天敵遭遇
間が空きました、ごめんなさい。
「あれ、あいつらはどこ行ったのよ?」
疲れた顔をしたロザリアは少年に言葉をかける。
「あ、ザットおじちゃん達? ザットおじちゃん達なら今朝、この村を出発したよ。 みんなによろしく、だって。」
「何ですって!? 早く追いかけないと! 行くわよ! ウユ、ダンテ!」
村の出口へ駆けようとするロザリアをウユが止める。
「ダ…ダメだよロザリアちゃん、まだケガした人全員を治癒できてないよ。 エ…エヴィラ教徒としてちゃんとみんなを治癒しないといけないんじゃないかなぁって私は思うんだけど…。」
それは正論らしかった。
ロザリアは口を含まらす。
「うぐぐ… じゃあちゃっちゃと終わらせるわよ! ウユも! ダンテも! 2倍の力で治癒しなさい!」
「ええ!? 私、これでも結構力使って…」
「ちゃっちゃとやる! さぁ、今日の最初の人は!?」
「うぅ…。」
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「それで、次はどこ向かうんですか?」
一応目的地を聞いておく、地理をまったく知らないから、聞いたところで何の意味もないのだが、ベラトルモス、もといラッキーの上でずっと揺られているのも退屈になったのだ。
「山をぐるっと迂回するからな、このまま…そうだな、リベットファルに向かえばちょうどいい。」
そう言ってザットが俺に地図を見せてくれた。
なるほど、山脈がこの地方を分断するように南へと伸びている。
この場所から山を通らずに南東に行くとなれば、一度北に進んでから、山沿いのリベットファルというところに行かなければならないようだ。
「リベットファルはいい村だ。 サントアキッドと同じようにのどかで、名物の川魚のパイがうまい。 まぁ、山風のせいですこぶる寒いけどな。」
バルバスが光の球をジャグリングの様に動かしながら言ってきた。
彼なりの暇つぶしらしい。
「へぇ、寄ったことがあるんですか?」
「まぁな、仲間の出身地なんだ。」
「仲間?」
「言ってなかったか? 昔、俺とザット、そしてもう2人との4人で旅をしてたんだ。」
「そうなんですか、その人たちは?」
「ん、まあ、旅が終わったら、そりゃあ、あれよ、互いの故郷に戻ったのさ。」
やけに言葉詰まりしながら、バルバスは話した。
「あ、そうだザット、ラッキーの進路は大丈夫か?」
露骨に話をそらされた気がする。
「心配するなって、ここら辺は何度も通ったことがあるだろ、それに…」
ズ、と音を立ててラッキーがその足を止めた。
上に乗っていた俺たちは前方に投げ出されそうになる。
俺自身、少し宙に浮いたのだがバルバスが襟をつかんで止めてくれた。
「ザット! 全然心配あるじゃないか!」
「いや、俺は何も… ラッキー?」
ザットがラッキーに話しかけ、甲殻を撫でた。
しかしラッキーは依然として動かない。
「バルバス、こいつは。」
「ああ。」
二人の声が急に低くなったので顔を見ると、どちらも深刻な顔で見合っていた。
「シュン、気をつけろよ。ベラトルモスに天敵は存在しないが、こいつらには危機察知能力がある。こんな風に様子がおかしいときは…」
バルバスがそこまで喋ったところで、咆哮が道にこだました。
身体の中の内臓が、すべてひっくり返るような重低な咆哮、全身の鳥肌が立ち、骨が震えだす。
久しく感じなかった、いや、ここまでのは初めてか。
圧倒的な、そう、蛇ににらまれた蛙のように、立ちすくみ何もできないほどの恐怖が俺の中から溢れ出た。
眠っていた本能が警告を鳴らしている、この咆哮の持ち主は、俺、いや、人間の―――――――――
―――――――――天敵。
「ヴァリアだ、気づかれてやがる!」
ザットが叫ぶ、刹那、その天敵が姿を現した。
「うっ…!」
その醜さに思わず声が出る。
人間の皮膚を最大まで肥大化したようなシルエット、その肌は白く、ところどころに赤黒い血管が浮き出ていた。顔に当たる部分には、その部分いっぱいに広がった口しかなく、唇のないその口からは、すりつぶすのに特化したような歯が丸見えであった、その歯にはべったりと―――――
「はぁっ!!」
バルバスの手が輝き、光があふれる。
光は揺らめく炎へと姿を変え、集まり、凝縮され、発射される。
光の炎はまっすぐと怪物に飛んでいき、炸裂した。
業炎が怪物の頭を覆い、焼き尽くし、消し炭にする。
煙が晴れると、怪物の頭は消し飛んでいた。
「やった!」
「クソッ!駄目だ!」
「え?」
怪物にもう一度目を向ける。
「…ぇ?」
消し飛んだ首の断面がもこもこと、沸騰、なのだろうか。
泡を吹き出しながら、形作られていく。
この怪物は、まさか、そんな、頭を吹き飛ばされたんだぞ。
「うおああああああ!!!」
ザットが剣を抜いて泡ふ吹き出し続けている怪物に走りよる。
そして怪物の後ろへと回り、腱を切り飛ばした。
「バルバス!これでこいつはしばらくは動けない筈だ!」
「いいぞ!ラッキー、全速力だ!」
分が悪いと判断したのだろう、ザットが戻ってきてラッキーに飛び乗り、代わりにバルバスがラッキーの手綱を握り、指示を出す。
しかしラッキーは動き出さなかった。
「ラッキー…!」
「…!!」
前を向いたバルバスとザットが固まる。
つられて前を向くと。
同じ怪物がもう一体、こちらにむかって走ってきていた。
「クソォ!!」
バルバスがその手を向けるも、その手はわずかに輝くばかりで、光は集まらなかった。
「万事休すか…!」
「ああクソ、ここまでなのかよ…!」
「そんな…もう手段はないんですか!?」
「光が回復しきってない… 太陽が出てれば良かったんだがな…」
「そんな…!」
後ろを振り向くと、頭を吹き飛ばされていた怪物の頭は、もう作り直されていた。
今は切り飛ばされた腱から泡が吹き出している。
目のないその顔は、一直線にこちらをにらみ続けていた。
にたにたと笑っているようにも見えるその顔に、『殺される』という実感が湧き出てきた。
こいつに、喰われ―――――
―――――突如、爆音が鳴り響いた。
目の前が真っ白に染まる。
なんだ、死んだのか? 俺。
キーンと耳鳴りがする、なんか、すぐ近くに雷が落ちたみたいな感じだな。
これが死後の世界なのか、意外だな。
「……ン! ……シュン!」
「…う。」
ザットの声が聞こえ、我に返る。
俺らの乗っているラッキーの周りに、真っ黒な焦げ跡ができてて、黒い煙がくすぶっていた。
周りにいた怪物たちは、吹き飛ばされたようだった。
「…助かったんですか?」
「ああ。」
「一体、何が…」
「俺らにしてみれば、随分と見覚えのある光だったな。」
バルバスも無事なようだ。
「あら?もしかして、ラッキー?てことは…」
聞き覚えのない女性の声がする。
もしかして、この人に助けられたのか?
「あーっ!やっぱり!てか知らない人増えてるじゃん!」
声の方向に振り向くと、空色の長い髪をした、耳のとがった…エルフがこちらに手を振っていた。
「ザットにバルバス!おひさー!知らない人ー!はじめましてー!」
随分と大きな声でこちらに叫んでいる。
「ザットさん、バルバスさん、あの人は…。」
ザットがなにやら苦い顔で話し始める。
「…昔、俺たちの仲間だった一人だよ。」
また暇になったら書きます。




