孤児院
次の週、獣素材をかついで今度は、冒険者ギルドに向かう。まずは素材を売る。穴だらけのダイヤウルフはひどい値段だった。五月雨・・・強いのにグスン。それでも、牙やらなんやらで25銀貨になった。森の獣はいいお金になるのだが、生態系もあるから無尽蔵の狩りはできない。まあ魔物の繁殖力は半端ないらしいが。さて、たまには依頼をこなすぞって意気揚々と掲示板に向かおうとしているとまぶしいスキンヘッドが目に入る。ちょいちょいと手招きしている。
「なんでしょう?ギルド長。」
「坊主、ランクDおめでとう。」
めっちゃ真顔で言ってきた。なんか怖いな、
「・・・ありがとうございます。じゃあ、また」
ぐわしと肩つかんできたんですけど。痛いんですけどぉおお。
「ランクD冒険者様にお願いがあるんだ。というか坊主に。直接依頼ってやつだな。」
逃げられそうにない・・・
「どういった依頼なんでしょうか?」
「坊主は、この町で先週あった不正事件の話は知ってるか?」
「いえ、森とダンジョンにしか行ってないので知りません。」
「実はな、この町の孤児院長が横領と虐待と人身売買の罪で捕まった。孤児院の存在は知ってるよな?」
確か、俺が引き取らなかったらエリスやロイは孤児院に行っていたはずだ。おれはギルド長の言葉に静かにうなずいた。
「孤児院は、町の人からの善意の寄付、各ギルドや領主からの援助で運営されていたんだ。修繕費や生活費や食費なんかをその金にあてていた。もちろんそれだけでなく、孤児たちもそのお返しとは言わないが、自分たちでできる町の人へのお手伝いや清掃活動などを行い、少ないながらも自分たちで稼ぎもしていたんだが。で、先週孤児院長の娘から通報があり院長が行っている不正行為が明るみに出た。」
娘からか・・・話を本人から聞いてみないと本当のところはわからないが親を通報することになるなんてつらかったろうな。ギルド長が話を続ける。
「子ども達は、ご飯や服も碌に与えられず、常日頃暴力を振るわれたらしい。通常10歳になると神殿で職業を授かり働きにでるのだが、働き先としてあまりよくない性癖をもった貴族のところを紹介しお礼にお金をもらっていた。要は売られたということだ。」
嫌な話だ。
「院長は捕まる際に武器を持って抵抗し、その時に通報した娘は子ども達をかばって負傷し目が見えなくなった。まだ12歳だというし、運営を引き継ぐのは無理だろう。それに町の人からの寄付は打ち切り、領主やギルドも援助の打ち切りが確定した。孤児院単体で運営もできるはずもないだろうし恐らく全員奴隷送りになる。いずれ再開することもあるかもだが、世論が変わらなければ無理だろう。かなり先の話になる。建物もひどいありさまだったので来週には取り壊される。」
「貴族と買われた子ども達は?」
「現在捕まえた院長から聞き取りを行い、貴族の洗い出しを行っている。院長は恐らく死刑になるだろう。何組かの貴族はすでに捉えられ爵位や財産の没収が行われた。子ども達は、無事な者もいたがすでに亡くなっていた者も多かった。精神に異常をきたしもどらないものもいるという。。。行っていた行為に関しては、いや聞かない方がいいだろう・・・」
もし、家の子ども達が預けられていたらと思うとぞっとする。本当にひどい話だが、俺への依頼の話が見えてこない。
「坊主への依頼なんだが、残された孤児院の子ども達をどうにかできないか?期限は、一週間。これは俺からの個人依頼になる。どう転んでも責任は問わないし先に成功報酬と活動費として2金貨用意する。まだ成人もしていない坊主にこんな無茶なお願いするのは、本当に申し訳ないと思っている。だが子ども達自身に罪は無かったと思ってる。頼めないだろうか?」
「なぜ、俺なんです?もっと影響力のある人はいっぱいいるでしょうに。」
「町の人間は今回の事件に関して子ども達に罪は無いとは理解しつつも、孤児院に関しての悪感情はすてられないだろう。それに奴隷といっても何も死ぬわけでもない。孤児院に引き取られることもなく奴隷として売られる子どもも多いからな。だから誰も助けはしないだろう・・・本来ならば俺が動ければいいのだろうが、汚い言い様だが立場上難しいんだ。坊主に頼んだ理由はいくつかあるんだが、ひとつは前に盗賊にかかわっていた子ども達を面倒見ていること。職業が教師である事。森で生活するならば悪感情にさらされる恐れは少ない事。サイクロプスさえも保護した事。なにより少ない係り合いだったが坊主の人となりを俺は信用している。」
正直、係わっていない赤の他人を助けるつもりなどこれっぽっちもないし力も無いが、聞いてしまうとさすがに何かしてあげられないかと思ってくる。なにせ相手は子どもだ。(まあ俺も前世で言うと中学生なんだけど。)それに森には今ドワーフ達がいる。食費さえ確保できれば生活はどうにかなるだろう。ドワーフ達に頼るって言うのも申し訳ない話だが。
「ギルド長。その どうにかっていうのは具体的にどうすればいいんでしょう?」
「奴隷にならないで生活できればと考えている。奴隷が必ずしも駄目ってわけじゃないんだが、自由とは一生無縁になるだろう。可能性を残してあげたくてな。。。それに、実は俺もこの町ではないが、孤児院出身なんだ。幸い戦闘は得意だったから冒険者としてやってこれたんだが。」
