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Following the other world -光無き者-  作者: クロブチンC
やがて来る凍てつき
11/19

崩れた聖堂、なお立つ靄

目の前が黒に染まっている。

聖堂全体が崩れてきて、たぶんその下敷きになったのだろう。

それでもこうして思考ができるということは、俺はつぶれてはいないということだ。

そう考えているうちに、上の瓦礫がどかされ、空が見えた。


「シュン、大丈夫か!?」


ザットが俺の上の瓦礫をどかしてくれたらしい。


「大丈夫です、ザットさんは? ほかの皆は?」


「俺は大丈夫だ、咄嗟に“守護プロテクト”をかけることができたからな。 おまえにも一応かけたんだが、効かなかったようだな。」


うーん、この体質は攻撃が効かない、だけじゃなくて守りとかそういうのも効かなくなってしまうのか。

意外と辛いと思うぞ、これは。


「ほかの奴らも出てきたみたいだな。」


地面が盛り上がり、黒い鎧が姿を現した。

少女たちの仲間にいたダンテとかいう奴だ。

あれだけの衝撃を直に受けて、しっかりと立っているということは、あの鎧はかなり強いものらしい。


「ったくもー、自分の聖堂ぶっ壊すとか正気なの!? あいつ!」


また瓦礫の中から少女が立ち上がった。

全身に輝きをまとっている、あれが守護プロテクトだろうか。


「あっ! ダンテ! 無事だったのね! ねぇ、ウユ知らない?」


「ザットさん、バルバスさんも見あたりませんね。」


「…本当だ、あいつ、死んでないだろうな!?」


慌てて全員があたりを見渡す。

すると、人影がまたひとつ、瓦礫の中から姿を現した。


「バルバス!」


「ウユ!」


バルバスが少女、ウユと同時に瓦礫の中から出てきていた。

ただ、エルフの少女はどうやら気絶しているらしい。

皆がその光景を見て一瞬固まる。

気絶したウユが自分で出てきたわけではなかった。

バルバスがウユをお姫様だっこする、といった形で出てきたのだ。


「っててて… まいったな… この子最初の方で頭に瓦礫当たって倒れちゃっててさ… 守るには、って思ったら自然にこうなっちゃってさ…」


バルバスが顔をしかめながら笑った。

すると、少女の手の先がぴくりと動いた。

どうやら目が覚めたらしい。


「う…いたた… ダンテさんありが…」


「よう、お目覚めかい、お嬢さん。」


彼女はぽかんとした顔をすると、きょろきょろと辺りを見回した。

今、自分の状況が理解できていないようだった。

そしてバルバスの顔をすこし見つめると、みるみるその顔が赤く染まっていった。

どうやら今自分は、お姫様だっこをされていて、その男の腕の中で目覚めた、ということを理解したらしい。


「あ… あわわわわわわ…!」


口をぱくぱくとさせて、耳まで真っ赤にしている。

バルバスもその様子を見て、早く下ろした方がいいと思ったようだった。


「あーっ…と、下ろすぞ?」


バルバスがゆっくりと腕を下げ、少女を地面に下ろす。

少女はぎこちない動きで体勢を戻すと、ものすごい速度でロザリアの元へ走っていった。


「ロ、ロロ、ロザリアちゃん… わ、わた、わたし…」


ロザリアはそのウユの様子を見て、どうやら勘違いをしたようだ。


「ちょっとあんたたち! ウユを怖がらせてんじゃないわよ!」


「あ、あ、あのねロザリアちゃん、違うの、ええっと…」


「ウユ、大丈夫よ、大丈夫。」


ロザリアがキッとこちらを睨む。

低くうなり声もあげているようだ、犬かよ。


「それより、アキュラスはどこへいった?」


「ギルドの人も見あたらない… いや、こっちはいたか。」


先ほど意気揚々と声を上げていた男は、瓦礫から下半身だけを出して、動かなくなっていた。

体中に傷とほこりをつけている。


「…もう、この人は駄目だな。」


瞬間、遠くの方で歓声があがった。

皆が驚いて、その方向を見る。


「あっちにいるな…!」


「ああ…!」


「あーもう! とりあえずあのタコ坊主はぶっ飛ばさないと気が済まないわ! ウユ! ダンテ! いくわよ!」


「う、うん!」


全員が駆け出す。

その背中を、俺は知らずのうちに追っていた。

大勢の人間やエルフが、輪になってそこにいた。

屈強そうな大男、かわいらしい老婆、小さな男の子。

様々な人間がそこにいた。

そして皆、一様に悲痛を浮かべていた。


輪の真ん中には司祭がいた。

まわりの人たちに演説を行っているようだ。


「…死者たちよ! ワタクシはただ、自分のためにこのような暴挙を行ったのではないのだ! そうだ!ワタクシは、ワタクシ自身はこれを暴挙だと思ってる!」


その場についた俺たちは、顔を見合わせた。


「何言ってんの、あいつ…?」


ロザリアが顔をしかめている。

周りの人々も、これを疑問に思ったようだった。


「じゃあ、じゃあどうして俺たちを生き返らせたんだ? どうして俺たちは生き返って、家族を、この手で殺さなきゃならなかったんだ!?」


赤く染まった手が輪の中から次々に挙げられる。

アキュラスはそれを見て続けた。


「これはすべてエヴィラ様のご啓示である! エヴィラ様が、ワタクシにそうするよう言って、それを可能にできる力を与えてくださった! 最初のご啓示が達成された今! 次のご啓示をワタクシは頂く!」


