辺境開拓村での一日【朝】
「ロイルー!ロイルー!?」
「ここだよ!どうしたの、義母さん?」
振り下ろした鍬に寄りかかりながら流れ落ちる汗を手拭いで拭う。
「あぁ、そこにいたのかい。ジャックとファイドが森に狩りに行くらしくてね。お昼は向こうで食べるそうだからこれを届けてほしいんさ」
僕の前にゆっくりとした動作で現れたのは義理の母親であるマルシャだった。
差し出してきた右手には二つの皮袋がぶら下がっており中にはきっと義兄二人の昼飯となるパンが入っているのだろう。
「いいけど畑を耕すのが…」
「もう去年と同じくらいは耕し終わっただろう?ジャック達が帰ってきたら種まきをするけど十分な広ささ」
義母さんは続けて「あの子らは耕しすぎだと怒るだろうけどね」と苦笑する。
「もう村の広場に集まってるだろうから急いで頼むよ」
「わかったよ」
鍬を義母さんに渡し皮袋を受け取る。
「転んで泣かないようにね」
「やめてよ、僕だってもうすぐ15だよ?転んだって泣いたりしないさ」
走り出して振り向きながら「言ってきまーす」と手を振る。
「気を付けるんだよー!」
背に義母さんの声を受け止めながら僕は村の中央広場へ向かって走り続けた。
広場についたときには装備の点検が終わったのか各々が立ち上がり村人たちと挨拶しているときだった。
「ジャック兄さん!ファイド兄さん!」
見慣れた赤い髪を靡かせるジャック兄さんと短く刈られた髪ファイド兄さんに呼び掛けながら手を振る。
「お?ロイルじゃないか」
「そんなに急いでどうした?」
二人は同時に振り向きこちらに手を降ってくれた。
「よかった、間に合った!」
息を切らせながら二人の元にたどり着くと義母さんから受け取った皮袋を二人に渡す。
「あぁ、パンを届けくれたのか」
「お、あんがとよ!」
ジャック兄さんが中身を確認するとファイド兄さんは僕の頭を撫で回す。
「うわわわ!?」
「今日は肉を食わせてやっから楽しみにしとけよー?」
「ははは、ファイド。できない約束はしない方がいいぞ?」
「うるせーよ!くそ兄貴!今日こそ俺が勝ってやるからな!」
「さてどうだろうかな?」
ジャック兄さんは余裕を見せながら僕の肩に手を置いた。
「所で畑の方はどうだ?今回は雪解けが遅かったから去年よりは耕せていないだろう?」
どこか不安そうに聞いてくるジャック兄さんに安心させるように笑って見せる。
「大丈夫だよ」
「そうか、ならばいいが…」
「去年より広く耕せそうだから!」
「ちょっと待て!?」
「違うっての!?」
二人の兄さんが同時に、慌てたように肩を掴みと頭を鷲掴む。
「去年より…なんだって?」
ギリギリと徐々に力が込められてくる痛み。
「去年より広く…」
「やめて!?」
「やめろ!?」
「やめろよ!?」
「いただだだだ!あれ?今一多かったような?」
悲鳴が三人分聞こえた事を不思議に思い兄さん達と声がした方を見ると悲壮感漂わせる義父さんが立っていた。
「う…おほん。畑は去年と同じで良い。よくやったぞロイル。今日は明日からの種蒔きに備えて自由に過ごしていいぞ」
赤い髭を蓄えたガタイのいい男。
山で出くわせば山賊と間違えられるのが悩みだというこの人こそ僕の義父さんボーランドだ。
「ほんと!?」
「あぁ。だから畑を広げるのは止めるんだ」
義父さんの言葉に兄さん達は大きく頷きながらこちらを見る。
「わかったよ、なら今日は村の中でゆっくりと過ごさせてもらうね」
「そうしろ。肉を取って帰るからな楽しみにしておくんだ」
余裕を見せながら力強く言い切る。
兄さん達二人を合わせてなお安心感を感じさせてくれる。
「義父さんがそう言うなら安心だね。義母さんにもご馳走の準備をしておいてと伝えておくよ」
「うむ。所で俺の昼飯は…」
「出発するぞー!」
「お!行くか!兄貴!」
「ああ。じゃあまた夜になロイル」
「うん!いってらっしゃい!」
「ロイル、俺のパン…」
「親父!早くしろよ!」
「父さん!置いていかれるぞ!」
「頑張ってねー!」
「あれ?俺、家長だよね?」
森へと入っていく村の男たちを他の村人たちと見送りながら手を振る。
さて、今日は何をしてすごそうかな?
仕様がまだわからない…。
少しずつ覚えていきますね!