跳躍する本能 揺れだす感情
前の話から続きからです。
「――――――ウユ? ウユちゃん? どうしたの?」
「あっ、ううん、あっちのほうで何かあるなって思って…。」
「あっち? どれ? あー…っと。」
「ロザリアちゃん? なんだった?」
「遠回りになるけど、迂回するわよ。」
「ええ?」
「ディーディゴが旅人襲ってる、かわいそうだけど、あたしたちも襲われかねないわ、ダンテ! 迂回するわ! ベラトルモス左にやって!」
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巨体が、吠える。
大地を蹴り、大空で太陽を浴びてから、俺たちを潰そうとするその巨蟲の声は、俺の全身の鳥肌を立たせた。
「うわあぁ!」
巨蟲が墜ちる、俺の真ん前に。
「動くんじゃねえ!」
いつのまにかザットの手には、輝きが集まっていた。
ザットはそれを、巨蟲の体にねじこむようにしてぶつける。
すると巨蟲はぴたりと、動かなくなった。
「し、死んだんですか?」
「いや、筋肉硬直の光をつかっただけだ。 まだまだあいつは元気だぞ、それよりも今のうちに作戦会議だ。」
「解けるんですか?」
「ったりまえだ、30秒もつか怪しい。 それに体の中の光全部使っちまった、太陽が出てるとはいえ、溜まるのに結構使うぜ。」
「ディーディゴの対処法は分かる、ザット、シュン、俺と抱き合ってくれないか。」
「…おいバルバス、お前…。」
「待て待て、立派な作戦だ。 3人で一か所に集まることで、あいつは俺らの真上に跳んでくるはずだ。あいつが大口開けて俺らの真上に来たら、爆発する光をあいつの口の中に放り込む。それで対処できる、前会った時もそうやった。」
「それがただの思い付きじゃないなら安心だ…野郎同士で抱き合うのは、その、アレだが仕方がない。」
「分かりました!」
3人で詰めあう。
なんか、なんだろう。
「筋肉硬直が解けるぞ!」
ザットが叫ぶと同時に巨蟲、ディーディゴは脚を動かす。
動く、という事実を確認しているようだ。
そして力強く、跳躍した。
蹴った時の衝撃でえぐれたのであろう土の破片が顔に当たる。
…………ん?
ディーディゴが墜ちてこない?
顔を上げると驚いた表情のザットとバルバスが見えた。
2人の視線の先に続くように自分もその先を見る。
俺も多分2人と同じ顔になっただろう。
そこには男が、一人のエルフの男がディーディゴを脚の先から輝きとともに消滅させている最中だったのだ。
「バルバス、あれ…。」
「ああ、消滅だ…。」
ディーディゴは、何が起きているのか理解できない、というようにだろうか。
ワームのような体を1回、2回と大きくくねらせると、そのまますべて消えていった。
男がゆっくりと顔をこちらに向ける。
「バルバス、油断するな。」
「ああ、ザット、もし敵なら…」
「あああ! 見つけた! 見つけたよ! トヨカワ シュンとその仲間!」
男が叫ぶ。
このエルフ、俺の名前を知っているのか、だとしたらこいつもあの少女たちのように…
「シーッ! 静かに! …静かにするんだ、トヨカワ シュンとその仲間たち。いいかい? 俺は気づいてしまったんだ。 俺らが監視されているということに…。」
俺らは顔を見合わせる、怪訝な顔を。
「少し前からだ、視線を感じる、いつ、どんなときも、常に! 俺は考えた、この視線はどこからなんだと… ああ! あの木の陰に! ほら! あの鳩! あれは監視用の鳩だ… 恐ろしい…。」
どんどん早口になっていくぞ…。
「いいか? 帝国だ… レトニワールの帝国が俺たちを監視しているんだ、俺らの会話、行動、全てがあいつらに筒抜けなんだ… でも大丈夫、この俺が来たから、俺は監視なんかには屈しないぞ…。」
ボサボサの金髪、すさまじい目の下のクマ、痩せこけた頬、どう見ても普通じゃないぞ…
「ああ、自己紹介をしていなかった、申し訳ない… いつもは偽名を使っているから、その、帝国に監視されているからな… あんたたちには本名を教える、マルキード=ワルセイダーだ。」
