1.再戦
人の数だけ■想郷ということで生暖かい視線で見守りください。
この作品の基本コンセプトはZUN×クリストファーノーランです。
また先代巫女二次創作の影響を多大に受けております。嫌悪感を抱く方はブラウザバックでお願いします。
血のような、火のような
零れて、揺れる
涙と、怒り
某年9月第3週夕暮れ後
人間の里 路地裏
『"精明強幹な古道具屋"森近霖之助』
『"名前のある先代巫女"博麗三珠』
ガヤガヤ……ワイワイ……(遠くから聞こえる祭囃子)
霖之助「10年前、君が戦火の中から救い出し、今日まで共に暮らし育ててきたあの子が、霊夢が人間の里で笑って友達と遊んでいる。これは君が望んだ未来かい?」
三珠「そうね。妖怪大戦争の時よりはいくらか平和になった里と山だけれど、後に続くあの子たちが笑顔でいられることは幸せよ」
霖「三珠、君が起こした大地震で戦争は喧嘩両成敗で仲裁された。だけどその損害は計り知れず君は身を隠した。人知れず生きてきたはずなのに、こうやって里の豊穣祭にお忍びで顔を出し、あまつさえ君の1人娘は祭りを楽しんでいる。僕の師匠の愛娘、魔理沙とね。これは理想的な結末だと僕は思うよ」
三「やれることはやった。でもまだ足りないの。人間と妖怪の絆はまだ結ばれていない。紫が作った理想郷には、まだやり様がある。戦争を終わらせて、人間と妖怪との仲持に自分の人生を懸けたとしても、私が望んだ結末は、まだ先にある、そう感じるの」
霖「巫女の勘ってやつかい?」
三「傲慢かもしれないわね」
霖「博麗の巫女の大活躍のおかげで、確かに八雲の理想郷は治安と健全さを取り戻しつつある。僕が自分の店を建てられたのがその証拠だよ。商売は平和の証さ」
三「香霖堂、霖之助さんのお店、完成したら私も行きたいわ」
霖「霧雨店からは睨まれているけどね。僕が魔理沙と仲良くしていることも含めて、ね」
三「霊夢も連れていくわ。あの子も行きたがっていたから。10歳にもなると好奇心も旺盛よ」
霖「霊夢と魔理沙、同い年の少女二人と、店を持った僕と、巫女の任に就く君とで、…互いを良く知る4人で、一緒に生きていけたら、まるで家族みたいに、幸せなんだろうな」
三「人間と妖怪が共に生きる理想郷、その時が来たら、きっと実現するわ」
同、表通り
"まだ幼い巫女の卵"博麗霊夢
"炉無しの魔法使い"霧雨魔理沙
ガヤガヤワイワイ(人々で騒がしい屋台並木)
魔「待てよ!霊夢~!」
霊「あはは!魔理沙も飛べばいいのに~!」
魔「くっそう!魔法使いになれたら箒を使って追いついてやるのに!」
霊「そんなの無くても私は地面から浮けちゃうんだよ~」
魔「金魚すくいでも水風船でも霊夢が勝って私の負け…悔しい!」
霊「魔理沙は動きが硬いのよ~ほら、秋の神様の踊りだよ~」
霊「でっかい桜の木!」
魔「花が無いのに桜なのか?」
霊「ここまで登っておいで~」
魔「こうなったら意地でもよじ登ってやる……」
ヒュルルル……(何か飛んでくる音)
三「あら、何の音かしら?」
霖「花火じゃないかな。もうすぐ打ち上げるって…」
……ドガアン!(爆裂音)
霊「きゃあああ!」
魔「霊夢!大丈夫か!」
霊「あ、ありがとう、魔理沙、いきなり屋台が爆発してびっくりして落ちちゃった」
魔「良かった、怪我はないみたい。でもいったい何が…」
霖「魔理沙!霊夢!無事か!怪我は!?」
三「霖之助さん、二人とも大丈夫みたい。それより今はここから離れないと」
霊「母さん!霖之助!」
霖「さんを付けろとあれほど…今は良い、魔理沙、僕は霧雨店の方を見てくる。三珠と霊夢と一緒に逃げてくれるか?」
魔「な、何が起きているんだ???」
