学校イベント 森での狩り
生徒たちを狩りに連れていく約束をした次の週は、学校の授業構成を体育多めに変更した。運動会の前は、体育が多めになるのと同じようなものだ。ランニング、ラジオ体操(完全に覚えてなかったのでもどきではある。)ストレッチを入念に行う。冒険者になりたい者以外からは若干不満がでていたが、運動会は全員参加なのだ。、、、あれ、全員狩りに連れていくんだっけ?まあイベントだし全員連れていこう。護衛にミツコとニコがいれば概ね大丈夫だろう。
運動は多めにしたけど、小さい子も多いので基礎運動が終わった後は、8歳9歳以外は好きに遊ばせた。追いかけっこをしたり土や砂をいじって遊んだり思い思いに遊んでいた。唯一4歳のエレオノーラだけは、日陰で待機しセーラが面倒を見る。ハーフ吸血鬼の彼女は日中の外での活動はつらいのだ。冒険者ギルドで吸血鬼の事を聞いてみたのだが、
・血を吸う。食事が血というわけではなく、能力として血が吸えるだけ。血を吸うことによって相手から魔力や体力を吸い取ることができる。血を吸われた相手が吸血鬼になるということはないが、吸われると非常に気持ちが良く、人によっては吸われることに依存することになるらしい。
・力も魔力も人族よりかなり強い。エレオノーラは残念ながら魔法の才脳は無かったので魔力はもちぐされ?になるのかも。
・日の光にかなり弱い。活動できないほどではないが、かなり活動が制限される。逆に夜は能力が上がる。
で、ハーフなのでその何割かの能力になる。(可能性としては100%もあるらしいが。)彼女が将来何をするのかわからないが、色々制限を受けることは間違いないだろう。可能な限り力になれればいいのだが。
8,9才は、戦闘訓練を行う。木の棒を武器に見立てて握り方を教えていく。冒険者組以外は動きがたどたどしい。何日か訓練をすると少しづつ様になってきて、非冒険者組もチャンバラ遊びができるようになった。俺も木の棒を握り全員とチャンバラに興じる。8.9歳複数を相手にする、教師の矜持もあり負けてやるわけにはいかんのだと孤軍奮闘する。大人げないともいう。
「先生強い!!」
「はっはっは、あたりまえだろ~!!そうだ、どんな手を使ってもいいぞ~全員でかかってこい!!」
「みんな!!いくわよ!!」
「はい、エリス隊長!!」
わらわらと木の棒を持った子ども達が襲ってくる。その相手をしているうちに俺は気を失った。
「先生ごめんね・・・」
しょぼんとエリスが言う。闇魔法・『闇の玉(安眠効果付与)』を後ろからもらって眠らされたようだ。ファック!!まじか!!闇魔法初めて喰らったけど威力高すぎじゃね?すぐ眠っちゃったぞ。
「い、いやエリスたいしたもんだ。これからもがんばりなさい。」
・・・全員でかかってこいとか言って眠らされちゃった。ハズカシス。。。決めたぞ。俺は魔法に抵抗する術を学ぶのだ。そういえば、、、俺の初敗北はエリスになるの?エリス・・・恐ろしい子。
パーティ練習や戦闘訓練も始めたことだし、体力的にも問題は無い時期かと考え学校の子ども達に畑を任せることにした。なかなかにでかい畑であるため少しづつ管理してもらう事にした。耕して堆肥を土に混ぜたりしながら畑を作っていく。道具はドワーフ達が進呈してくれた。ただ体力が戻ってきたとはいえ、下の子どもたちでは無理そうだった。なので、ドワーフ達やうちの家族も手伝うことにした。冒険者志望組が森から薬草類をとってきてここで増やしたいと言っていた。ダークエルフの姉妹が生徒たちの中にいるのだが、誰かから教わったわけではないのだが本能的なもので植物を育てるのには自信があると言っていた。あくまで自称であるが・・・薬草の採取依頼は常に冒険者ギルドではでている。育てて増やす事に成功すれば生活の基盤にもなりえるだろう。
週末は、パルとダンジョンに潜った。孤児たちの事、俺の行っている学校の事、次週は森で狩りをすることを伝えるとパルも是非参加させてほしいと懇願してきた。別段断る理由もないので了承した。
狩りの日当日、パルを町まで迎えに行き森まで運んだ。パルを見たエリスが俺を皆から見えないとこに引っ張っていきプンスカと、
「先生、パーティ組んでるの男の人って言ってたじゃない、あの人どう見ても女の人だよ!!むちゃくちゃかわいいし!!」
はい、俺もそう思います。
「自分で男だって言ってたし、なんなら見せようかってまで言うぐらいだから、男だと思うぞ。」
何をみせようとしたかを想像したのか、若干エリスの顔が紅潮する。
「えー・・・でも、どうみても・・・」
「本当になあ。。。女だったらなあ・・・」
思わず、本音を漏らしたら闇魔法『闇霧』を喰らった。エリス!?闇霧の魔法は、特定の空間を闇で覆い視界を奪う魔法である。闇に覆われた空間から離れれば影響はなくなる。
「目が、目がぁ~」
「ふんっ。」
エリスが怒って離れていく声が視界を奪われた俺に聞こえた。せっかくなので、有名な視界を奪われる小ネタで場を和まそうと思ったが、わかりきっていたことだが通じなかった。にしてもこの前からエリスはご機嫌ななめだな。お兄さんをとられるとか思ってるんだろうな・・・大丈夫だお兄さんはどこにも行かんぞ(*'ω'*)
