感情の領域
感情の神、エムリスの登場です。
「ねぇ、ウユ、全然あいつらいないんだけど。」
「えっと…もう、サントアキッドについたんじゃんじゃないかなぁって…。」
「はぁ!? あたしたちのほうが先にハルニアを出たのよ! なんであたしたちが遅れてるの!?」
「えっと…ディーディゴを迂回した時に、意外と時間かかったから、その時に追い越されちゃった…って思うんだけど。」
「はぁ…、ダンテ、あなたどう思う?」
「…」
「えっと…この次元にはいない気がする、って。」
「何言ってんのよダンテ…、神にでもさらわれてるっての?」
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「セラ、ソラール、ダダロム! ナナ、スデナス!」
「主、それはネレィの言葉です。 この者たちには分かりません。」
「ああ、そうだったなジミー! 助言に感謝するぞ!」
「ありがとうございます、主。 私はマルクです。」
「「あーっはっはっはっは!!」」
ここは地獄か…。 神様なんていない…あ、いや、こいつ神様だ。
ザットが口を開く。
「その…エムリス様、どうしてあんたはシュンと俺たちを呼んだんだ?」
「マディスタ! この紅茶には紅茶の茶葉を使ったな! 紅茶を淹れるときには赤い旗を使えと言っただろう!」
「申し訳ありません、主、マルクです。」
「おい! 茶番は終わりにしてもらわないと困るんだが!」
ザットが声を荒げる。
「どうした、何を怒っている? こっちに来て赤い旗の紅茶を飲まないか、落ち着くぞ。ああ、分かったぞ、文字通り茶番ってことだな、紅茶の茶番だ。面白いジョークだ、どうして思いつかなかった?」
「あんたらがいつまでたっても説明をよこさないからだろ! 何時間こうして頭のおかしい茶番を見続けなくちゃならないんだ!」
「感情を露わにする、というのは好ましくないなァ。」
バルバスがハッとした表情になる。
「ザット、やめろ。 俺らの代表で怒るのは分かるが、おさえろ。」
「早く俺たちをもとの世界に戻してくれ! ここはあんたの領域なんだろ!? こんなことをしている場合じゃないんだ!」
「忠告しておこう、感情を出すのはいいことだが、ただ全てを出すことは好ましくない。 特に、このワシの前ではな。」
幼い男の子の姿をした神、エムリスが指を振る。
するとザットはゆっくりと、その場に崩れた。
「ザット!」
「ザットさん!」
駆け寄る、バルバスがザットを抱えて起こした。
ザットは遠くを見つめながら、何かぶつぶつと呟いていた。
「感情を少し預からせてもらった。 なに、心配するな、お帰りの際には返すさ、コートや帽子のようにな。」
「…分かった、じゃあ、さっさと帰らせてもらおう。要件を教えてくれ。」
「ふぅむ、急いでいるようだな、何か急用があるようだな。」
あんたのせいだろ、と言いたくなるのをぐっと堪える。
「ワシがお前らを呼び出したのは、簡単なことだ。」
エムリスは一呼吸おくと、指を鳴らした。
それとその瞬間、隣にいたバルバスとザットが消える。
「なっ…! これはどういう…!」
これは予想していなかった。
まずい、あの二人がいないっていうのはかなりまずい。
右も左もわからない世界の中でも、さらに分からない世界に飛ばされてしまった。
たった一人で、だ。
「さて、お話ししようじゃないか、それがワシがお前を呼び出した理由だ。 なァ? 光無き者?」
「あ…あはは…。」
これは… これは…
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「ザット、起きろ!」
「ん…ああ、寝ていたのか…。」
「起きろ! シュンだけ取り残された!」
「何を…していたんだっけ…。」
「しっかりしろ! エムリスの領域に行ってた!」
「そうだ! シュンは!?」
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エムリスが指を振る。
その瞬間年季の入った椅子がエリムスの腰の下に現れ、彼はそれに座った。
そして神は信者に言葉を託す。
「マルク、席を外してくれないか。」
「仰せのままに、主。」
「再びお前の姿を見るのは50年後にしよう、その時がくるまで、あらたな試練を付ける。」
「ありがたいことです。」
「今は、常に監視されているように感じる、だったか。 よし、それに追加で常に幻聴でひそひそ声が聞こえる、というのも追加しよう。」
エリムスが指を鳴らす。
マルクの顔が一気にひきつった。
「あ…? ここはどこだ!? 誰だ、俺のことをそこで見ているのは!? 何を話している、俺の悪口だな!? あ、また言っ…」
