を持ち、男の頭に何かが潰れるような音ともに再度、刃物が頭に突き刺した。そして力を入れるとまるで魚の腹を切るように刃物を男の頭上から一気に下に降ろし、一刀両断した。実際にそんな簡単に人を綺麗に一刀両断など出来ないがその男はやり遂げた。切断する際、男の身体から何かを無理矢理潰したような音や、肉が切れる音が家中に響き、男の身体は幾度もの痙攣を繰り返し、とんでもない量の血が噴き出すと、だんだんと離れていき、最後には左右に分かれて玄関に転がった。

 アリスやミサにもその男の血は掛かり、呆然とそれを見ていたアリスの下半身からは暖かい物が溢れ出していた。


 「大丈夫か? お前ら」


 死体を飛び越え、二人の目線に合わせるようにしゃがんで聞いた男は、全身血まみれだった。アリスの記憶では黒い鎧を着ていたはずの彼の格好はラフそうな恰好に変わっていた。そう、やはりアリスは彼を知っていた。


 「ルシードさん……?」


 「やぁ、アリス、久しぶり」


 そう言って血まみれの顔で笑う彼は相も変わらず、邪魔そうな長髪を紐で結んでいた。顔は端正だが、血まみれのせいで、かっこいいよりも怖いという印象をアリスは持った。

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