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作者: 中川夏希

「ふと目が覚めた。いつもと視界が違う。辺りを見渡すが、やはりいつも見てる光景よりはるかに下だ。まさか…とある少年が薬で小さくなる漫画を思い出した。もしかして自分も…?頭によぎった。鏡の前に立つ。そこに立っていたのは子どもになった自分ではなく、二足で立っている犬だった。

「はは…なんだこれ…。犬?分かった!これは夢だ!」

昨日飲み過ぎたのか…まだ夢を見ていたのだ。と言いたいが、柔らかい肉球で顔を叩いても側にあるタンスに体をぶつけても中々夢から覚めることはなかった。

「どういうことだよ…。俺…犬になったのか…」

まさかの展開についていくことができなかった。まさか自分が犬になるなんて、世界中探してたって早々いないだろう。

「とりあえずあれだ。もう一度寝ればいいんだ!!」

とりあえず寝る。一番の解決策。

そして一時間後。気持ちよく寝れた。

「なんで戻ってないんだよ!」

相変わらず犬だった。それにしても犬種が…

「チワワかよ…」

大きな目と耳。自分はもし犬になるならば、もう少しいかついドーベルマンの様な犬かと思っていた事があった。

「仕事…どうしよう…」

会社に連絡をしようにも、柔らかい肉球のせいで携帯を持つこともできない。それどころかこの状況をどう説明しようか…考えても答えは見つからなかった。

「外に出るか…」

外に出ることにした。二本足で。

町を歩くと、普段何気なく通っている道が犬目線に見るととても新鮮で何から何まで感動した。

「なにあのチワワ…二本足で歩いてんだけど…キモい…」

すれ違う女子高校生が自分を見て言葉を放つ。一見側から見れば人間のように歩く犬をキモいと言うのは珍しくないだろう。仕方なく犬の真似をする。今は本物の犬だが。

「歩きづらい…」

四本の足で歩くがぎこちないのは目に見えていた。

気がつけば公園に着いていた。二匹の犬がボールを追いかけ回していたのが見える。

「犬なんだから犬語って話せるのかな…」

物は試しだ。二匹の側まで行き、話しかけた。

「やあ、初めまして。この町初めて来たんだけど色々教えてくれないかな?」

こっちを見ながら黙る犬。

「お前…名前なんて言うんだよ?」

通じた。犬の言葉が分かったことに感動してしまい、質問が頭に入ってこなかった。

「おい!聞いてんのかよ!」

そして怒られる。

「あ、ごめん、なんだっけ?」

「だーかーら!お前の名前!」

「あ…俺の名前は…木村健太…」

「健太ぁ?人間みたいな名前だな」

仕方ないだろ…元は人間なんだから。そう言うとしたが、とりあえず黙った。

「おい健太。お前元町の八百屋の裏に行け。兄貴がいるから、そいつなら色々教えてくれるだろう」

兄貴…?元町の八百屋は自分がよく店だったため場所はわかる。でも兄貴って親分的な奴のことか?とりあえずそこに向かった。

八百屋裏に着いた。しかし誰もいなく、ものは静かで鼻にかかる匂いがする。

「どこにいんだよ…兄貴って奴は…」

あたりを見渡すが、それらしき姿はなく仕方なく帰ることした。

「誰だお前は」

「うわ!」

背後から突如聞こえる低い声。それに驚いてしまった。

「えっと…ケンタと言います!あなたが兄貴さん?ってか…」

そこにいたのは自分が思ってたものと違った動物だった。

「猫…?」

「ふっ…犬かと思ったのかよ」

鼻で笑うが、あの犬たちが敬意するのがこの猫だとは誰も思ってはいなかっただろう。もしかしたら、猫の方が立場が上なのか…?