三「この爆発は事故じゃない。妖怪の山から人間の里に向けた攻撃よ。大砲を使った遠距離砲撃。それも特大の弾丸を飛ばせる戦争の道具を使っている。魔理沙ちゃんのお父さんとお家で働いているみんなが無事かどうか、今から霖之助さんが確認してくるから、霊夢と魔理沙ちゃんと私とで、博麗神社まで逃げるの」
霊「母さん逃げるの!?戦わないの?」
三「霊夢と魔理沙ちゃんを安全なところまで避難させてから、母さんは山に向かうわ。事の次第を突き止めてやる」
霖「さあ、魔理沙、三珠と霊夢と三人で行ってくれ」
魔「三珠姉ちゃん、妖怪の山、怖くない?」
三「私だって本当は泣き虫で弱虫よ?1人の女の子ですもの。だけど霖之助さんや霊夢や魔理沙ちゃん、みんながいるから、戦えるの」
魔「戦うためには、逃げることも必要ってこと?」
三「そうね。そういうこと」
霖「さあ、霊夢も」
霊「母さん」
三「どうしたの?霊夢」
霊「何か飛んでくる」
三「え?」
ドガアン!(再度爆裂音)
霖「間一髪ってところか!?」
三「霊夢が居なかったら全員三途の川を渡っていたわ!私の結界が間に合ってよかった!」
魔「霊夢すげえ」
霊「飛んでくる音が聞こえただけ。母さん、魔理沙、逃げよう!」
三「ありがと、霊夢。霖之助さん、また後で」
霖「うん。分かっている。君たちも気を付けて。三珠、死ぬなよ」
霊「人間の里が、燃えている」
三「これから魔法の森沿いを抜けて一気に博麗神社まで戻るわ。あそこが一番安全だから」
魔「やっぱ、三珠姉ちゃんの方が霊夢より飛ぶの速いな」
霊「べーっだ。魔理沙はそもそも飛べないじゃん!」
魔「なんだと!」
三「こらっ、二人とも、あんまり喧嘩していると閻魔様の…」
人間の里と妖怪の縄張り、田園と森林との境
"赫怒の紅い雨"秋静葉
静「人間ども、貴様ら、私の妹に手を出して無傷で済むと、本気でそう思っているのか?」
人間1「うるせえ!秋静葉!妖怪の山からの砲撃なら、報復は人間ならざる魑魅魍魎に向けるのが筋だろう!お前らは豊作の神だがなんだか知らねえが、農民じゃねえ俺達からしてみれば妖怪と変わんねえ!」
静「お前らが神と妖怪の区別も付かないほど信仰心がない不届き者であることは理解した。人ならざる我々へ向ける敵意も、10年前から何も進歩していない怠け様もな」
人間2「里の祭りに先に火を放ったのはお前らだ!俺はあの混乱の中で恋人を亡くした!彼女を殺した妖怪も、暴れる奴らを放置した神も、俺は許してない!今この場でお前の妹、秋穣子を処刑する!使う道具は農民の鍬や鎌だ!」
三「これはマズイ」
霊「母さん、これって人間と妖怪の戦争がまた始まっちゃうんじゃ」
魔「そうなったらやばくないか?」
三「ええ、分かっているわ二人とも。あなたたち二人が生まれた頃に、私は妖怪大戦争に終止符を打った。再戦はさせない、絶対に」
霊「それで私たちはここに隠れていればいい?」
三「森の中なら見つからないわ。人間も神様も気が立っているから、博麗の巫女が両者の怒りを鎮めなければならない。この理想郷の平和を守るために必要なことよ、そしていつかあなたが受け継ぐ役目、知っているわね霊夢」
霊「うん!」
魔「…三珠姉ちゃん、巫女さん以外が異変の解決屋になるのは、だめ?」
三「うーん、だめってことはないけど危ないし怪我もするし悲しいこともあるし、大変な仕事だから、お姉さん個人としてはおススメはできないわね、魔理沙ちゃん、霊夢の手伝いをしてくれることは嬉しいけど、自分のやりたいことは自分で見つけなさいね」
魔「…わかった!」
三「二人とも良い子ね。戦争の解決かあ…10年ぶりだわ」
"平和と豊穣の象徴"秋穣子
