迎えと別れ
二日間、獲物を探し回ってグレイウルフ2匹、ホーンラビット2匹を何とか狩れた。出てほしくない時には襲ってくるくせに、出てほしい時は出てこない。理不尽である。今回はすぐに町へ持っていくので皮は剥いだだけである。なめす時間はない。少ない獲物だったが荷馬車に積み込んで町へ向かう。行きは少ないが帰りは食料を荷馬車に積んで帰る予定である。アイダさんも連れて帰ることもあるかもしれないので毛布も積んだ。
町についた。最近は森から町へ出勤している気分である。まっすぐに冒険者ギルドに向かう。受付はアリエッタさんだった。
「こんにちは アリエッタさん。この前の続きのお話がしたくてアイダさんに取り次いでほしいのですが」
「こんにちは アルさん。その 言いにくいのですが アイダさんはもう」
「え?うそでしょ?」
いや、短い付き合いだがアリエッタさんがそんな嘘をつく人ではないだろう。
「昨日の夜に。。。もともと気力のみで頑張っていたようなものでしたから。遺体はまだ前の部屋に。。。今子どもたちがお別れをしています。あと伝言をあずかっています。ここではなんですので別室でお伝えしますね。」
ケガはゆっくりでも治していけたと思うが、病気は今の俺ではどうにかできたと思わない。それでも療養して栄養もとっていけばどうにかできるまで時間は稼げるんじゃないかって考えてたけど・・・
アリエッタさんに案内されて3日前とは違う部屋に案内された。
「アイダさんからの伝言です。『3日後と約束しましたが、私の命はもうないようです。直接お会いできなくてごめんなさい。不本意な人生でしたが子どもも授かりました。子どもの父親は盗賊の誰かということしかわかりませんが、死んだか犯罪奴隷のどちらかだと思います。願わくば君があの子たちを引き取る事を選択し、少しでも人として生きる喜びを与えてくれればうれしいです。ほぼ初対面の君に無理を押し付けてしまうことになるかもしれませんが、どうかどうかお願いします。何もお礼もできませんがどうかどうかお願いします。』」
俺は泣いていた。重いよ。アイダさんの人生も、あの子たちの人生も、それを背負う決心をした俺も。でもこんな係り方をして無視できるほど俺はすれていない。もちろん引き受けるつもりここに足を運んだのだけど。じいさん、あんたの孫がたくさん増えるぜ。
「アルさん?」
泣いている俺を心配そうにのぞき込んでくるアリエッタさん。
「すいません、、、伝言を聞く前からあの子達を引き取るつもりでここに来ました。今の伝言を聞いて
余計に決心が固まりました。アイダさんが眠っている部屋に案内してください。」
「そうですか。アルさんの年であの子達を引き取るのは大変でしょうけど、お願いします。」
「はい。俺もじいさんに拾われて助けられました。今度は俺が助けれる番だと思っています。」
アリエッタさんに案内されて3日前にアイダさんがいた部屋に案内された。眠るようにベットに横たわるアイダさん、それにすがるように泣く5人の子どもの姿が見えた。5人ともすごく痩せている。痛々しいくらいだ。アイダさんに近づくとお辞儀をして手を合わせて1分ほど拝んだ。他の人が見れば何やってるのかわからないと思うが、こっちの拝み方なんて知らないし。。。心の中でアイダさんにこの子達を引き取る決意、安らかに眠ってくださいと伝え泣いている子どもたちにしゃべりかけた。
「こんにちは。」
一番大きい赤毛の女の子が目をこすりながら返事をした
「ヒック、んぐ、お兄さん、、、もしかしてアルフレットさん?アイダ母さんが、アルフレットさんって方が来るからきちんと挨拶をするのよって。」
「うん、俺の名前はアルフレット。アイダさんと君たちに会いにきたんだけど、アイダさんは間に合わなかったよ。。。」
「んっと、わ、わたしの名前はエリスです。7歳。そしてこっちの子が、」
エリスは、泣いている子達を順番に並ばせて自分で名前を言うように伝えた。
「僕の名前はロイです。6歳です。」
エリスよりも少し小さい金髪の男の子が名乗った。そしてもう一人金髪の女の子が続けて
「わたしはコニー。5歳。」
ロイから ですを付けろと怒られて慌てて「コニーで、です。」と言い直す。最後にずっとアイダさんにくっついて泣いている双子の子がエリスに俺の方に向くように言って挨拶をした。
「ヒクヒク。わたしマリー。みっつ」
「ぼ、ぼくケビン。ぼくもみっつ」
この子達がアイダさんの実子の双子だろう。アイダさんによく似た目をしている。髪の色はアイダさんの黒髪とは違う茶色だが。ちなみに、俺は黒髪黒目、前世と同じだ。
「アイダさんから何か聞いてるかな?」
赤毛のエリスが答える。
「えと、アルフレットさんが迎えに来ていっしょに森で暮らすようになるかもって。全員ついていきなさいって。アイダ母さんは病気が治ったら後で行くわって言ってたのに。。、、うぇ~ん。」
一斉に泣きだす。ああ、また泣きスイッチが。。。アイダさんは俺が受けてくれるっていう前提で話を進めていたのか。もしくは、子どもたちも使って俺を説得したかったのか。どちらにせよ結果は変わらない。
「そう。アイダさんは残念だったけど、、、皆でいっしょに森で暮らそうか。俺もまだ子どもみたいなもんだから、君たちもお手伝いはしてもらいたいけど。ごはんはきちんと食べれるよ。」
「うううん。アイダ母さんから言われてたし行く。。。でも、でもお願いだから殴らないでね・・・私もこの子達も、痛いのいや・・・」
殴らないでって、盗賊め!こんなちっちゃい子達を痛めつけてたのか。やはり盗賊はゆるさん!!
