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キジトラ

 その知らせは唐突だった。メンバー募集を出した次の週ギルド職員から応募があった事を知らされた。


 希望は出したもののそうそう見つからないだろうと思っていた。いやそんな気持ちで応募していたら失礼というものだ。何にせよ面談だ。まずは話を聞かねば!!


「あの、、、はじめまして。格闘家のトーラスといいます。」


 その男はでかかった。身の丈2Mは優に超えていた。種族はトラ族?いや猫族か。キジトラってやつだ。しなやかな筋肉を持った一個の獣というべきか。そして見かけとは違って丁寧なしゃべり方をしていた。まあ そこはいいんだ。


 格闘家と申しましたか・・・?


 why?


 俺募集したの盾職だよね・・・格闘家って根っからの攻撃職というイメージなんだけど。いや~この世界の格闘家の事知らないからもしかすると盾職が普通だったりするのかもしれないな!!うん。


こそっとギルド職員に聞いてみる。


「あの、格闘家って盾職なんです?」


「いいえ。違いますね。」


 ほう。違うのか。違うのかーい!!えー何で応募してきた?まあいい聞いててみるしかない。


「あのトーラスさん。今回盾職での募集だったのですけど、トーラスさん格闘家ですよね?」


「はい。その、、、僕の方が多分年下ですのでトーラスと呼び捨てで結構です。」


 え?俺14だよ。2m超えたその身体で年下ってこたぁないでしょうよ?(偏見だけども)


「俺14歳なんだけど、歳いくつなんです?」


「13歳です。」


 年下だった。俺今生はそんな成長悪い方ではないと思ってたけど、獣人族はやっぱ成長の度合い違うのかな・・・孤児達にも獣人族いたけど、そんなに人間族と成長かわらなかったけどなあ。熊族の子だけは若干大きかったけどさ。いやいや年齢は問題じゃないんだよ。問題はジョブだよ!!スキル『挑発』だよ。


「ではトーラスと呼ばせてもらうけど、今回盾役で募集してたんだけど、それと挑発スキル使える人って条件と二つで。失礼だけど格闘家というジョブだとどっちも難しいじゃないかと思うんだけど。」


「はい、僕はこの籠手とナックルで攻撃を受け流すことができます。盾や鎧で受けるのではなく、逸らすが主体です。」


 ふむ。一理ある?のか・・・確かに攻撃を受け切れるのであれば同じといえば同じか。がしかし


「敵対心を集めるスキル『挑発』もしくはそれに代わるスキル能力のはあるのか?結局攻撃を受け切れるよりもこっちが重要だと思うんだけど。」


「あります。よければ戦闘力も挑発も両方お見せします。ギルド職員さん 裏の練習場お借りしても?」


「どうぞ お使いください。」


 ふんむ。見せてくれるなら話は早いか。



 冒険者ギルド裏訓練場に移動する。ここには訓練用として刃を間引いた武器が多数ある。俺は斧を手にトーラスの前に立つ。


「さあ、どうぞかかってきてください。アルフレットさん。」


 どう見ても年上の2Mの巨体が目の前に立ちはだかる。なんかめっちゃ余裕あるそぶりだな。体だけ見たら萎縮しそうな体をしているが、年下って聞いた後だとこの余裕っぷりは少し腹がたつ。


「いくぞ!!」


 片手斧を二本両手に持ち戦闘を開始する。片方の斧をトマホークでなげつつチャージで距離を詰め残った片手斧をたたきつける。トーラスは、飛んでくる斧を他愛もなく蹴りではじき返し、チャージで切りかかった俺の斧を小手で受け流す。おいおい全力で攻撃したぞ俺は。一歩も動かず余裕で捌くとか!?「くっ」とか声もらすもんだと思って攻撃してるんだぞ。バトルコングを相手にしてるような手ごたえのなさ・・・このままで終わるものかと斧で連撃を繰り出すも籠手と爪で綺麗にさばいていく。


おいおいおいおい こいつまじつええ。てか本当に13歳かよ!?なんて風格。しかし、しかしだ!!(今日はしかし が多いな(´・ω・`))


「盾役ができるってことは、武器だけでなく魔法に対しても対処できるってことでいいんだよな?」


「!?えっ?」


 お、ちょっと動揺したぞ。


「五月雨」


 一瞬びくっとしたものの、五月雨を受ける。傷を負わす目的では無い強さで放った五月雨だったためか、目だけを守ってただひたすら受ける。魔法への見極めも大したものだ。数を減らして威力を増していく。急所や致命傷になる水球のみ籠手で的確にかわしていく。たいしたものだ。


「もういい、わかった。防御面は文句のつけようがないよ。」


 そういいつつ、俺の魔法でついた小さな傷を俺の癒しの水で治していく。


「良かった。認めてもらえたようですね。」


「じゃあ 挑発みせてもらえるか?」


「わかりました。いきますよ!!」


 『挑発』スキル見たことはあるけど自分が喰らうのは初めてだな。ちょっと緊張するな・・・トーラスの空気が変わった。来る!!


「まーおー マーオ!!」


 はい? まーお?


