森の探索 蜘蛛を求めて
トーラスとの一件は、少しづつ芽生えていた自信を喪失させるものであった。彼が年下であったということも大きい。引き分けのような形で終わったけれども客観的にみて俺の負けだったように思える。すべてを出し切っていなかったとはいえ、それは相手も同じだろう。斧での攻撃も魔法もことごとくいなされた。別にトーラスが倒すべき敵というわけでも死闘を演じる相手もない。が、やはり悔しかったのだ。何か自分の力を高めるためのもうひと押しが欲しい。。。武器も防具もドワーフ謹製物であるのでそれ以上は現状望みにくい。あれだな、前々から話を聞いていた「大蜘蛛の糸」を取りに行くしかあるまい。そういう時期がきたということだ!!(ということにしておく。)
森の中に大蜘蛛はいる。そして過去にラムの情報によりいるであろう方向は確認できている。ただ、俺にとって脅威でもある強さらしいので助っ人を頼んだ。討伐メンバーは、俺、ロッキー、ドワーフ2名、カルスさん。長年森に住んでたカルスさんがついてきてくれるのは助かる。ただ、歩くのがしんどいのでロッキーに乗っていく事となった。今回の道程は道づくりをしていない森を突き進む。パワフルとはいえロッキーが通れるよう多少なりとも道は確保していく。飲み水は俺の魔法で出せる。干し肉をいくらかと薬草を持参しての出発だ。火は魔道具を持ってるし森の魔物が襲ってくることもあるだろうから、撃退し食料とすることにした。
結界を抜け森の中を進んでいく。ダンジョンとはまた違った緊張感がある。全方位に対しての警戒が必要だから。ダンジョンは基本出てくる魔物は決まった敵しか出ないし(はず)法則性もある。だが森の中は、どこで何が出るかわからない。一応森の奥に行くほど強い魔物がでるという、ある意味ご都合主義なところはあるけれども。半面運がよければ一度も魔物に出会わないということもあるかもしれない。その場合食べ物足りないけど。。。まあ全方位に気を配ると言っても今回は便利な機能が二つある。俺の警戒スキルとカルスさんの探知魔法である。カルスさんの探知魔法の性能は驚くばかりで、魔物との戦闘回数をかなり減らす事ができた。もちろん迂回するのは大変だが、今回は狩りでは無い。倒した魔物素材を運ぶのにも限界はあるし、魔物を狩った後の処理は、血や臓物が発生し血を好む魔物を招きよせる可能性が増す。俺の水魔法は、持ち帰る素材の洗浄に関しては、かなりの効力を発揮するのでその点有利には働く。結果初日の戦闘は、1度のみだった。魔法探知で敵をかわし食料とする魔物だけを刈り取った。森林スネークよりもでかい蛇の魔物をドワーフ二人でさくっと刈り取った。味は森林スネークよりも脂がのっているものの淡白な味。塩だけの調理では「うん、まあ 悪くはない」といったものだった(´・ω・`)魔物の名前は『本』で確認するとビッグスネークだった。でかい蛇。。。まんまじゃねえか。そこまででかくなかったぞ。そういえばドワーフもカルスさんも俺の解体を見てびっくりしていた。「はえーな・・・斧よりうまいんじゃないか」と。いやいやいや数値的には斧の方が上です!!村では解体作業を家族や生徒に任せっきりにしてたからなあ。俺もできるんだぜってとこを見せとかないとな。ちなみにビッグスネークの皮と牙を素材で持ち帰る事にした。目も素材になるらしいのだが、鮮度の関係もあり諦めた。肉は食料として夜にまとめて焼いておいた。夜朝昼と1日分の主食になる。水と薬草で蛇肉のスープもいいかもしれない。
火の魔道具を使って調理をしつつ夜の寝床の保温をまかなう。簡易式の結界をカルスさんが貼ってくれたので、安全性は確保されているのだが、念の為交代で夜の番をした。そういえば、森の家以外で寝ることほとんどなかったな今まで。これもいい経験だな。
野宿を繰り返し、襲ってくる魔物を数体屠りながら5日ほど進んだころ、前方300m先に大きな蜘蛛の巣と中心にいる蜘蛛を発見した。と同時に俺の警戒スキルが最大限に警鐘をならす。スキルと本能が同時にあることを告げていた。『危険だ、勝てない』と。どうする・・・?今までも勝てないであろう相手につっこんでいったことは何度もある。ここで逃げ癖がついてしまったらずっと付いて回るんじゃないか・・・?ドワーフ2名と連携をすればいけるのか?だが、この異様な警戒スキルの反応は何だ?ぐるぐると思考をめぐらせる。
「アル 行くのか?どうみてもあれじゃろ?目当ては。にしてもあんなでかい蜘蛛を見るのははじめてじゃな。おっかないわい。」
思考を巡らせ固まっている俺にドワーフの一人が声をかけてきた。