「えっと…名前はなんて言うんですか?」

とりあえずの質問。

「名はない。好きに呼べ」

一言二言で返された。猫といってもそこら辺にいる野良とはどこか違い、風格がある。まず目の前にいる猫に俺は犬になりましたと伝えるべきか…。

「ケンタ、着いてこい。俺の縄張りに案内する」

名もない猫の後ろを歩くことにした。こいつならなにか知ってるのではないかと、心のどこかで期待をしていた。

「おい、一つ聞いていいか?」

「っ!…なんでしょうか?」

歩く途中で猫が話しかけてきた。

「お前はなんで犬になったんだ?」

この質問の意図が自分にはすぐ分かった。こいつは俺の正体を知っている。そう確信した。

「知らないよ。朝起きたら犬になっていたんだ。しかも何故かチワワ…惨めだよ」

「そうか…」

猫が寂しげに相槌をする。

「他にもいるのか?俺みたいなやつは」

「あぁ…ケンタの他に一匹。元は一人、いた。人間の汚さにうんざりしたんだろう」

「汚さ?」

「ドブとかではなく、人間の汚い心の話だ。さて、ここが俺の縄張りだ」

気がつくと、隣の町の商店街に着いていた。自分もよく通う馴染みのある商店街。猫がふっと姿を消した。

「おい!どこにいったんだよ」

目で探すが、見つけることができない。

「ゴローじゃないか。今日も来たのかい?」

声の聞こえる所を見た。ゴローと呼ばれたさっきの猫が精肉店のおばさんと戯れていた。なんだか可愛く見えた。

「なにやってる?ケンタも来いよ。餌もらえないぞ」

そうか。餌をもらうために懐かれてるのか。ゴローの側に行き、自分もおばさんと戯れる。

「この子、あんたの友達かいゴロー?そしたらいつもより多めにあげるね」

案外楽に餌はもらえた。

「少ないなぁ」

ケチをいいながら肉を頬張るゴローは次の餌場に向かった。

今度は魚屋。そこでもゴローはニャーニャーとおじさんと戯れていた。

「あんたは本当可愛いなーハチベイ」

ん?ゴローじゃないのか?ここではハチベイなのか。場所によって名前が違うらしい。ハチベイが魚を咥え、自分のところに来る。

「やるよ」

「あ…ありがとう」

もらった魚を食べ、次に向かう。今度はどこに行くつもりなんだ…?

「えっと…ゴロー…じゃなかった、ハチベイ?」

「どっちでもいい。どうした?」

「ここって…喫茶店だよな?」

着いたのは健太が以前アルバイトをしていた喫茶店だった。

「なんだ、お前知ってんのか?」

「いや…その…前ここで働いてたんすよ…」

辞めて以来来たことはなかったが、まさか犬になって戻って来るとは…。二匹はそのまま店の前で居座った。

「色々転々としてるけど、なにしてるんですか?」

「…」

無視がはいった。沈黙が続く。しばらくいると、店長が来た。

「おーピエロか。今日は可愛いチワワを連れてお散歩かー?」

「にゃー」

店長にはピエロと呼ばれてるのか。人によって違う名前。だから名前がないのか。そう悟った健太。さて…とまたもや歩き始めるピエロ。今度はどこに行くというのか。

「どこにも行かない。ただの散歩だ。ついてくるか?」

黙って頷き後ろを歩く。しばらく歩くと、ピエロがポツリポツリと話し始めた。

「人間っていうのは自分のエゴのため、そして自分のためだけに誰かを利用する。気に入らなくなったらすぐに捨てる。情けない話だ。人間同士の傷つけ合いを見てきた。幸せのために人を蹴落とす。もしかしたら俺たちの方が本当の幸せかもしれない。なぁケンタ。犬としてこのまま過ごしてみねぇか?」

「確かにあんたのいう通りかもしれないな…。好きなように生きてられる。よっぽど楽だ。犬になった人生もいいかもな…」

一日この姿になり戻りたい気持ちを薄れてからこその言葉だった。どうしてこんな姿になったのか。それは自分でも分からない。ただ心のどこかで、このまま生きるのを拒否してたのかもしれない。楽に生きたい。そう思ってしまった。

