優しさに包まれたなら
さて、新しい家畜は何を買おうかな~♪そろそろ牛かな~とご機嫌な様子で俺は堀を作っていた。
「アル お主の掘るスピードは異常じゃな。スキルか?」
「はい、『穴掘り』というスキルです。」
「戦闘力はまだまだじゃが、多才じゃの~。」
ザックザックと今まで以上のスピードで堀を作っていく。ドワーフ達は、前もってライムントが作ってくれていたしっかりした柵を畑or牧場に打ち込んでいく。穴を掘る速度もあがってると思うが、ドワーフが用意してくれた鋼鉄製のシャベルの出来はすさまじく、武器として使用していた手斧よりも攻撃力は高いんじゃないかと思われる。
「いやあ、ドルイアスさんが作ってくれたこのシャベルすさまじいですね。」
「カッカッカ。この森に来たドワーフは儂含めてエリートだからの。この前ボンガルがアルに渡した斧もなかなかじゃろい。」
ドライアスさんもボンガルさんも森に来たドワーフの一人だ。ドライアスさんは、シャベルを、ボンガルさんは斧を作ってくれた。金はいらんとかたくなに受け取ってくれない。ボンガルさんが作ってくれた斧も例に及ばずかなりの技物である。切れすぎてびびった。じいさんからもらった手斧はトマホーク用に変わった。
ザックザックとさらに堀を作っていく。スキル『穴掘り』にドワーフ製の鋼鉄シャベル。300m正方形を囲む堀が恐らく2日で終わりそうな勢いである。我ながらオソロシスなスピードだ。俺は人を突破したかもわからない!!穴掘りだけ・・・うぉおおおおおおと堀を作っていきながら家畜に思いをはせる。そして思いだす。
「あ、金がねえ」
し、しまった。最近狩りにもダンジョンにも行ってない。少しの獣素材以外売るものもない。生活品を買うくらいしか金がない。多分1金貨くらいは残りそうだが。この大きさの牧場の草刈りの代わりになるほどの数の牛などを買うのは無理だろう。
「刈るしかない このビッグ畑を。」
そして耕さねばならない。
悶絶しているとドライアスさんが近寄ってきた。
「どうしたんじゃアル。」
「いやあ、ここ大きくしすぎちゃってて、畑だと管理できないので草刈りついでにしばらく家畜を買って牧場にしようとしてたんですけどね。」
「そうじゃな。そうお主から聞いたな。」
「で、何の家畜を買おうかなって考えてたんですけど、よくよく思いだすと最近稼ぎに行ってなくてお金なかったんですよ。」
「ほうほう。金か。う~ん。ちょっとまっちょれ。」
ドライアスさんが、とっとこと走っていった。しばらくするとドライアスさんがドワーフ長老のソーグリムさんを連れてきた。
「アル、近々伝えようとおもっとったんじゃがな。町へ買い出しと武器や防具を売りに行こうと思っておる。」
行けばいいんでないのか?報告いるのか?
「でじゃ、儂ら全員一致の考えじゃが、売った分から少しだけ世話になっとるお返しをしたいと思っておる。」
「いやいや、畑の手伝いなんかもしてもらっておりますしもらえないですよ。それにキュクロの世話や食事もみてもらってるのに。」
キュクロはドワーフ達といっしょに生活しており食事も彼らが面倒を見てくれている。キュクロは雑食性で肉でも穀物でも何でも来いだが、なんせ体がでかい。良く食う。鍛冶を教えてくれたり、俺やロイに武器の使い方を教えてくれたり、武器や道具をもらったり、正直食費の面以外でもかなりドワーフ達に助けられてる。これ以上助けてもらうのは申し訳なさすぎる。
「じゃがのう、儂らは金を稼ぐのは腕一本あればどうとでもなるが、キュクロと金床の恩恵は今までいくら大金をつもうが手に入らなかったものじゃ。本当に恩を感じ取る。万が一キュクロが討伐されてでもしておったら、儂らは永遠に手が届かなかったかもしれん。まだ深淵に触れただけじゃがの。」
「はぁ。」
「頼む。儂らに恩を返させてくれい。」
お金をくれる方が頭をさげるというよくわからない構図になっている。何か断りずらいし受け取らせてもらうか。
「わかりました。色々と本当にすいません。」
結局売り上げの一部をもらうことになった。申し訳なす。
次の日、一人1台づつ荷馬車を持ったドワーフ21人と町へ行くことになった。ドワーフ達は各々武器や防具を荷馬車に積んでいる。素人目に見てもどれも出来は素晴らしそうだ。それを売った金で鉄や銅などの資源、食料を買うのだそうな。俺は、3枚のワイルドドボアの毛皮、牙を荷馬車に積んでいる。本当に売るものが無い。荷馬車には子ども達と他にライムントの家具だけだ。イスと机、後は小物類。彼の商品も売れるといいのだが。今回は買いだしの他にマリーとケビンのスキル証明カードを神殿で発行してもらうのだ。スキルの確認は俺の『本』でできるので市民権の証明をもらうようなものだ。
非常に目立つドワーフ軍団と分かれて神殿、食料等の購入、冒険者ギルドを回った。最後に入った冒険者ギルドで魔物素材を渡すとギルド職員から
「アルフレット様、先ほどの納品でランクDに昇進可能ですが、されますか?」