「えーっと、トーラス。これ何?」


「え?挑発ですよ。」


「まーおって鳴いてるだけに聞こえるんだけど。」


「効かない?そんな うちの部族ではこの鳴き声をかけあえば、喧嘩がはじまるのに?馬鹿な・・・」


 ・・・猫が喧嘩するときに鳴いてる声はこんなだったな。。。確か。。。


「他に挑発あるのかな?」


「ないです・・・」


 うなだれ膝をつくトーラス。


「じゃ、また。」


 立ち去ろうとする俺の足にすがりつくトーラス。おい、早すぎだろ、一瞬で俺の足元に!?こわ


「そんな~お願いします!!何でもしますから~パーティに入れてください~」


「ええい、でかい図体ですがりつくな!!」


「お願いします!!お願いします!!」


「トーラスほどの戦闘力があればどこのパーティでもひっぱりだこだろ?何でうちのパーティなんだ?」


「それは・・・その・・・大人が怖いのです・・・。」


 え?その図体で?いやいや問題はそこじゃない。別に俺たち以外にもこの年齢でパーティ組んでいるのは他にもいるだろう。


「若いパーティなんて他に何組もいるだろう?」


「・・・それはそうなんですけど」


 何か隠してるな?さっきの大人のくだりもちょっと怪しいぞ。


「本当の事を言えば、考えてやる。」


「・・・ほんとに?ほんとに?」


おい、いきなり幼くなるな。


「ああ。話はちゃんと聞いてやる。」


「では、本当の事を話します。本当の理由はアルフレットさんに憧れて、少しでもお役に立てたらって思って応募しました。」


 ・・・憧れる?俺に?・・・えー憧れられるような存在じゃないぞ。容姿もいまいちだしさあ・・・(自分で悲しくなってきた。)でも別に隠す必要なくなーい?その理由。



 詳しく聞いてみた。結構長い話になった。


 トーラスは、猫族の集落で産まれた。5歳の時に親が魔物に襲われ死んでしまう。その後村の格闘家であった叔父に育てられた。親が魔物に襲われて死んだ事、叔父一家も裕福ではなかったこともありトーラスは必死に格闘の腕を磨いた。幸いにして体の成長は人一倍速く、種族性や才能も有りめきめきと腕は上がっていった。10歳になるころ叔父から「もう教えることはない」と言われエレクスの町に冒険者になるべく出発した。町で稼ぎながら腕を磨き育ててくれた叔父へのお礼をすること、自分のような子どもが増えないように少しでも魔物の数を減らそうと心に誓って。


 10歳で町についたトーラスはさっそく冒険者ギルドに加入した。10歳とは思えぬ体格・技も合間って瞬く間にポーターを卒業する。いくつかのパーティにも参加し稼げる額も多くなっていった。3年がたったころ若いものにはありがちな自己の増長を招き、稼いだ金で豪遊しまくっていた。そんなころ俺の話が聞こえてきたのだという。決して強い冒険者でも無い14歳の少年が、孤児を引き取って森で生活しているという。しかも誰の力も借りずである。(実際は結構色々手助けしてもらっているんだけどな・・・)



「アルフレットさんの話を聞いた時、衝撃が走りました。僕は何をやってきたんだろうって。」


 豪遊ですよね?



「自分の力ににおぼれ、集落を出た時の志をすっかり忘れてしまっていました。アルフレットさんの話を聞いて自分が恥ずかしくなり、少しでも孤児達を救うお手伝いができないものかと考えて、パーティに応募させていただきました。本当の理由を隠したのはその、恥ずかしかったもので。すいません。だいたいパーティは大人と組んでました。」


「・・・まずは叔父さん一家とやらに恩を返しては?自分の故郷の集落の手伝いするとかさ?」


「はい、、、そう思って一回、故郷に帰りました。少し稼いでから。でも叔父さんも集落の皆も「お前が稼いだ金を受け取るほど耄碌しちゃいない」って受け取ってくれなかったのです。」


 13歳に言われたらプライドが刺激されたのか、恩返しをするっていう気持ちだけで十分だったのか。そういうところか・・・



 悪い奴ではなさそうなんだけどな。アタッカーばっかりのパーティになってしまう。うーむ。でもまあちょっと前まで誰も俺とパーティ組んでくれる人なんていなかったのだ。ロバのロッキーが唯一のメンバーだったのだ。それを思えば募集してくれるだけありがたい事ではないか。最近割と色々と調子よく行っていたので俺自身おごっていたのかもしれないな。


でも 


「話はわかった。でも即決はできない。一つだけ条件がある。」


「  条件とは・・・?」


「さっきの挑発 「まーお」?だっけか。形にしてくれ。」


「まーお・・・を形に・・・」


 お互い何言ってんだこの会話・・・でも「まーお」だったしな・・・


「き 期限はあるんでしょうか?一度集落に帰って確かめたいことがあります。実際に集落ではあの「まーお」で喧嘩が起こっていたんです。」


「期限は特にないよ。実を言うとアタッカーとしては、こっちが頭をさげてでもうちのパーティに入ってもらいたいくらいだ。ただ、強さを求めてるんじゃないんだ、安全性や安定を考えての盾職の募集だったから。集落までの交通費はこっちが持つよ。」


「・・・ぐすん」


 泣いてるよ。なぜ!? 


「ずびばせん。。。あこがれのアルフレットさんから、こんな言葉をもらえるなんて・・・思ってもなかったので。」


 あこがれも何も、今年俺の事知ったんじゃないのか。泣くほど!?前世でも今世でもここまで慕われたこと無いぞ。ちょっと恥ずかしいかもしれない。


「あの、僕の方が年下なので 兄貴って呼んでもいいですか?」


 何言ってんだ?おい。やめろ。


「それはやめといてくれ。さっきの条件達成できたらギルドに連絡入れてくれ。」


「わかりました。絶対達成してみます!!」


 トーラスは意気揚々と走っていった。走るのもはえー。

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