セーラとエレオノーラを除いた生徒を全員連れて集落から森に入る。護衛にミツコとニコ、ドワーフ達が数人ついて来てくれた。小さい子はまとめてニコがかついだり、ロッキーに乗せて運んだ。手ごろな獲物を探したいところだが、なにせ狩人の数が多すぎて鹿とかウサギとか鳥とか大人しい獣はすぐ逃げちゃう。子ども達は、獲物は狩れなくても遠足気分なのかとても楽しそうだ。パルも子ども達と手をつないで楽しそうに歩いている。本当に狩る相手がいない。ほうっておいても襲ってくるような魔物も近寄ってこない。今日はだめかもしれない。諦めに似た油断もあったのだろう。その存在に気づかなかったのは。
最初に気づいたのは、ミツコ。
「先生、何か来ますわ。かなり大きくて強い。やばいかもしれませんわ。二匹・・・来る」
がばっと、大型の猿のような魔物が襲ってきた。瞬間ミツコがその猿を蹴り飛ばし生徒たちから引き離した。
「ミツコ!!大丈夫か!?」
ミツコの方へ体を向けたら
「先生、こっちは私が抑えますわ!!もう一匹頼みますわ!!」
そうだったもう一匹いるんだった。慌ててもう一匹を探す。
「アル、右じゃああ」
ドワーフの一人が両手斧で猿の奇襲を抑えてくれた。が、猿の力が強すぎるのか吹っ飛ばされた。
「ニコ、ロッキー、子ども達を頼む!!ドワーフの皆さんも。」
初めて見る魔物で、どうみてもやばい相手。斧をにぎりしめ水魔法をうっすら展開しつつ猿の前に立つ。いつ以来だ?勝てるかどうかもわからない相手の前に立つのは。うっすら手が震えた。これは武者震い、きっとそうだ。
水魔法『水球・五月雨』で牽制するがかわされる。牽制にすらならないのか?よけた猿が何かを投げつけてくる。ギリギリで斧ではじくことはできたが、若干態勢をくずされる。投げたのは、ただの石だった。防御が遅れていたら顔がつぶされていたぞ。腕力もスピードも敵の方が上、さてどうしたものか。なんて考えてる場合じゃなかった。一瞬気を許したら子ども達の前に猿が飛び出していた。
「!!」
果敢にもロイが槍を持って構えていたが無理だ、死ぬぞロイ。
「ロ、ロイ!!」
必死で走るが間に合わない、猿が腕をふりかぶる。殺されたと思った瞬間、ニコが猿の腕をとめていた。ニコが腕をつかみその筋肉が盛り上がったところで猿が腕を振り払い、去り際にはなった横なぎの攻撃がニコの腕を切り裂く。血が一瞬でるも筋肉で止血した。猿もやばいいがニコもやばい。猿の前に再び立つ。コンマ0.1秒にも満たない時間チラリとロイを見たら涙を流しガチガチと歯を振るわせていた。力ではニコの方が上だろうがスピードは猿の方が上だ。こいつと戦う時に気を許せば誰かが死ぬ。子ども達を連れてきたのが足かせになってしまった。どこかで森を舐めていたんだろう。うぬぼれていた。再度『創水』を張り少量づつ『水球』を飛ばす。一球一球の威力を上げ『水球』に脅威度を持たせる。喰らっても大丈夫なものでは牽制にならないと直感する。猿も俺を油断のならない敵と認識したのか、俺から目を離さず『水球』の合間を縫って爪をともなった腕で攻撃をしてくるようになる。その度に斧で応酬するのだが、何度打ち合っても手傷らしい手傷を負わせることができない。俺も何とか攻撃は防ぎ続けているが、こっちは一発でももらえば致命傷である。精神の削られ方が半端ない。体力も俺の方が下だろう。突破口が見いだせない。スマッシュも簡単に受け止められた。チャージは隙が大きすぎてカウンターが怖すぎる。
何分なのか・・・何十分なのか・・・魔法を打ち斧で撃ち合い疲弊していく俺。息が上がってくる。ますますもってやばい。奇をてらうしかなさそうだが、この緊張感の中、疲労が蓄積し頭も碌に働かなくなってきた。とうとう斧で撃ち合った際にさばききれず、胸を爪でえぐられてしまう。何とか骨で攻撃が止まったようだが、結構なダメージをもらってしまう。
「先生!!」
エリスの悲痛な声とこちらに向かおうする姿が見えた。
「エリス、来るな。ロッキー絶対止めろ!」
「でもっ!!」
ロッキーが体をはってとめてくれる姿が見えた。俺は『創水』で作った水でさらっと傷口を洗い流し胸全体を『癒しの水』で覆う。傷口に水が触れた瞬間痛みで気を失いかけた。何か無いか?このままだとじり貧もいいとこだ。ドワーフの二人に叫ぶ
「ファルゲン(ドワーフ)さん、ガーエル(ドワーフ)さん!!少しの間敵を抑えてください。強引に行きます。ロッキー、ニコ絶対子ども達を守れ!!パルも子ども達を頼む!!」
ドワーフ二人「まかせろ!!」
ロッキー「ヒヒン!!」
ニコ「フン!!」
パル「うん!!」
ドワーフ達と少ない隙をみつけスイッチする。ドワーフ二人で俺の代わりに猿と対峙する。武器での攻撃だけならそれぞれ俺以上のドワーフ達だ。子ども達の命優先で守りに回ってもらっていたが、本来ならドワーフ達に任せていたほうが無難なはずだった。が、猿はドワーフ二人を相手にしても悠然と立ち回っている。水魔法の牽制が思いのほか猿には有効だったらしい。俺は、巨大な『創水』を空中に作っていく。俺の手から離れるまでは魔法力が干渉しているのか重さは感じない。だが否応無しに俺が作る水の塊は敵に警戒を生んでしまう。だがそれでいい。目いっぱい目立ってやる。