バルバスが頭をかいている、どうやらこの場はザットに任せる気のようだ。
「ええっと、そうだな、マルキード=ワルセイダー、アンタは…」
「待った、マルクでいい。」
「分かった、マルク、あんたはどうして俺たちを?」
「そりゃあ決まっているだろう、トヨカワ シュンを見つけるためだ、主にそう命じられた。」
「主、エシネジレン様のことだな?」
「エシネジレン? エシネジレンが関係あるのか?」
「なんだって? エシネジレン様に命じられたんじゃないのか?」
またバルバスとザットが顔を見合わせた。
「俺の主はエシネジレンなんかよりもずっと強大な…。」
そういってマルクは自分の指と指を合わせて、バツを作って見せた。
瞬間、バルバスとザットの顔が強張る。
「シュン、逃げるぞ!」
「急げ! やばいのに目をつけられた!」
何が何だかわからない、が、この2人がやばいと言っているのなら、相当やばいのだろう。
2人のあとに続いて走る。
「ああ! 待って! いかないで! 外は危険だ! 主よ! 見つけました! 見つけましたよ!」
マルクが奇声をあげる。
「ぐっ…!」
「ああ…、クソ…逃げられ…!。」
前を走っていた2人が倒れる。
どうしたのだろうか、かなりまずいことになっている気がする。
早く逃げなければ、しかし2人を置いていくわけにはいかない。
俺は、どうすれば。
「んっ…!」
突如、目眩。
目は開いているはずなのに、見えるのは真っ黒な渦。
渦が脳の奥に到達し、俺の感覚を奪う。
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「オッハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うわぁっ!!」
耳元でバカでかい声を出される。
頭の中でその声がわんわんと響き続ける。
鼓膜は破れていないだろうか。
「あっはっは! 起きたか!」
よかった、鼓膜は破れていないようだ。
周りを見回すとザットとバルバスも起き上がるところだった。
「オーゥオーゥ! 一緒になって起きるだなんて仲良しだな! まるでずっとずっと一緒にいた兄弟のようだなぁ! 以心伝心っていうんだろこういうの、最高だな!」
なんだこのしわがれた声は。
死にかけの老人がデスボイスに挑戦しているような、ガラガラ声。
その声にザットは目頭を押さえ、バルバスはため息をついていた。
「どうしたどうした、何落ち込んでいる!? ああ、今の言葉だな! 心配するな! 何も穴兄弟っていう意味じゃないぞ! 本来の意味での兄弟だ! 待てよ!? 本来の意味といったがそれが本当に本来の意味なのか!?」
一体誰がしゃべっているんだ… それにここはどこなんだ…?
「改めておはよう諸君! 残念だがもう昼前だ、朝食は出せない… 超ショックだな! あーっはっはっは!!」
いつのまにか傍らに立っていたマルクが小さく笑った。
「んん? 姿が見えていないのか!? ああーそうか! お前たちは信者じゃないからな! よろしい! 今見せる!」
するとパッとその姿が見えた。
「やっぱり…。」
「ああ、面倒なことになったぞ…。」
俺の前に現れたのは、男だった。
だが、奇妙を通り越して恐ろしいと感じるのはその男がとても幼かったということだ。
小学生くらいの男の子だ。
その男の子が死ぬ寸前のカラスのような、ガラガラ声を出している。
「シュン、気を付けるか、諦めろ。 俺たちはこの世界で一番厄介な奴につかまってしまったぞ…。」
「主、トヨカワ シュンはあなたを知らないようです。」
マルクが男の子に話しかける。
こんな幼い子が、マルクの主? ってことは…
「そうか、ならば自己紹介だ!」
男の子はにっこりとほほ笑む。
「ワシは感情の神、エムリス! お前らの感情すべての管理者だ!!
………何か、質問はあるかなァ…?」
キャラ紹介の挿絵、描いてる途中です。