「さっき言ってたもう一匹動物になったやつはそれからどうしたんだ?人間に戻ったのか?」

「いや、そいつはずっと猫のままだよ」

「猫?そいつってまさか…」

聞こうとした時、後ろから足音が聞こえた。振り向こうとしたが、遅かった。二匹の猫がピエロに噛み付く。不意打ちをかまれたピエロはその場で倒れてしまった。

「やっと見つけたぞ。ぶっ殺してやる!」

二匹は凄まじい目つきで睨みつけていた。

「おい!なにやってんだ!」

「なんだてめぇ?関係ねぇ奴はすっこんでろ!」

二匹が再度噛み付こうとする。それに抵抗するピエロ。だが先ほどの不意打ちで思うように体が動かないのか、力が弱まっていた。

「やめろよ!」

代わりに健太が止めに入った。だが、見事に打ち返された。

「痛っ!っやめろ!」

続いた猫達の逆襲。しばらくすると満足したかのように猫達が帰っていった。

「大丈夫か?」

「あ…あぁ…あいつらは前に俺とやりあった相手だ」

「なんでやりあったんだよ?」

「悪さばかりやっていたからな。人の餌を横取りしたり、店の食いもんを荒らしてたり。ったく…仕返しというのは怖いもんだぜ…」

弱まった姿をしたピエロ。

「人間に戻る方法はあるのか?」

「戻りたいのか!?」

突然の問いに驚いていた。

「俺が人間に戻ってお前を助ける。だから教えてくれ」

「…。ここの近くにある鴻神社に行け。そこに行けば人間に戻れるはずだ」

目と鼻の先にある神社を指定され、すぐさま向かうことにした。

「待ってろよ!戻ったらすぐに助けるからな!」


神社に着いた。着いたがいいが、戻り方なんて知らないため、どうすればいいか分からなかった。

「どうすればいいんだよ…」

戻りたい。戻りたい。戻りたい。そう願っても人間に戻らない。歩き疲れた健太はその場で倒れてしまった。



目が覚める。辺りを見渡した。毎日のように見てた景色。自分の部屋だった。

「俺の…部屋?」

人間の視線。人間の手。健太は戻ったのだ。

「戻れたのか…いやそんなことよりピエロ!」

健太はピエロが倒れた場所に向かった。

着いたがピエロはいない。

「おい!ピエロ!」

呼んでも返事はなかった。

夢…だったのか?すると、どこかで見たことのある猫がこちらに歩いて来るのが見えた。

「ピエロ…? 」

その姿は正しくピエロだった。

ピエロは健太を見ようとせず颯爽と歩く。傷はなかった。

「夢のような話だな…いや、どこからが夢でどこからが現実なんだ?」

健太の頭はこんらがってしまった。

「人間に飼われるなんてまっぴらごめんだ。俺は自由に生きる。ケンタ。お前はお前らしく生きろ」

突然聞こえてきたピエロの声。振り向くとピエロがこっちを見ていた。

「ピエロ…」

ピエロはにゃーと鳴き、また歩き出した。


余談だが、喫茶店の常連客であった青年が事故で亡くなったらしい。


その亡くなった青年は、生まれ変わったら自由な猫になりたいと店長と話していたのを聞いたことがある。 」




「どうかな?面白い?」

にゃーと答える一匹の猫。美和子は猫に自分の書いた脚本を聞かせていた。

「そうか…ダメなんだね…。何がいけないんだろう?話の作り方かな?」

まるで猫の言葉が分かるのか、美和子は笑いながら猫に話しかけていた。

「この話はね。私の好きだった人がもしも猫に生まれ変わっていたらって話なの。この猫のモデルもあなたなのよ?」

美和子はパソコンを閉じ、ベッドに入る。

「もし、私がチワワになったら、その時は助けてね。りょうちゃん」

りょうちゃんと呼ばれるネコも布団の中に潜り、体を丸めた。

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