穣「ね、姉さん…静葉…!私の責任です…私が油断したから…こうなってしまったの…姉さんまで表に出ないで…この人たちは私が説得してみせますから…事を荒立てないで…」
人間3「黙れ、小娘!神だが知らんが今のお前は人質、立派な交渉道具だ」
静「諦めろ、妹よ。人間はお前のことを道具だと罵った下に見て虐げた。故にこれは信仰の崩壊、人間と神との絆の欠落の証だ。今一度、神への恐れを人間に知らしめろと、時が来たと、天の声がそう高らかに叫んでいる。田と森の境、里と山、私の怒りを今この場で、燃える色の森と共に開放してみせよう」
人間1「な、なんだ!?魔法の森が赤く…紅葉か!?」
人間2「い、いや違う!紅葉なんてものじゃない。まるで木々が、全ての葉が燃えるような赤色だ!」
静「妹が、穣子が傷つけられた怒りで森の精霊たちが怒りに燃えている。お前たちの慢心を焦げ炭に変える魔力の炎だ。今更後悔しても、お前たちは超えてはならない一線を超え、入ってはならない領域に入ってしまった、既にもう遅いのだ。人間ども、お前たちは見るに50はいるだろうか…だがこちらの精霊の数は、その一千倍だ」
人間1「何も考え無しで突っ込んできたと思うな!霧雨の術式を使った障壁武具だ!」
静「ふん、人間どもの抵抗ごときがどこまで続くのか興味がある、私の精霊の火炎に耐えてみろ!」
ザザ……(秋静葉の前に躍り出る三珠)
三「止めなさい。秋静葉。あなたは神々の中でも穏健派だったはずだ。しかし今のあなたはまるで過激派の妖怪と変わらない。自らの狂気に呑まれて人々に害をなす神に堕ちるなら、博麗の巫女の手で滅するのみよ」
静「博麗三珠…お前が起こした大地震の名残りを私は、私の精霊たちは忘れていないぞ。森の大地を割られた禍根を、木々の根を割かれた記憶を、魔法の森はしっかりと覚えている」
三「戦争を終わらせるのに必要なことだった。今のあなたは過去の自分が許した事実でさえ忘れ暴走している禍つ神。木々の傷は10年でも癒えないが、今日この日秋穣子を傷つけられ悲しみを負ったあなたの心だけは、せめて癒しを受け入れるに足る度量を持っていることを願うばかりだ」
静「神の度量を疑うなど、巫女にあるまじき蛮行だな。最も信仰に深く準じるべき人間が、敬い讃える存在の強さを信用しないとは」
三「理解に頂き、言葉もない」
少年「博麗の巫女…神様を言いくるめたって、俺はそうはいかないぞ」
静「お前は何者だ。少年」
少年「巫女は人間の味方か敵か。そんなの答えは決まっている。巫女は人間の敵だ、妖怪の味方だ。巫女が人間のために妖怪を根絶やしにさえすれば、俺は両親も兄弟も亡くして天涯孤独にならずに済んだ!どうして山に囲まれた人間の里以外で生きる術がないんだよ!どうして生まれたときから妖怪の恐怖に憑りつかれて怯えて暮らさないといけないんだよ!どうして俺は家族を妖怪に殺されたんだ!答えろよ!理想郷の巫女!」
三「あなたは、あなたの家族や友人は、運が悪かった。きっとあなたは、この理想郷で生きても、外の世界で生きても、同じ分だけ、不幸な人生を歩んでいた。家族のことは諦めて」
少年「…分かった。俺は俺の家族のことは諦める。…ただしお前の“家族”には執心してやるよ」
静「なっ」
三「霊夢!」
霊「こんのお!放せえ!」
人間4「おら、ガキ、こっちだ」
魔「三珠姉さんごめん、こいつらがいきなり襲ってきて」
人間5「減らず口を叩くな。霧雨さんのところの娘だから加減はしてやるが、暴れたらただじゃおかねえ」
人間4「へへへ、巫女の娘だから飛べるらしいがなんだ?まだ全然へなちょこじゃないか」
霊「うっうるさい!」
魔「そうだ!霊夢はすげえんだぞ!」
三「霊夢!魔理沙ちゃん!口を閉じてなさい!」
霊「母さん…」
