光と影の神からの使者
「ロザリアちゃん!囲まれてる!」
「あーもう!せっかく出発できたのに何で早々にヴァリアに出くわすワケ!?」
「うう…わかんないけど、すっごく危ないよ今!」
「ダンテ!私が気絶使うから、その隙に頼むわよ!」
「…。」
「いくわよ!せーのっ!」
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「初めまして!知らない人!お久しぶり!バルバス!ザット!」
長髪のエルフはとてもウキウキとした様子だ。
しかしそれとは裏腹に、ザットはどこか苦い顔をしている。
バルバスが寄ってきて、口を開いた。
「あー、シュン、こいつが俺たちの昔の仲間…」
「はいはい!ガラナ・アーディアって言うよ!仲良い人は、私のことナディアって呼ぶから、知らない人くんもナディアでいいよ!」
バルバスの紹介を遮って、ガラナ…ナディアが話す。
「あー、ナディア、こいつは今の俺たちの仲間で…」
「はいはい!トヨカワ シュンくんでしょ!なんでも光が使えないんだってね!」
バルバスが俺の紹介をしてくれようとしたが、それを遮ってナディアが話した。
しかし、ナディアが俺の名前を口にした途端、バルバスの顔が曇った。
「ナディア、何でシュンの事を知ってる?」
ナディアはきょとんとした顔で数秒の間黙っていると、急に誇らしげに語りだした。
「ふふふ、知らなかったなら教えてあげる!そう私こそ光と影を司る神様、≪エカーダシル≫様より命じられし勇者なのでした!」
「エカーダシルの…」
「「勇者ぁ?」」
ザットとバルバスがすっとんきょうな声をあげる。
二人のそんな声を聴いたのは初めてだったが、俺にはそれよりも気になることがあった。
「あの…」
「ん?どうしたのかなシュンくん。」
「エカーダシルさんからの勇者ってことは。」
エカーダシル、その名前を聞いたのは初めてではなかった。
それは、できればもう会いたくはない、あの神から聞いたのだった。
「シュンくんは、誰の言伝で私が来たのかは分かるよね?」
「はい。」
感情を司る神、エムリス。
強烈なキャラクターで俺らを押しつぶした代償として、彼は約束してくれたのだ。
“光”を使えない俺のために、神様自身が神様に交渉。
俺に“光”を使えるように手配してくれるというのだ。
他ならぬ、光と影の神エカーダシルに、だ。
「ふっふっふ、私こそあなたに光を与えるためにエカーダシル様から遣わされた勇者!」
「ほ、ほんとですか!」
「もちろん!」
やった!
ついに俺もあの魔法を撃てるようになるんだ!
俺だって神にわざわざ選ばれてこの異世界にやってきた身なんだ。
俺の中の“光”の量は超絶多いに違いない!
助けられてばかりの身は終わりだ!
これからは俺が勇者としてふさわしい活躍を…
「でも結論から言うと君は光を使うことができないんだよね。」
活躍を…
「神様でも与えられないなんてどうなってんのかなぁ。」
活…
は?
「は?」
「いやー、私来たの無駄になったみたいでごめんね!」
な…
「なにそれええええええええええっ!!!」
・
・
・
「シュン、落ち着いたか?」
「はい…ごめんなさいザットさん。」
そ、そんな…
こんな話ってあるかよ…
せっかく異世界に飛ばされて、勇者にまでなったっていうのに…
「いやまあ、そんなに落ち込まれると私もなんか罪悪感が…」
「いえ…ただ伝えるためだけに来てくださってありがとうございます。」
「あ、あはは…」
そんな沈んだ空気を、さらに沈ませるようなぶっきらぼうな声がした。
「で、あんたどうすんの、これから。」
聞き覚えのない声に戸惑うと、俺らのラッキーの陰からよく日に焼けた少女が姿を現した。
「あ、リョーコちゃん、相変わらず影薄いね。」
ナディアがそれに気づき、声をかける。
「けっ、ほっとけ。」
リョーコと呼ばれた少女が悪態をつく。
「紹介するね!私がここまでくる間、用心棒をしてくれた傭兵のリョーコちゃんです!」
じゃーんと言わんばかりに手を広げ、ナディアがリョーコを紹介する。
ザットとバルバスは、その少女をとても珍しそうに見た。
「その黒い肌に黒髪、あんたテラーナーか?」
バルバスがリョーコに尋ねる。
テラーナーってなんだ?
「はるか南にある砂に覆われた地方≪テルル≫、そこで生まれ育った種族のことをそういうのさ。」
「あ、そうなんですか。」
ザットが俺の考えを読んだように説明してくれた。
「…なに、あんたたちも肌と髪の色で差別するやつら? ほんとにレウザエウ出身の奴らは心狭いやつが多いわね。」
「えー、それって私もってこと?」
ナディアが横やりを入れた。
「…あんたは違うわ。」
「まあ待て、俺らは差別主義者じゃあない、ただ、どうしてテラーナーの、それも少女一人でわざわざ大陸の反対方向までやってきたかと思ってだな…」
「俺、テラーナーの女なんて初めて見たぜ。」
ザットも横やりをいれる。
「ふん…それにしたって、あんたたちに理由を教える義理はないでしょう?」
「リョーコちゃんね、お父さんを探してるんだって、それでこのレウザエウが最後に回ってきたところなんだって。」
「…」
リョーコがナディアをすごい目で見ている。
「…で、アタシとの契約はどうすんのって話に戻るんだけど。」
リョーコは相変わらずのぶっきらぼうさで話した。
「え?リョーコちゃん私たちと来てくれないの?」
わたし“たち”?
「おいナディア、私たちってなんだ、たちって。」
「えー?もちろん、皆の旅に私もついていくにいまってるじゃん!」
屈託のない笑顔でナディアは喋った。
普通に美人だけに、笑顔で話されるところりと騙されてしまいそうだ。
「いや…なんで。」
「私もエカーダシル様から勇者様の監視をするように命じられたんだもーん、神様直々のご命令ですよー。」
「む…」
ひょうひょうとした態度に、バルバスも参ってしまったらしい。
「こいつらがいるなら、私はもういらないだろう。」
「えーっ、ホントに離れちゃうの?」
「当たり前、あんたたちと回るよりも、自分だけで回った方が効率はいい。」
「つまんないのー。」
ナディアとリョーコが話す。
「…まあ、あんたと回るのも悪くなかった。金も十分払ってもらったしな、レウザエウを回るんなら、アタシとまた会うこともあるだろう、じゃあな。」
そういってリョーコは道沿いに歩いて行ってしまった。
なんか、一緒に旅してた割にはドライだな…
「…で、ナディアも一緒に来るのか?」
「もちろん!」
「ラッキーにもう一人のるスペースなんか会ったか?」
「だったら私はレディーファーストという言葉を使うよ!」
「やれやれ…」
そういってナディアはひらりとラッキーの上に飛び乗った。
「ザットさん、次目指すのって≪サントアキッド≫てトコでしたっけか。」
「ん、そうだな。」
「え!サントアキッドいくの!うわあタイムリー!」
ナディアが喜ぶ。
ザットが頭を抱えた。
「…サントアキッドはこいつの故郷なんだ、あーこいつと旅かー…」
…随分不安そうだ。
そうして俺たちはラッキーに乗り、幾分と狭くなった鞍に揺られながらサントアキッドに向かった。