「わかりました。ただ、子ども達と話を聞いてからにします。本人たちが奴隷の方が良いというのであれば、俺が動いても仕方ないと思いますし。前に聞いてた話では、奴隷の扱いもそんなに悪いものではないそうですし。」
「わかった。虫のいい話で本当に申し訳ないが、無理をいってすまないがよろしく頼む。結果については後で報告してほしい。どう転んだとしても成功扱いにしギルドへの貢献として扱わせてもらう。」
ギルド長から2金貨をあずかり孤児院の場所を聞いて向かった。孤児院の外観は確かに古く修繕もされていないようでぼろく見えた。ドア越しに声をかけると少女の声が中から聞こえた。少し時間がかかったが中からでてきたのは杖を持った少女だった。目の焦点があっていない。恐らくこの子(多分俺より少し下くらいの年齢)が院長の娘だろう。
「こんにちは。冒険者ギルドから依頼があって話を聞きにきました。D級冒険者のアルフレットといいます。」
「こんにちは。この孤児院で最年長のセーラといいます。ギルドからこられたというのでしたら色々ご存じだと思われますが、私は孤児院長の娘でした。目が見えなくなって少ししかたってないのでまともな案内もできませんが、どうぞ中に。」
セーラさんは、ぎこちなく杖を使い奥にあるイスのところまで案内してくれた。その際にもっと小さい女の子達が横についてサポートしていた。その子達もだし、びくびくしながら俺を見ている他の子ども達もガリガリにやせ細って見える。服もボロボロだな。
「冒険者ギルドからの依頼ということでしたが、、、どういったお話しなのでしょうか?」
セーラさんが恐る恐るといった感じで聞いてきた。
「その前に聞きたいのですが、この孤児院と子ども達がどのような扱いにあるかはご存じなんですよね?」
「はい・・・来週には、孤児院は取り壊されると聞いています。食べるものも残り少ししかありませんし、このままだと奴隷になると聞いています。奴隷というものがどういったものかを含めてここにいる子達にも伝えてあります。小さい子も多いので本当に理解しているかはわかりませんが。」
「ギルドからの依頼ですが、とある方がなんとか君たちが奴隷では無く、普通の人として生きていけるよう手助けをしてもらえないかということでした。率直に聞きますが、楽な暮らしとはとても言えませんが、私と私の家族とともに森で暮らすというのはどうですか?もちろん森の中ですから魔物や獣もいるので必ずしも安全ではありません。奴隷の方がいいというのであれば、このまま私は帰ります。」
「・・・森で生活ですか?私は今、目が見えず碌に動けません。子ども達も・・・私と私の父さんのせいなんですが、食べる物も少なくまともに動ける子は少ないと思います。大丈夫なのでしょうか?」
セーラさんがそう話すと、孤児院の子ども達から「セーラお姉ちゃんは何も悪くない!!」と声があがる。ああセーラさんはいい人(子)のようだ。慕われているらしい。
「まあ、、、さっきも言いましたが絶対に安全だとは言いませんが、最低限食べていくことは保証します。森で野菜も作っていますし、私は獣を倒して肉をとることもできます。」
「声だけ聴いてると、とてもお若い方だと思われますが、すごいのですね。アル様は。」
「生きていくのに必死だっただけですよ。あー言い忘れていましたが、面倒をみるつもりではありますが、はじめはしっかり食べてもらって体調が整ってきたら、私や私の家族とともに野菜を作ったり動物の世話をしたりなど色々やってもらおうと思います。それと私の職業は教師です。読み書きや計算も教えることができます。」
「・・・すごくまぶしいお話しですね。でも、でも、私は何もできません。アル様のそして子ども達のお荷物にしかなりません。前は子ども達の衣服を縫ったりご飯を作ったりしてあげていましたが、この目では・・・裁縫もこんな具合です。」
セーラさんは、ところどころ血にまみれた布きれを出してきた。糸が縫い付けてある。見えない目で一生懸命縫う練習をしたんだろう。見えないであろう目から涙がこぼれている。
「セーラお姉ちゃんをいじめるな!!」
「セーラお姉ちゃんを守れ!!」
やせ細った子ども達が、セーラさんをかばうように両手を広げて俺の前にたつ。震えている子どもも多い。
「貴方たち、この方は私をいじめているんじゃないのよ。あなた達を助けてくれようとしているの。聞いてくれる?このまま奴隷になるのと森で働きながら生活するのとどっちがいい?」
「セーラお姉ちゃんといっしょのとこがいい!!」
「セーラお姉ちゃんに付いていく・・・」
子ども達がギュッとセーラさんの衣服をつかむ。
「貴方たち・・・。でも私は。。。もう。。。何も・・・うぅ」
セーラさんが嗚咽をころしながら泣いている。本当に慕われているようだ。
「セーラさん。君は何もできないなんてことはないよ。もし森で暮らすなら子ども達の精神的な支えになれるのは君しかいないだろう。どうだろうか、俺と一緒に森に行きませんか?」
「うぅ、本当に、、、本当にありがとうございます。お願いします。」
森でいっしょに住む新しい仲間ができた。