魔「ぐっ仕方ないぜ」
少年「どうだ?博麗三珠の娘、博麗霊夢が人質だ。巫女、お前に選択肢をやる。乗るか?」
静「三珠よ、耳を貸すな」
三「…一つ聞かせて。どうして人里にそんな拳銃があるの?」
少年「これか?これは魔界からの流れ物だそうだ。なんでも術式を破壊する術式を込めた弾丸を撃てるとか。良いモノだろ?」
三「なるほどね。いいわ。あなたが私に選択肢を与えると言うのなら、霊夢と魔理沙ちゃんの安全を保障するのなら、喜んで乗りましょう」
少年「ははは、乗っちまったなあ。言っちまうぞいいんだな?今この場で秋静葉を殺害するか、自分の娘を見捨てるか、どっちか選べ!どっちにしろお前は生き残る!秋静葉を殺したら秋穣子から一生恨まれて暮らせ!神殺しをためらい、自分の娘を見捨てたら、一生自責の念に駆られて苦しみの中で死ね!これが俺の家族を見殺しにした“理想郷”への復讐だ」
三「秋静葉、霊夢…安心して。二人とも死なないし傷つけさせない。約束するわ」
少年「何を言っている?お前がどちらか1人殺すことになるんだよ。秋の神様はお前自身の手で、次の巫女候補はお前の決断で俺の拳銃が殺すんだ。それ以外の選択肢なんてないんだよ」
三「霖之助さんには悪いことしちゃうわね。約束、守れないわ。…ところで大地を鎮める神を封印したらどうなると思う?」
少年「は?」
三「こうなるのよ。夢想封印!」
ドゴオ!!!!(大地に衝撃)
グラグラグラ!!!(地震)
人1~5「うわあ!」
秋姉妹「きゃあ!」
少年「くそっ地震か!」
ダアン!!(銃声)
三「霊夢!魔理沙ちゃん!」
魔「すっごい地震!これって三珠姉さんが…」
霊「母さん!後ろ!!!」
三「え?」
ダアン!!(再度銃声)
グラグラグラ・・・(余震)
霊「母さん?」
魔「へ?三珠ねえ…」
三「かはっ…」
ポタポタポタ……(三珠の腹から血が垂れる)
少年「この弾で俺の地面だけ揺れを止めたんだ、大地が安定したところで照準を合わせて撃つだけの簡単なこと……馬鹿な女だ」
三「霊夢…魔理沙ちゃん…逃げて…」
人間1「巫女殺しだ」
人間5「大妖怪どもが黙っちゃいない。まずいぞ」
穣「な、なんてことを…」
静「今更言葉もあるまい。再戦だ。巫女の息の根が尽きると同時に、それは開戦の合図だ」
霊「母さん?母さん?どうしたの?綺麗な巫女服が…真っ赤になっているよ」
三「霊夢…これはね…母さんの命の炎の色、赤く燃え上がる勇気の色よ…霊夢も好きでしょ?」
霊「うん、母さんの服、真っ赤な色だけど、暖かいから、好き」
三「でも霊夢、あなたがこの血の色に染まってはいけない、誰の血も見ないと、最後に見るのは母さんの血だと、約束して」
霊「うん、約束する。手も顔も母さんので血まみれだけど、私、誰の血も見ない、最後に見るのは母さんの血、…これでいい?」
三「霊夢は良い子ね、よくできました。母さんの自慢の娘よ」
魔「うえっ…ぐえっ…」
三「魔理沙ちゃんも、霊夢も、これからも涙を流すことはたくさんあるだろうけど、私も泣き虫で弱虫だったけど、男の子に負けない女の子になってね」
霊「母さん!」
魔「み、三珠姉さん!」
三「霊夢、あの少年を憎んだり恨んだりしないで。秋静葉、私の名に免じて戦争は始めないで、優しい妖怪が起きてしまうから」
トクン……(三珠の最後の心臓の鼓動)
三「霖之助さん、ごめんなさいね…」
人2「里のご神木が焼け落ちたぞ!」
人4「大変だ、民家に火の気が回ったら大火事だ!」
人3「木は全部切り倒せ!風が強くて危険だ!」
霊夢の記憶はここで途切れる。
(つづく)
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