あれ、俺ほとんど依頼こなしてないんだけど・・・解せない顔をしていると
「大きい声では言えない話ですが、この前のサイクロプスの件が加算されております。あとDランクへの昇進試験ですが、エレクスの迷宮ダンジョン5Fを踏破できる武力もしくはそれ相当となっております。アルフレット様は5Fを踏破されたと報告があがっておりますので問題ございません。」
なるほど、キュクロの件は詫びも兼ねてかな。隠ぺいもあるのやもしれん。
「ランクDお願いします。」
よく分からないうちにランクD。うん、特に感慨もないな。冒険らしい冒険してないしなあ。まあいいや。
待ち合わせの場所に向かうと、荷馬車を鉄鉱石や食料でいっぱいにしたドワーフ達が待っていた。
「ほれアル、売り上げの一部じゃ。」
長老ソーグリムさんが渡してくれたお金の額に驚いた。10金貨はある。
「ソーグリムさん これ多すぎですよ!!」
「見てみい、ちゃんと鉄も食料も買ったわい。それに各自蓄え分も取ってある。なんせ、儂らの武器は冒険者に大人気じゃからの。普通は順番待ちの武器防具じゃからな。卸値とはいえ、いい値で売れたわい。」
と、ニカっと笑い親指を突きたてた。
「それにじゃ、畑を作るにせよ牧場を作るにせよ、儂らの食料事情も考えての事じゃろう。思うように使ってくれい。」
「わかりました。ありがたく使わせてもらいます。」
本当にいい人たちと知り合いになれた。
「アルよ。家畜を買うのもいいが、奴隷を買って畑を任せるというのも一つの選択肢じゃぞ。」
「奴隷ですか?」
「奴隷は、逆らうことはできぬからな。キュクロやミツコ様の事も問題ないじゃろう。」
ドワーフ達もミツコを様づけしている!?今知ったが何をしたんだミツコ。奴隷の事は一応知識としては知っている。
奴隷は、奴隷の首輪で縛られる。奴隷の首輪を扱えるのは国から許可を受けた奴隷商のみ。奴隷の首輪は、奴隷商しか付けることも外す事もできない。奴隷商はいわば公務員でもある。奴隷商になるには特殊なスキルが必要なうえ、契約の魔法を強いられる。契約を破った奴隷商はその能力を失う他、逆に奴隷に堕ちる。場合によっては死ぬ場合もある。
色々な種類の奴隷がいる。家が貧しくて自ら奴隷になるもの(俺がなりかけたのはこれ。)戦争捕虜として奴隷になるもの。借金が払えなくて奴隷になるもの。犯罪を犯して奴隷になるもの。
奴隷は、金額が付けられる。当たり前だが売値である。能力・スキル・容姿・年齢・種族など。色々な要素によって値段が決まる。奴隷だからといって殴る蹴るなどの危害を加えることはできないし、性的な欲求を無理やり行うことなどは禁止されている。犯罪行為とされている行為を強制はできない。だがそう言った類の命令以外には逆らえない。命令に逆らった場合は死もありえる。
奴隷主には最低限の衣食住を保証しなければならない。奴隷主が解放を願った場合、奴隷は解放される。
奴隷の首輪は、魔物や動物には効果は発生しない。
俺の知っていることはこれくらい。ギルドでその辺のおっさんが教えてくれた情報だ。この国の奴隷の扱いは優しい。かなり人権的だと思う。買う金があって奴隷を養えるなら労働力としては破格だろう。そう買う金があるならば・・・
「奴隷って10金貨で買えるもんなんです?」
「え、儂知らんけど。おめえら知ってるか?」
「儂も知らん。」
「儂も」「儂も」
何故 話を振った!?おい。
「行けばわかるじゃろう。」
それもそうだ('ω')
子ども達を連れていくのも気が引けて、一人で奴隷商の元へ向かった。汚い檻にいれられて鎖でしばられているようなイメージがあったのだが、すごくきれいな建物だった。受付に通されて面談部屋のような所に案内されお茶まででてきた。眼鏡をかけてスーツのような服をきた男性が出てきた。
「こんにちは。どういった奴隷をお探しでしょうか?」
「10金貨で買えて、農業のできる奴隷はいますでしょうか?」
「いないですね。金額が足りません。お帰りはあちらになります。またのお越しを。」
ぐほあ。
帰らされた。なんかこう訳アリとかさ~色々あんじゃん。話ふくらまそうよ~。優しさ!もうちょい優しさをくれ。それと上の長たらしい説明はずかしいんだけど。まあ誰に説明したわけでもないんだけども。
しょんぼりと皆の待つところに向かうと、顔色から察したのか皆も下を向いた。本当気のいい連中だぜ。
改めて、家畜を買うためにぺトラさんの店に向かう。家畜屋に向かうと告げるとコニーとマリーがそわそわしだした。
「あのね、コニーマリー今日は、ペット買うんじゃないからね。ヤギとか鶏のような家畜を買いにいくんだからね。」
「私ヤギも鶏も好きー。」
「マリーも好き。」
ええこやらなあ。頭撫でといた。
「いらっしゃい。久しぶりだね。君を待ってたのよ~。」
つくなりぺトラさんの第一声がこれ。嫌な予感。いや、今までの事を考えると良い予感なのかもしれない。
「えーと、俺を待ってたとは?」
さあ 今回は何が出てくるんだ?




