別れ
義父さんから剣を受け取った翌日、何事もなく畑の種蒔きを行った。
いつも愚痴を呟きながら作業をするファイド兄さんもそれを叱るジャック兄さんも黙々と作業をしていたのがどうにも気持ち悪かった。
それを告げたら一発ずつげんこつをもらったけど。
夜はいつも通りの食事を行いいつも通りだらだらと話して過ごした。
特別別れを惜しんだりすることもなく全員が眠りにそれぞれの部屋へと戻っていった。
眠れぬ夜、何てことはなくぐっすりと眠り日も上らない早朝。
今、居間にいるのは旅の身支度を終えた僕と義母さんだけだ。
「ロイル、怪我をしないようにとは言わないわ。悔いのない様に、自らの意思を強く生きるのよ」
「うん」
旅立ちは早朝、母親以外誰にも見送られずに行われる。
旅立ちのあとはその人の事を語るのは禁じられる。
いなかったことにされ将来、一度でも戻ってきた時に初めて心配だった、いなくなって寂しかったと思いを解き放てる。
これは追い出される者だけに苦しみを背負わせるのではなく追い出す側も追い出したのだと意識を強く認識させる為なのだとか。
人一人を追い出して気楽には生きてなんていけない。命を軽く見たときそれは人では無くなるのだから。
という掟によるものだ。
「それじゃあね、義母さん」
「お土産をよろしくね?」
「はは、任せてよ」
僕は最後にテーブルに置かれていた剣を背中に背負い革袋の紐を肩に担ぐ。
「じゃあね…義父さん、ジャック兄さん、ファイド兄さん」
それぞれの部屋の扉が小さく揺れた。
「行ってきます」
そうして15年間生きてきた……育ててもらった家を出た。
村の出入り口がある中央広場へと向かう途中、まだ早朝だというのに家々には明かりが灯され窓からは黒い影が手を降っているのが見える。
姿は消してみせないが掟を破ってまで旅立ちを送ってくれる村人たち。
お昼くらいには村長から村人全員がお説教を食らうんだろうなと思いを思わず笑みがこぼれる。
本当に……愛されていた。
必ず帰ってこよう。
そう強く再認識した僕はずり下がってきた革袋を担ぎ直し入り口へと向かう。
「……っ!?」
入り口に近付いてきたときに見えた人影にまさかと心臓が跳ね上がる。
「セルフィー……ジアン……」
入り口塞ぐように立っていた二人に思わず声をかける。
「なにやってんだよ、二人とも」
「怒られるのは覚悟の上さ、それでも掟を破ってでも見送る。俺たちの中は掟なんかに縛られはしないさ」
キザったらしくいうジアンに思わず苦笑しどちらからともなく手を強く握り合う。
「手紙はいらんからな」
「ふん、商隊が噂を運ぶほど活躍して安心させてやるよ」
ニヤリとお互いに笑い合いながら最後に肩を叩きあった。
「俺は今後何があっても知らないし沙汰にしないから安心しろよ」
「は?」
最後に意味深なことをいいながら家へと戻っていく。
「我らが将来の英雄の旅立ちだ!掟?知らねぇよ!俺達は未来永劫何があっても親友だ!」
もはや隠しもせずに大声で叫びながら堂々と歩くジアン。
遠く見える村長宅の二階窓からは両手を広げやれやれと首を振る村長が小さく見えた。
そして僕が見ていたことに気付いたのか慌てたように辺りを見渡したあと小さく手を振ってくれた。
二代揃って掟破りなんて……ご先祖様から怒られるだろうなぁ。
そんな事を考えながら振り向く。
「セルフィー……」
「……」
セルフィーは俯いたまま何も話さない。
「またいつか会おう」
近づき肩にポンと手を置く。
「………るから」
「え?」
突然顔をあげたかと思うと…
「は?」
「いってらっしゃい!」
そういうとセルフィーは逃げるように走り去る。
「へ?」
残ったのは甘い香りと唇に残った柔らかい感触だけだった。
ジアンもセルフィーも影薄すぎぃ!
ほんとはもっとこう青春!みたいな感じにしたかったんですがまだハンターにすらなっていないのにだらだら続けてもね……。
あくまでもロイルは多くの人に愛されているってことが伝わると……嬉しいなぁ