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Following the other world -光無き者-  作者: クロブチンC
やがて来る凍てつき
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ウィンド・キャリング・デス

サントアキッドに入ります。すこしだけ長めです。

帝国歴4年(双陽暦3454年) 木枯らしの月 30日

サントアキッド入口


「よーし、サントアキッドに到着だ。」


その街はハルニアとはまた一風変わった街だった。

風車が立ち並び、それより高い建物は教会のようなものしかない。

民家らしきものは質素に、つつましく、周りの風景と同化するように建っていた。


「ハルニアよりかはいくぶんと…」


「田舎、だろ? 分かってるさ、だが、こんぐらいがちょうどいい。」


確かにそうだった。

ハルニアのような人の賑やかさはないが、家々の間を吹き抜ける風が頬をなでると、心なしか落ち着く。

なんというか、人間というのはこのくらいでいいんだ、みたいなことさえ感じられる。


「あっ! ザットおじさんとバルバスさんだ! おーい!」


かわいらしい声が遠くから聞こえてくる。

その声の持ち主であろう小さな女の子と男の子がこちらに駆けてくる。

…ん? 男の子?

まさか。


「ザットおじさん! おかえり!」


杞憂だったようだ。

男の子はその姿相応のやや高めの声でザットに抱き着いた。


「はは、コッシー、俺はおじさんじゃねえっての、お兄さんって言えって。 しばらく見ないうちにまたでかくなったな。」


「だってザットおじさん1年ぶりだよ、帰ってきたの。 今度はどのくらいいるのー?」


「悪いが、今回もあんまり長くはいれそうにないな。ガラー、その代わり、今日はうんと遊んでやる。」


「え? ほんと? やったー! ねね!おいかけっこしよ! ザットおじさんがおに!」


「あはは、にげろー!」


「何だとー! よーし、捕まえちゃうぞー!」


そういうとザットと子供たちは奥の方に駆けて行った。


「バルバスさん、あの子たちは? もしかしてザットさんの…」


「はは、そんなんじゃないさ、あの子たち、男の子のコッシーと女の子のラガーは孤児でな。」


「え?」


「あいつ、そういうのを見ると放っておけないらしくてな。 旅に出るまで、あいつらが大きくなるまでしっかりと世話してたんだよ、旅に出る直前になってやっぱり一緒に連れて行こうだのなんだのって、大変だった、まあ、面白かったけどな、うくく。」


そうだったのか、あのザットがそんな…

てっきり自分の子供なんだと思ってしまった。

人はみかけによらないもんなんだな。


「あれ、ってことはザットさんはこの街にいたんですか?」


「ん、言ってなかったか? ここ、サントアキッドは俺とザットの故郷なんだ。あー、やっぱりいいなここは。」


ほほー、そうだったのか。

じゃあここのことには結構詳しいのだろう。


「随分新しい建物もあるんですね。」


「新しい建物?」


「ほら、あそこの教会みたいな。」


素朴な街には、言っていいのか分からないけど、不釣り合いな。

新しく、絢爛な建物があった。


「本当だ、去年帰った時にはなかったぞ。 一体なんだ?」


「あれは万物に命を吹き込む我らが主、エヴィラ様の聖堂です。」


「わっ!」


後ろから声をかけられ、振り返る。

にこにことした笑顔を浮かべている、袈裟のようなものを着た男がそこに立っていた。

その傍らにはエルフの女性もいる。

さっきの声の主はそのエルフの女性のようだ。


「エヴィラ様の司祭であるこちらのお方、アキュラス様の奇跡を称え、この街の方々が建ててくれたのですよ。 あら、申し遅れました、私はアキュラス様の付き人、ヴェローナと申します。」


男はにこにことやっぱりほほ笑んでいる。


「奇跡、だって?」


バルバスが問いかける。


「はい、この世界において、アキュラス様だけが起こすことのできる奇跡、それこそ…」


「バルバス、バルバス大変だ!」


急にザットが血相を変えて走ってきた。

一体どうしたんだろう?