マルクの姿が消える。
「よし、邪魔なのはいなくなったな!」
「あの、僕にどんな御用でしょうか…?」
「お前と話をしたくてな、なぜここに来た? 異世界の男が?」
「ええと、まあ、僕自身が望んできたわけじゃあないんです。」
「ふゥむ? すると誰かがお前をこの世界に呼んだみたいな言い方じゃないか。」
「そうなんです。エシネジレン…様、は分かりますか。」
「ああ、あいつか、あいつはつまらん、感情らしい感情を持ってないからな。」
「その神様に、この世界は今危機にあって、それを止めることができるのがお前だ、だから…」
「なるほど、勇者として呼ばれたか。」
「自分で言っちゃあなんですけど、ええ、そうです。」
「なぁるほど、こいつぁ面白い! いや実に面白い!」
「何がですか?」
「いやァ、何でもない。 それよりも勇者様、神になにか手伝いはできるかね? 最強の武器が欲しい、だとか最強の体を持ちたい、だとか。」
「あっ! それなら僕に“光”を下さい!」
「んん? …ほぉーォ、光無き者ってのはそういうことか、比喩じゃあないんだな。」
「はい、僕、その、戦力になりたいんです! 仲間たちの! そのために光が使えるようになれば僕だってきっと戦えるように…」
やった、やっと来たチャンスだ。
俺が今頼みごとをしているのは曲がりなりにも神だ。エシネジレンとはとは違う種類の。
かなり良い神っぽさそうだし、きっとこれで…
「無理だ。」
え?
「え?」
「きっとエシネジレンにも同じこと頼んだろ、で、無理って言われただろ?」
「えっ、あっ、はい。」
「俺らの管理下じゃないからな、それに関しては、“光”を司っているのは<エカーダシル>。彼女だ。」
「じゃあ、僕はまだ…」
「ま、そう悲観的になるな。 人間が人間であれるのは感情を隠し、偽ることができるからだ。人間だけの特権だぞ、嬉しいだろう! 感情をむき出しにして行動するな、それはただの獣にすぎない。感情の神からの言葉だ、ありがたく思え!」
「…ありがとうございます。」
「エカーダシルに連絡をしてやろう、司祭かなんかをよこして、この少年にプレゼントをやれってな。」
「!! ありがとうございます!」
「なあに、いいってことよ。こんなのの相手をしてくれたお礼だ、さ、もうお帰り。」
エムリスがにこりと笑ってから指を鳴らすと、バルバスとザットがいる、さっきまでいた道の途中の風景が目に飛び込んできた。
ラッキーが近づいてくる。
「シュン! 大丈夫だったか!?」
「あ…ザットさん、大丈夫です。」
「良かった… 頭をおかしくされていたらどうしようって考えてたんだ。」
「え?」
「エムリスは気に入った人間には、ありあまる感情を与えてその人間を壊してしまうって言われてんだ、いやぁ、何にもなくてよかった。 さぁ、サントアキッドに向かおう。」
「ああ、そうだな、あ、バツ印はエムリスへの信仰を表している。バツの装飾品をつけてる、とか指でバツのジェスチャーをする連中には近づくなよ。 今回みたいなことになる、いや、2度目からは今回以上に恐ろしいだろうな。」
まじか… やっぱり神ってのは、恐ろしいな…
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「了解ー! じゃ、トヨカワ シュンって男を探せばいいんですね?」
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「え? バルバスとザットもいるの? わ! すごい偶然!」
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「おまかせくださいエカーダシル様! 必ずや私、ガルナはご期待に添えて見せます!」
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…いやァ、面白かったな。
異世界から来た者と話す機会なんてそうそうないからな。
しかし面白くなりそうだ、最高だ。
エシネジレンに呼ばれただって? くくく…
思い出すだけで笑いが出てくる。
まったく人間の世界は面白い方向に向かっているな。
エシネジレンの奴は
エシネジレンの奴は
もう死んじまって、存在の欠片すら残っていないじゃないか。
いったいあの男は誰に、どんな目的で呼ばれたんだろうな?
ああ面白い、これだから神はやめられん。
「あーっはっはっはっは!!!」
別小説として資料集出しました。
随時更新する予定なのでお暇と興味があればご覧ください。




