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夜明けの前に。
「次はいつ集まれるか分かんないんだよな?」
ただでさえ、ゆっくりとした足取りの一行はこの一言を境に、その場で足を止めた。
「だから、始発まで懐かしい話でもしない?」
そう言いながら、小さな段差に立ち、他のみんなから少し目線を上げて、一人一人と目線を合わせていく。
未明にビルの前でいい大人が何してるんだろうと、そう思わなくもない。
空は相変わらず夜だと主張している午前3時半。夜明けが早くなってきたとはいえ、夏至の頃と比べれば、まだあと数時間は夜明けにならないだろう。
風がひんやりしている。でも、もうすっかり春の匂いだ。
梅や桜の華やいだ香りとも違う、空気そのものの匂い。香りや匂いは思い出とダイレクトに繋がっているんだなと、感じる。
そして、その繋がりを手繰るように、懐かしむように、そこにいる全員が彼の次の言葉を待っていた。
「ーーーすぅ」
ひと呼吸入れて、その男は話しはじめた。