「なんだザット、どうした?」


「3年前に死んだはずの、死んだはずのツルサが生き返ってる!」


「なんだって!?」


アキュラスとヴェローナを振り返る。

アキュラスだけでなく、今度はヴェローナもにこにこと笑っていた。



聖堂というものは神に祈りをささげる場所だった気がする

そして大体そういうところはひっそりと、静かなものだというイメージを抱いていた。

しかしこの聖堂はそうじゃなかった。

アキュラスがその聖堂の中に入ると同時に中の人々が一斉に願いを口に出す。

夫を生き返してちょうだい、兄貴を先に頼みます、はやく娘を。

自分の大切な、いや、大切だった人を再び自分の近くにおきたいのだろう。


「みなさんの願いは十分に分かっています。」


アキュラスが口を開くと、聖堂内は一気に静まり返った。


「ですが皆さんもご存じのとおり、生き返しの儀はとても力を使います。1日に一人がやっとです。この中からワタクシが公正に、生き返す者を選びます。」


聖堂はまた沸き上がった。

次々に手をあげ、自己主張する町人たち。

その光景には恐怖すら覚える。


「ザットさん、人が本当に生き返るんでしょうか?」


「分からねえ、そんな話は今までに聞いたことがない、でも俺は実際に外で死んだやつが元気に歩いてるのをみた。 俺の目の前で死んだやつも、俺に手を振ってきたんだ。」


ザットもバルバスも難しい顔をしている。

魔法の世界でも蘇生というものは難しいものなのか。


「それでは…あなたがたにしましょう。」


「やった!」


ついさっき聞いたかわいらしい声が響く。

コッシーとラガーのそいつらだった。

子供たちがアキュラスのひざ元へと行く。


「それで、君たちは何を望む?」


子供たちは喉から出た言葉をゆっくりとかみしめた後

大きな声でそれを言った。


「おかあさんをいきかえらせてください!」


アキュラスの口角がさらに上がる。


「いいでしょう。」


ほどなくして、棺桶が聖堂に運び込まれた。

土にまみれていて、ところどころにひびが入っている。

なかなか古いもののようだった。


「始めましょう。」


アキュラスが棺桶の上に手をかざす。


「偉大なる我らが主、エヴィラよ、私に力を与えたまえ。 親を亡くし、多くの時を悲しみに費やした哀れな子供たちに慈悲を与えたまえ。 すべては人々のために。」


言い終わると彼の手のひらに“もや”がかかりはじめた。

“光”の輝きではなく、黒い靄だ。

そしてそれを棺桶に近づけ————————


「待っちなさい! このタコ!」


聖堂のドアが勢いよく開く。

ハルニアで見かけた3人組がそこにいた。


「ロ、ロザリアちゃん…いますごく大事なことしてるっぽいよ…、あんまり邪魔しないほうがいいんじゃないかなぁって…。」


「ウユ! 何言ってるの! 邪魔しにきたんでしょ!」


聖堂内がどよめく。


「アキュラス様の儀を邪魔しに来たの?」


ヴェローナがロザリアの前にたつ。


「あったりまえよ! こんなのエヴィラ信者として見過ごせないわ!」


「あら、あたしもアキュラス様も同じエヴィラ信者よ。」


「はああ!? だったらなおさら、何考えてんのよ!? エヴィラ様の教え、まさか忘れたの!?」


なんだかすごく怒ってるぞ…

なんかやばいことをしでかさなきゃいいけど…


「生き物は生まれ、老い、そして死ぬ。 死んだ者は生き返ることはないのよ! 生き返らせるってのは自然の理に反するわ! エヴィラ経典にも書いてあったでしょう! <生あるものは死に抗うことならず、死したものに生を求めることならず。>ってね!」


どうよ、といった感じで満足げな顔をしているロザリア。

しかし聖堂内は彼女をあまり快く思っていないようだった。

アキュラスが口を開く。


「ふふふ、元気のいいお嬢さんだ。 確かに経典にはそう書いてあるかもしれない、だが、もし、この力をエヴィラ様直々にもらったものだといったら、どうする?」


アキュラスはにこにこと笑っている。


「は? そんなのあるわけないじゃない! バカじゃないの!? なんでエヴィラ様が自分で作った掟を破らせるようなことさせるのよ!」


「それはエヴィラ様に聞いてくれ、ワタクシは聞いたんだ、この力を使って人々を喜ばせよ、と。」


「な…何言ってるのよ! 失くしちゃって、もう手に入らないものを追いかけてもむなしいだけでしょう!?」


「ワタクシなら、見つけ出し、手に入れることができる。 それに聖堂内のみなさんはそう思ってはないようだ。」


アキュラスが聖堂内を見渡す。

すると人々の中から声が出始めた。


「そ…そうだ!」「愛する者にまた会うだけのことのなにがいけない!」「悲しみをなくすチャンスの邪魔をするのか!」


ざわめきが大きくなり、彼女らへの罵倒も混ざり始めた。


「ロ、ロザリアちゃぁん…。」


「大丈夫よウユ、正しいのはこっちなんだから。」


アキュラスが人々に叫んだ。


「この者たちは皆さんの夢を奪わんとしている! いますぐに追い出すに値すると思います! 皆さんはどう思われますか!?」


「そうだ!」「追い出せ!」


人々がロザリアたちに群がり、彼女らを聖堂から追い出そうとする。


「やっ! 何するの! あんたたち本気なワケ!? あっ! どこ触ってんのよ! ぶっとばすわよ…ああ! 持ち上げないでヘンタイ! やだぁ! ウユちゃーん! ダンテー! 助けてぇ!」


「ロザリアちゃ…! 大丈夫… きゃあ!」


2人の少女はあっという間に担がれて、聖堂の外に放られてしまった。

黒い鎧の奴はその少女たちに付いていくように、聖堂を出て行った。

怒りの色が鎧ごしに伝わってくるような気がした。


「あれ…ここは…。」


いつの間にか、棺桶の中から女性が起き上がっていた。

もしかして生き返りの儀が…


「おかあさん!」


2人の子供は母親に抱き着きに行く。

その母親は一体何が起きたかわからない、といった様子だったが、とりあえず今は涙ぐみだした子供たちをあやすことを優先しだしたようだった。



<ザットの家>


「家に帰んのも1年ぶりか、ほこりが積もったくらいでなんにも変わってないがな。」


「しかし、生き返しの儀ってのはすごかったな。」


「そうですね… 本当に生き返るなんてびっくりですよ。」


「あいつらも母親にあえて嬉しいだろうよ、もう俺はあいつらに必要ねえな。」


すこし悲しそうな眼をしてザットが話す。


「あーあ、面倒くさい神にからまれちまったっから疲れちまったぜ、さっさと寝るとするか。」


「そうですね。」


明日にはここを発つだろう。

もうあの子たちは寂しくないからな、とザットが言っていた。

む、意外に疲れが体に溜まっていたらしい、ソファの上で寝転んでいると、すぐに微睡まどろみがやってきた。

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