涼しさを感じて
短めです。
「おはよう、シュン。この世界の朝の心地はどうだ?」
「あ、ザットさん… おはようございます、太陽が2つあるってすごいですね。」
「何が?」
「日没から日の出まで4時間くらいしかないんじゃないんですか?」
「え? そんなもんだろう、違うのか?」
「ええ、僕の世界は10時間程度は暗かったりします。」
「へええ! そんなに暗いんだったら大変だろう。」
「あはは… でも僕の世界に“光”はないので…。」
「ああ、そうだったな… 光、か、まあそんな気を落とすなって。」
「はい…。」
昨日、一騒動が終わった後、俺は自分も、皆が使っているような夢の魔法を使いたいと考えて、出そうとした。
しかしまぁ… 結論から言うと失敗だった。
バルバスの言ったとおりに様々なイメージを強く思ったし、彼が懐から取り出した怪しい薬も飲んだりした。
しかし俺の手はいつまでたっても俺の手のままだった。
異世界に転移できた… いや、させられたからといって、そううまくいくことはなかった。
「それについて、その、例の神様から夢の中で言われたんですよ。」
「何? エシネジレン様からか?」
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空が元の世界よりもずっと早く白さを帯びてきたころ、枕元に男が立っていた。
あの森で見たローブの男である。
「…あなたは、今朝の。」
「そうだ、エシネジレン、私の名だ。 お前はこの世界において“光”が使えないことに不満のようだな。」
「…はい、僕も使えても、よかったんじゃないですか? せっかくこの世界に来たんですから、せめて自衛の手段として…。」
「私には無理だな。 私は知識の神、お前にそいつを与えるのは私の仕事ではない。」
「では、あなたは…。」
「お前がこの世界に入ったとき、この世界の言語を息のように扱うことができただろう、それが私の仕事だ。私がお前に与えることができるのは、単なる知識に過ぎない。あとはお前が、ウォヌスにたどり着くだけだ。」
そういうとローブの男…いや、神 エシネジレンは消えていった。
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「ふぅーん、なるほど、知識以外のすべては元の世界のままなのか。」
「はい、なので、お役には立てないようで…。」
「やぁ、ザット、シュン、おはよう。」
バルバスが部屋から出てくる。彼の少し長い金の髪は寝癖でひどいことになっていた。
「まあ、まだ分からないがな。」
「え?」
「バルバス、アレを。」
「ほいよ。」
バルバスが懐からナイフ、を取り出す。
そのナイフは全体的になんというか… 異質だった。
刃の部分には見たこともない文字が隙間なく書かれており、持ち手の部分、柄の部分には淡く輝く石がはめ込まれていた。
「こいつが君の武器だ。」
「えっ?」
しかしまあ考えてみれば当然のことである。
ゲームとかでもそうだろう、魔法で攻撃できない者は持ち前の力と武器でモンスターをなぎ倒すのだ。
問題なのは俺にその力すらないということだ。
「さすがに長剣は無いにしても、短剣なら扱ったことはあるだろう。」
あ、これってナイフじゃなくて短剣なんだ。
いやいや、そうじゃない。
「いや、あの、僕こういうの使ったこと無いんですけど…。」
「何? じゃあどうやって元の世界では敵から身を守っていたんだ? 弓矢か?」
「いえ、こういうのを使わなくちゃいけないっていう場面が存在しないんで…。」
「まー、いいんじゃない? 持っとくに越したことはないぜ。」
バルバスがそういい、ナイフ、もとい短剣を鞘にしまう。
そして俺に渡した。
「よし、それじゃあハルニアを出て北上しよう。」
ザットが立ち上がる。
俺は自分の手にしっかりと重さを感じさせているその短剣を握りしめる。
いよいよ、冒険が始まるんだ。
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潮風を受けながらベラトルモス、もといラッキーの背中で髪をなでる。
ちょっとした癖だ、気取っているわけではない。
「それで、その僕たちが目指すウォヌスの碑ってのはどこにあるんですか?」
「ハルニアのかなり西、グルグナツ都の南のドウィヌ山地にある。」
「あれ… それって南西方向にあるってことですよね? 今僕たちは北上していますけど…。」
「あーっと… そうだな、ハルニアのあるフリグス地方とグルグナツのあるダルサマガラ地方の間にはでかい山脈があってだな。」
「そ、リケーヌ山脈だ、レトニワールではバックボーン山脈って呼ばれてる。」
「そのリケーヌ山脈は越えられないんですか?」
「ああ、越えようとすることは簡単だ、一応、整備された道もある。」
「じゃあ、越えればショートカットになるんじゃ…。」
「それができればな、山は色々やばいんだ。」
「…っていうのは?」
「山ってのは法に縛られない奴らの住処なんだ、山賊や盗賊ぐらいならまだいいが、原生生物達に出会ってしまったら最悪だ、俺らでも勝てるかどうか…。」
「ま、迂回したほうが安全だから、ってこったな。」
「なるほど。」
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3時間くらいたっただろうか、太陽の一つが真上に着いていた。
途中で行商人らしいキャラバンと出会い、同じ道を辿っていた。
あっちは馬車だ、馬もこの世界にいたんだな。
「商人さんはどうして馬車で? このベラ…ベラ…ベラトルモスじゃない理由は?」
何故、という疑問を質問せざるにはいられなくなる。
この知識欲も、あの知識の神の産物だろうか。
「ベラトルモスのほうが多く荷物を運べるのだがね、腐りやすいものを扱うこともあるし、私みたいな仕事に就いている者は盗賊なんかにも襲われやすい。まあ、商人には速さが必要ってことですね。」
「へぇー…。」
「…おい、ザット。」
ベラトルモスを運転(?)していたバルバスが表情を曇らせる。
「どうした?」
「あれ、見えるか?」
「ん?」
俺も目をこらしてバルバスが指さしたほうを見る。
なんだ…? 岩、じゃない何かがもぞもぞと蠢いている。
と、いうのが見えたのと同時にザットの表情が強張る。
「あれは——————!」
その遠くの“何か”はこちらを向くと
一瞬で消えた。
「——————馬車と反対方向に飛び降りろ!」
え、何だ。
あのさっきの岩みたいなやつって一体。
襟首を掴まれて地面に引きずり降ろされる。
と、同時に。
隣の行商のキャラバンの馬車が、巨大な柱に潰された。
いや、それは巨大な柱では無かった。
クロワッサン、いや、ワームを思わせる節だらけの太いミミズのような体。
忘れられていたかのようにとってつけられたような、バッタを思わせる後ろ足。
そいつ、が全身を震わせて、こちらを向く。
節まみれの土管のような体に開いている。むき出しの歯列で囲んである大きな穴、それが口だと理解するのには、それはあまりに現実離れしすぎていた。
「ディーディゴだ! もう戦うしかないぞ!」
そのおおきな蟲、自分の何倍もあるこの蟲の歯に、血がこびりついている。
さっきの行商人の物だろうか。
どうして、さっきまであんなに一緒に、突然すぎる。
蟲がこちらを向く。
歯が煌めく。
殺さなきゃ、殺される。
この世界のルールを、忘れていた。
近いうちにキャラ資料出します。