「大丈夫だよ。悪い事しない子をたたいたりはしないさ。」
悪い子は教育的指導ももあるかもしれません。
「わかった。いいこにする。」「ぼくも」「わたしも!!」「マリーもいいこにする。」「ケビンも!!」
良かった。素直そうな子達じゃないか。
「うんうん。皆で頑張っていこう。えとね、少し町で用意済ませてからまた来るから。少しだけ待っててね。あと、アイダさんだけどいっしょに森へ連れていこう。森で埋葬してあげようか。」
いいんですかね?と後ろ手に控えていたアリエッタさんに目で尋ねるとうなずいてくれた。
子どもたちを(と言っても俺も見た目は子どもの範疇だが)部屋に残し用事を済ますことにした。アリエッタさんといっしょに受付に向かう。
「前に依頼達成した証明書になります。」
まんぷく亭の女将さんがサインしてくれた依頼書を渡す。
「それと素材の買取をお願いしたいのですが。」
グレイウルフと草原狼の毛皮、爪、牙、ホーンラビットの毛皮、角とそれぞれの魔石を渡す。
「わかりました。査定に少しお時間をください。」
素材を後ろに控えてる別の職員が受け取った。
「今回の依頼ですが、まんぷく亭のビーナさんが大層喜んでおられましたよ。もしアルさんが次も受けてくれるなら報酬を上げたいそうです。それと、この前の盗賊討伐の追加報酬ですが、20銀貨になります。」
結局素材と合わせて50銀貨になった。やはりグレイウルフの素材は高く売れる。油断すると死にかねないが。これだけあれば、元盗賊アジトから持ってきた生活雑貨含めて生活もできるだろう。
町に入り、雑貨屋で食料を買う。前に買った分でもそこそこ持つと思うが、5人も増えるし余裕を持たせたい。前に食料を買ってからあまり日がたってないのでジェフさんも不審がる。
「おいおいアル、少し前に食料買いこんだとこだろ?表に荷馬車尾見えるし商売でも始めるのか?」
「いえ、子どもをひきとることになりまして。5人も。少し余裕を持っとこうかなと。」
「ふえ?子ども引き取るって、お前もまだ子どもだろうに。ジョブの事もあるし変わった奴だなあ。自分から苦労しょいこんで。」
「ま、成り行きみたいなとこもありますけど、昔助けられた人の見内でして。恩返しって意味もありますね。」
「そうなのか。ま、がんばれよ。俺は物が売れてばんばんさいだしな(笑)」
「えと、ジェフさん、裁縫道具に釣り針と糸ももらえますか?」
「ん?裁縫できるのか?その引き取る子は?」
「わかんないですけど、その子の母親が使っていたのは、かなり使いつぶされてたので。もしできるなら買っといてあげようかと。ま、俺も少しならぬえますし。」
日本の教育は優秀です。小学校から家庭科で習うからね。
「他に何かいるものはあるか?」
「勉強道具も買いたいですが、さすがに紙を使うは高すぎますし、、、ん?これって黒板?」
「それか、それは石板だ。この石筆と言う蝋石を使って書くんだ。消すのは布で消せる。」
なんか前世で見たことあるような気がするが、チョークと混同してるのかな?
「これ6セットあります?筆は少しだけ多めで。」
「あるよ。紙使うよりは安いけどそこそこするぜ。使い捨てじゃない分もちはいいだろうけどよ。」
結局なんやかんやで30銀貨消えていった。
「まいどあり~」
ジェフさんはほくほく顔であった。ついで古着屋で5人分の子供服を買った。盗賊のアジトから持って帰った衣服はほとんどが大人用。そこから作り直せなくもないが俺のあやふやな裁縫技術では厳しいかもしれない。なので、一応服も買っとくことにした。古着でも衣服は結構するもので、5人前ともなると10銀貨が消えていった。本当に生きていくのは、金のかかることばかりだ。残金はもともと持っていた10銀貨ほどと、さっきの残りの10銀貨。合わせて20銀貨だ。それと今から子どもたちを迎えに行ってエリスとロイとコニーは、職業神殿に連れていかないと。これで3銀貨消えるな。ふぅ。正直俺の『本』があればスキルや才能は見れるんだけど、身分証明作っといたほうが後々いいだろうしなあ。よし、行くか。
冒険者ギルドに向かい、アイダさんを毛布にくるんだ後、荷馬車に乗せた。子ども達も荷馬車に乗ってもらい職業神殿に行く。3人分の才脳を見てもらい、カードを作った後、森へと向かった。子どもたちには、何があっても荷馬車から出ないことも約束させた。魔物が出た時にうろうろされると命が危ない。彼らも俺も。懸念は杞憂に終わり別段襲われることなく森の家についた。
別れをすまし、アイダさんは火葬した後爺さんの墓(大木の下)の横に埋めた。火葬することや別れることを下の子3人は理解できていたかどうかは不明だったが、俺と一緒に手を合わせて祈った。
さあ これから大変な生活がはじまるぞ。責任も重大だ。できたら子どもより先に嫁さんがほしかったが仕方あるまい。。。