「はい。あれだと思います。だけど、あんなにでかいとは思ってなかったのと、なんていうかこう感のようなものなんですが、あいつとやりあうのはやばい気がするんですよね。。。」
「ふむ。そうじゃの。やばそうじゃわい。」
どうする?5日間もかけてここまで来たんだ。魔物数体だけ倒して帰りましたってのもなあ。。。でも誰か(俺含めて)犠牲がでるかもしれないのに突っ込むべきなのか?立ちはだかる試練でもなんでもない自分の欲のためにやることなのか?いや
「ここまでついて来てもらったのに非常に申し訳ないんですけど、今回は引き返します。」
「いいのか?アル」
「はい。初めての敵にここまで慎重になるのもどうかとは思うんですが、今回は嫌な予感がどうしてもぬぐえないんです。」
「そうか。わかった。引き返そう。」
うん。。。これでいい。わからない時は警戒スキルに従うべきだ。ここは無理をする場面じゃない。襲われているならいざ知らず、こちらから出向いているんだし。
今回の討伐を諦めて帰りだしてすぐにカルスさんが
「よく引き返す決心をしたな。えらいぞアル。儂も大蜘蛛は何度か見たことはあったが、あれは別格のでかさじゃだった。内包しておる魔力もなかなかのものじゃ。恐らくバトルコングよりやっかいじゃぞ。しかもアルが気付いておったかはわからんが、さっきのでかい奴以外に何匹も蜘蛛が隠れておったわい。ありゃこのあたりの主じゃろうな。」
まじか?見えてるやつしか気づいて無かった。
「カルスさんならあの大蜘蛛どうにかできましたか?」
「全盛期ならいざ知らず、今は無理じゃな。魔力をお前さんからもらえればどうにかなったやもしれんが。複数の蜘蛛相手に予想外の展開が起きた場合に対処はできんかもしれん。じゃがまあ勝率80%というところかの。」
結構高くない?いけたんじゃね?
「ハッハッハ。いけたんじゃないかって顔じゃの。お前さんも考えておったろうがここは命をはる場面でも賭けてみる場面でもなかろう。戦は情報戦じゃ。第一段階として敵の大きさや数、生息地がわかったし、強敵であることもわかったろう?いまはそれで十分じゃ。」
「いいこというじゃないか カルスさん。がっはっは」
ご高齢の3人がそうじゃそうじゃ がっはっはと笑いあってる。ま、言ってることは正論だな。
「確かに情報は大事ですね。あまり道を作りすぎると攻め込まれかねない?かもしれないので無茶はできませんけど、少しづつ道を拡張していきます。できるだけ自分の力でどうにかしたいというのが本音ですけど応援を増やしてあたるという選択肢を取る場合になっても道は大事ですからね。」
結局今回の収穫は魔物5体の素材のみであった。収穫がなかったわけじゃない。けど寂しい結果になったのも事実である。「大蜘蛛の糸」その存在をはじめて聞いたのはいつだったか。遠いアイテムなことで。
俺の討伐が失敗に終わっても時はいつものように流れていく。森の伐採を行い、子ども達を教え、ダンジョンに稼ぎにも行く。ほんの少しづつ少しづつ皆が村が成長していく。討伐失敗から一か月と少したったころ新しい年を迎え俺は15歳となった。まあ俺自身15歳になったからといっても何か変わることはない。でもエリスと生徒の内3名が10歳になりジョブを授けてもらうこととなった。ちなみにだが10歳になったからといって学校を卒業というわけではない。自立して出ていく分にはとめはしないが、居たいというならいてもらうつもりだ。
家族の長女エリスは、闇魔法の才脳を活かして魔法使いのジョブを選ぶようだ。3名の内1人ロッジは剣士、猫人族ハーフのミアは格闘家をさずけてもらい冒険者を目指す。目指すというか常日頃エリスが隊長となりすでに森の魔物狩りを行っているのだが。エリスは俺のパーティに入りたそうにしていたが、俺は割とどこそこと渡り歩く。エリスは生徒パーティとして森を拠点に少しづつ稼ぐことにしたようだ。兄弟姉妹や生徒達の事も気にかかるようだ。本当に頭が下がる思いである(*´Д`)。最後の一人アンジュは接客業につくために販売員のジョブを授けてもらうようだ。アンジュの接客は10歳にしては目をみはるものがある。なにせ勉強を教えるより接客を教える方が、本当は得意な俺が指導しているのだから。ふっふっふ。彼女は、森の家から町のお店に羊バスに乗って通う予定だ。勤務先は町の宿屋。仕事で帰りが遅くなりそうな時はとめてもらうそうだ。何故に宿屋なのかと聞いてみると。
「村にゆくゆくは宿屋を開くのでしょう?そこで働くための準備をしたいの」
この子にも頭が下がる思いだ・・・皆が皆家族の為村の為に自分の進路を決めている。トーラスに負けて強いアイテム手にいれるぜhehe な どこかの誰かとは大違いである。みんな、ジョブを得るためのお金は俺がだしてやるからな。。。




