魔物使いと行く ダンジョン地下1F
その日の前半は、俺がスライムを斧で切りつけ体積を減らし(決して殺さないように)パルが核をナイフで倒すを繰り返した。時折核がむき出しにまでなったスライムにはスラコをあてがい安全に倒させる。ゲームの新人レベルアップというか、パワーレベリングというべきか。教育と接待と補助とお手伝いと・・・まあ冒険ではないな。スラコはただがむしゃらに敵スライムの核を溶かし、パルは必死にナイフを振るい続ける。回復魔法もあるし(減ったスラコの体積は欠損扱いなのか、俺の回復魔法では効果が無かった。)スライムは相手としても脅威もなく順当に狩りは進んだ。前のように誰も地下1F来ていないということもないようで、スライムとの遭遇率・量ともに適度なもので、塊で出くわす事はなかったのも順当に進んだ要員であろう。始めに挑んだ時よりも俺の腕も武器の性能もあがっているので、もし塊ででくわしても斧だけで簡単に倒せる自負もあるが。
「パル、お昼にしよう。休憩だ。」
ダンジョンの角地、安全地帯で休憩をとることにする。二人とも弁当を持参しているのでそこで食べる。飲み物は、俺の水魔法で二人分を注ぐ。
「ふぅ、こんなに戦闘をしたのは初めてだよ。アルはすごいね。スライムって結構切りにくいはずなのに、斧でズバっなんだもの。」
「解体作業してただけあって、パルのナイフさばきもなかなかだと思うけどね。スラコなしでも普通にスライム倒せるんじゃないかな。」
「あーそれは少し思ったんだよね。前にダンジョン挑んだのがかなり前だったから、今日スライムを切りつけてみてあれって思った。結構ナイフのとおりがいいなあって。」
「多分ナイフのスキルレベルがあがったんだろうね。午後は俺の補助なしで一回スライムやってみようか。」
「わかった。あーそれとね、前もって言っとかなくちゃって思ってたんだけど、今日の報酬の分配なんだけど、僕はいらないからね。」
「え、それじゃあダンジョンに来た意味が?」
「いや、そんなことないよ。まともにダンジョンに行くことも出来なかった僕を連れてきてくれただけで十分さ。」
「といっても・・・」
「君は「教師」なんだろ?僕は生徒みたいなものだ。教わる側が報酬をもらえないよ。いつか生徒を卒業して本当にパーティメンバーになれた時、その時は僕も報酬をもらうさ。」
ニコリと微笑むパルに俺はそれ以上言葉を紡がなかった。彼がそれでいいならまあいいかと。
午後から敵スライムが一匹の場合は、パルが一人で挑んでみる。俺が補助している時よりも時間はかかるものの、傷らしい傷を負うことも無くスライムを倒せていた。俺はというと敵スライムをスラコが処理しやすいように斧でさばく作業要員だ。・・・ペットの餌やりじゃね?これ。
そうこうしているうちに問題なくボス部屋にたどり着く。総合的に見てボススライムは、パルとスラコでは倒せない。徹底的に補助に回ることにし、ボススライムの強さを体験してもらうことにする。
「ここが、ボス部屋なんだね。ドキドキするよ。あれが、ヒュージスライムかぁ。スラコよりもかなり大きいね。」
ヒュージスライム?ボススライムの名前を初めて知った。と、ボススライムがこっちに跳んできた。『創水』で作った水の弾幕で受ける。はじかれたボススライムに向かって弾幕を流用し『水弾』を見舞う。水の玉がボススライムの体積を減らしていく。時折酸を吐きだすが問題なくかわしていく。
「パル、隙を見て戦闘に参加してみて。結構体積を減らしたからスライムアタックはそれほど怖くないけど、酸は絶対躱してね。結構強力だから。」
「うん、わかった。」
ナイフを握り締め、体を少し硬くしたパルが答える。
「パル、体がこわばっている。深呼吸して一度落ち着いて。」
「はい!!すーはーすーはー よし!!」
アドバイスを出しつつ、パルが攻撃をしやすいようにさらにボススライムの体積を減らし、斧の上部分でボススライムを動けないように抑えつける。度重なる攻撃でスライム核もややむき出しになっている。
「やー!!」
ナイフを片手にボススライムに突進するパル。スライム核にナイフをズンと刺し込んだ。その瞬間にボススライムは体を維持することができずに溶けだした。
「お、一発でスライム核を壊したね。十分いけるじゃないか。」
「はぁー緊張した。まああれだけお膳だてされたらさすがに僕でもやれるさ。」
といいつつ、ナイフをぐっと親指を立てるように俺に見せてくる。どうだと言わんばかり。
スライムゼリーはやがてダンジョンに吸収されて魔石が一つ残っていた。それを拾いパルのギルドカードを転送装置に登録する。
「ダンジョン地下1F踏破だね。おめでとう。」
「ありがとう、なんかもう連れて来てもらった感と倒させてもらった感がすごいけど。それでもやっぱり嬉しいよ。僕がフロアボスに挑んで、倒して地下二階に来れるなんて。」
本当ならもっと地力をつけてもらってから挑んだほうが達成感もあったのだろうが、とりあえずの目標として地下1Fのボススライムの戦力を目にしてもらいたかったのだ。パーティを組んでいるのだからもちろんソロで倒す必要はないんだけど、自信を持って1Fのボススライムを倒したんだって言える力は身につけてもらいたいと思う。パルは筋力は見た通り無いけどもスピードと持久力は劣っているように思えない。経験を積んでいけばそう遠くない日にそういう日もくるだろう。一応俺の『習熟度アップ中』も力になってくれるだろう。
