動き出す死体と悪意
——————誰か… 助けてください…
弟が… 私のただ一人の家族が… 弟が…
——————大丈夫だ、すぐに直してやろう…
——————ありがとうございます…! ありがとうございます…! 名も知らない旅のお方…!
—————―ワタクシの名はアキュラス、あなたがたの家はどこに…? ああ、そうですか、ではお供を致しましょう、エヴィラの司祭としてね…
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——————ヴェローナ… 弟は、今回、その、即死だった…
——————そんな…!
——————すまない… ワタクシに、もっと治癒の力があれば… 死者さえも生き返らせることができれば… すまない… すまない…
目が覚める。
またあの夢だ、アキュラス様が自身の力のなさを嘆いたあの頃の夢。
だが、今彼には全てを癒すことのできる力がある。
「アキュラス様…?」
弟を救われた時、私は彼を追ってエヴィラ信者になった。
弟を救えなかった時、私は彼をずっと支えていようと思った。
でも、ある日から彼が私のもとから少しずつ、離れていくように感じるようになった。
彼がエヴィラ様から特別な力を授かったその日から。
でも、それが彼の望みなら仕方がない。
私は、アキュラス様に従うのみ。
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突然寝ていたベッドをひっくり返された。
睡眠は一気に覚醒され、脳はそれに追いつかず、目と思考がシャットアウトされた状態でそこにいた。
「シュン! 大丈夫か!」
ザットの声が聞こえ、ようやく思考は再開された。
一体何が起こっているんだ?
細身の男が俺のベッドをひっくり返していた。
「ツルサ! 何をしているんだ!」
細身の男にバルバスが叫んで問いかける。
「わ…わからない! 体が勝手に動くんだ! あ”っぐ…、頭の中に、命令が…!」
ツルサ、昼間に聞いた名前だ。
確か、3年前に死んでいた人だったか。
ということはこの人も生き返りの儀で…
「そこの君! 逃げてくれ!」
ツルサさんに声をかけられる、なんでそんなことを。
そう思った瞬間、俺はツルサさんに殴り飛ばされていた。
「ああ!…俺の体が! 俺の体じゃない!」
床の冷たさが頭の芯に伝わってくる。
それとは対照的に、口の中が温かく、ほのかに鉄の味。
殴り飛ばされて地面に倒れている、という状況を理解するのに、少し時間がかかった。
「気絶!!」
バルバスが強い光を放つ。
光を顔面に受けたツルサさんは、力なくその場に崩れ落ちた。
「くっそ… どうしたんだ、こいつ?」
ザットも一発殴られていたらしい、頬に手を当てている。
外から悲鳴と、大きな音。
「…出るぞ!」
ザットとバルバスが部屋から飛び出る。
そのあとを追って、俺も外に出た。
「なんだ、何が起こってる…」
外に出ると、まさに地獄、そんな風景が広がっていた。
人々が、人々を虐殺していた。
ある者はもう動かなくなったものの顔面を馬乗りになって殴り続け
ある者は手斧を振り回して肉を切り裂いている。
「どうして…こんな…」「違う! やりたくてやってるんじゃない!」「やめてくれ…やめてくれ…」「体がいうことを聞かない!」
「なんだ、一体何が起こっている!?」
バルバスが叫び、続ける。
「これは… 死に、戻ったものたちが人々を襲っているのか!?」
その言葉を聞くなり、ザットの顔色が悪くなる。
「コッシー、ラガー…!」
ザットが呟く。
次の瞬間ザットは駆けだしていた。
「あっ、ザット! 待て! 今むやみに動くのは危険すぎる!」
「うるせえ!子供たちが危ない!」
ザットは近くの家に走ると、ドアを蹴破り、中に飛び込んでいった。
直後、中から剣を振る音、刺さる音。
慌ててバルバスと中をのぞき込む。
「はぁ…はぁっ…!」
隅で抱き合い、震えている子供たち。
その母親が、彼らにナイフを振り落とそうとしているところだった。
そして、彼女は、ザットに剣で貫かれていた。
「はっ…はあっ!」
「おかあさん…?」
「あり…がとう… ザット君… 私を…止めてくれて…」
ザットは困惑した表情で剣を抜く。
母親はその場に倒れて、動かなくなった。
「おかあさん…? おきて…?」
「ねえ、ザットおじさん…」
母親の返り血をザットは顔に浴びていた。
窓から入る月の光が、赤く染まった彼の顔を照らす。
「どうしてわたしたちのおかあさん、ころしたの…?」
「それは、それはお前らがお母さんに殺されそうになってたから…!」
「ひっ!」
子供たちが怯えの表情を見せる。
「おい…! 大丈夫だ…!」
「やめて! こないで!」
「おかあさん…ねえ、おきてよ… ごはんのときいったじゃん… もうずっとはなれない、って。」
子供たちの顔に月の光が当たり、目元が小さく光る。
ありとあらゆる負の感情を詰め込んだその小さな目は、しっかりとザットの目を見ていた。
「あ…あああ…、違う… 俺はお前らのことを…!」
「ザットおじさん…」
ラガーが頬に光を伝わらせながら、言葉を続ける。
「おかあさんを、かえして。」
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「なーんか上が騒がしいわねー、何かしら。」
「地下倉庫に勝手に入って拠点にするなんて、やっぱりまずいんじゃないかな… すごく怒られちゃうんじゃないかなぁって…。」
「いーのよ、何年使われてないのよこの倉庫、ほこりまみれ… …!」
「…ロザリアちゃん、今の…。」
「…聞き間違いじゃなければ、悲鳴ね、いくわよ!」
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「落ち着いたか…?」
「ああ…すまない…。」
ザットが家を飛び出し、自分の家で怒りを露わにしていた。
自分の子のように面倒を見ていた子供たちから、母親を自分の手で奪ってしまったのだ。
そんなことをしてしまった自分と、この状況を作り出した誰かに、彼は激しい怒りを覚えていた。
「それで…どうする? そもそもどういう状況だよこれは…。」
「生き返しの儀を受けた者が暴れている、そうなったら怪しむべきところは分かるだろう。」
「司祭アキュラス…!」
「なんにせよ、あいつがかかわっていることは確実だろう。」
「よし… 話を聞かせてもらうとするか…! 聖堂に向かおう、道中襲ってくる奴は殺すんじゃないぞ、筋肉硬直か気絶で切り抜けるんだ。」
「OK、いこう!」
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「アキュラス様… これは一体…?」
「ヴェローナ、これは必要なことなのだ、ワタクシが、この世界を平和に導くための。」
「しかし、こんな残酷な…!」
「…ヴェローナ、ワタクシが間違ったことをしたことがあったか? …信じろ、今のワタクシにできないことはない。 お前の弟だって、もうすぐ…! 協力してくれるな? ヴェローナ…。」
「………はい、司祭 アキュラス様… いえ、エヴィラ様の勇者 アキュラス様…!」