登録を終えた俺たちはダンジョンの入り口に向かって逆走するような形でスライム狩りを続けた。何はともあれパルとスラコには経験(値)を積んでもらわなければならない。パルは戦闘にこそ機会は恵まれなかったけれど色々と知識は勉強していて自分の職業「魔物使い」に関しても良く知っていた。「魔物使い」はレベル5で使役する魔物に意図的に特技を使わせることができるようになるスキルを覚えるらしい。もちろん魔物が特技を持っていればだが。スラコは特性として火に弱く、斬撃に少し強く、打属性にはかなり強い。攻撃方法としてスライムアタック(体当たり)と溶かすを持つ。スラコはレベルがあがるほどに、耐性(防御力)が増し溶かす能力や消化速度があがるそうだ。そしてレベル5になると『弱酸攻撃』を覚えるらしい。そしてありがたい事にスライムはレベルが低いうちは、レベルが上がりやすいらしい。レベル10になると進化も可能だそうな。
「進化?レベルが10になった瞬間に形とか種族とかが変わるの?」
「うううん、進化させるにはアイテムがいるよ。アイテムによって進化条件が変わるみたい。魔物全般が同一の進化条件ってわけじゃないらしいけどね。」
「へぇー、パルは進化アイテムを持ってるの?」
「ははは。持ってるわけないじゃない。今までも必要なかったんだもの。それに高くて手が届かないよ。安いものだと進化しても今と変わらないっていうしさ。」
「高いってどのくらい?」
「錬金ギルドに売ってるんだけどね、毒スライム系や酸力の強いスライムに進化させるアイテムが1金貨。スライムに包まれると回復を行ってくれるようになる回復系スライムの進化アイテムが3金貨。他にも色々あるよ。でも最低価格が1金貨をわることはないみたい。微小にしか強くならないアイテムなら10銀貨くらいだったと思うけど。そうそう最近見つかったヒュージスライムに進化させることができる特殊なアイテムが5金貨だったかな。」
・・・な~んか覚えがあるんですけど。ボススライムのレアドロップじゃないのかそれ。俺から1金貨で買い取って5金貨で売ってるとは。情報は大事だな・・・いやなんとなくそうじゃないかって思っただけで同じとは限らないんだけれども。
俺たちは夕方まで延々とスライムを狩り続けた。稼ぎとしてはいつもよりも下がってしまったけども、生活できないほどではない。ちりも積もればなんとやらだ。ドロップ品としては小さな魔石がたくさんとスライムオイルだけだったので、いうほどかさばることもなく行きと同じように二人でロッキーにまたがって帰ることになった。
「本当ありがとね。アル。あの、そのアルさえよければなんだけど来週もいっしょに・・・?」
上目がちに言われたら、、、
「もちろんだよ。」
「やったー、約束だよ!!じゃあ、またね。」
満面の笑顔のパルと別れた。
森に帰って夕飯の時に、そういやパーティを組んだ事言ってなかったなと思い話したのだが、珍しくエリスが拗ねた。
「先生とパーティを組むのは、私だって決めてたのにぃ!!私も先生とパーティ組む!!」
初耳なんですけど。学校での自己紹介の時に「先生を助けていきたいです。」とは言ってたが・・・
「エリスには危ないだろ?魔物と戦うんだぞ。」
まだ9歳の女子はさすがに連れていけないだろう。
「平気よ!!ダークボールでホーンラビットも倒せるんだから。ね、ロイ。」
え?いつの間に。ホーンラビットはスライムよりも強いぞ。
「うん、今8、9歳の冒険者志望組達とでドワーフのおじさんたちに見てもらいながら魔物狩ってる。パーティの基本を教えてやるって。」
ロイがドワーフに連れられて魔物を倒す訓練をしているのは知っていたけどそういう動きになっていたのか。
「私が闇魔法、ロイが槍、ロッジが剣、ミアがナックル、ソイレがレイピアと風魔法(生活)で、パーティの勉強してるの。」
立派なパーティですね。。。回復役がいれば完ぺきだな。はっ!?
「いや、まあ魔物倒してるのはびっくりしたけれども、ケガしたらどうするんだ?」
「小さな傷を前衛の子がもらった時は、先生に教えてもらった薬草を使ってるよ。ほとんどケガらしいケガしたことないけど。だいたい私の眠りの魔法で寝かせてから倒してるし。」
あら、便利。これなら連れていってもパルの面倒みるのと変わらないかも・・・とパルには悪いが思ってしまった。けど、確かダンジョンに入るのには冒険者ギルドで登録しないといけなかったし、冒険者ギルドに入るには職業カードが必要だったはずだ。年齢的にダンジョンには連れていけない。
「う~ん、ダンジョンでは無理だけど、森の中ならまあ。ただし毎回じゃないからな。」
「本当!?、先生!!やったー!!」
「えー、ずるーい。コニーも行く!!」
「マリーも行く!!」
「わかったわかった。全員で森で狩りをしよう。ただし、2週間後な。」
子守りにしかならない気がする。でも、エリスがこんなこと考えてくれてたなんてなあ。。。お兄ちゃんは嬉しいやら心配やら。(気分的にはパパだけど、年齢的にはお兄ちゃんだよね!?)