人々がざわつく。


「すべてが終わり、エヴィラ様の思惑通りに世界が救われたなら! エヴィラ様はすべて元通りにしてやると仰った!」


続ける。


「エヴィラ様! ワタクシは次はどうすればよいのですか!? あなたの言葉通り、一つの街を滅ぼした! 次はどうすれば、危機は去るのですか!? それと、世界の危機とは、いったい何なのです!?」


司祭は両手を上げる。

人々も、俺たちも、アキュラスも、静かになった。


静かなまま、時が流れた。


アキュラスの顔から笑みが消え、焦りが見て取れる。


「エヴィラ様…? ワタクシに、ご啓示を!」


「…哀れね、エヴィラ様の教えを破った者は、もうエヴィラ様の子でもなんでもないわ! 啓示は受けられないわよ!」


ロザリアが一歩前に出て、大声で啖呵を切る。

アキュラスは、ひどく驚きこちらを向いた。


「!! お前らは…死んでいなかったのか! おのれ…、これはワタクシが、エヴィラ様から、本当に、聞いたことなのだ!! エヴィラ様の、邪魔をしようというのか!? 世界の危機をそのままにしようというのか!?」


アキュラスの目が見開かれ、彼は叫ぶ。


「この…! このっ…!! このぉっ…!!! 死者たちよ! エヴィラ様を穢した奴らを潰せ! 粉々にしろ!!」


瞬間、大勢の人々がこちらに向かってきた。

全員が、顔を悲痛でひきつらせ、「もう殺したくない。」「逃げてくれ。」と叫んでいる。

それを見て、俺たちは構えを取った。


「あいつらは操られているだけに違いない! 殺すな!」


バルバスが輝きを集めながら俺たちに言う。

全員が頷くと、全員の手に輝きが集まった。


「やるぞ!!!」


ザットの掛け声と共に、皆は手を放した。

集まれ、凝縮されていた輝きは光となり、輝きの爆発を起こす。

密度の高い輝きは、暗い夜の闇をまるで昼のように照らした。


「「「「気絶ショック!!!!」」」」


視界が銀色に染まる、耳を轟音が貫く。

感覚はひっくり返され、頭の中が真っ白に染まる。

視界がもとの夜の闇をてらしだしたときには、向かってきた人々は誰一人として立っていなかった。


「よっし… あとはあの司祭だけだな…!」


ザットがこぶしを握る。

そして、表情が曇る。


「っ! まずい…光が!」


バルバスを見ると、バルバスの顔にも余裕がなくなっていた。


「参ったな… すこし、頑張りすぎたみたいだ。」


どうやら2人の中の光が底をついたらしい。

後ろを見ると、少女たちもへたり込んでいた。


「ふうっ… ふうっ…!」


「も、もう…光が出ない… うぅ…。」



「…ハハ! ハハハッ!! ハーッハッハ!!!」


司祭の顔に笑みが戻り、こちらに歩み寄ってくる。


「神はやはりワタクシの見方をしたようだな!! ハハハ! エヴィラの罰をうけるがいい!」


アキュラスは片手を高く掲げると、光を、輝きをゆっくりと集めだした。

輝きが集まると、それらは凝縮され、光の玉となった。

玉は長く伸び、先が鋭くなり、殺意を帯びていった。

光でできた、巨大な槍が、辺りを照らした。


「全員を貫いてやる! 天罰だ!!」


そういってまた高らかに笑った。


「まずい! 逃げ—————————」


ザットが叫んだ瞬間全員が力なくその場に倒れこんだ。


「あぐ…! 筋肉硬直パラライズ…!」


「ハハハ! 逃がすと思ったか!! 一人は当たらなかったようだがいいだろう!! 貴様らを粉々にすることに変わりはない!!!」


この場に立っているのは、あの司祭と、俺だけになった。


「ザットさん、僕…。」


「に、げろ…! お前は、勇者、だ…! 世界を救わなければ…!」


「僕、立ち向かいます…!」


自然と、口から言葉が出てきた。

俺は今何て言った? 立ち向かうって言ったのか?


「ダメだ…! 光が通じないとわかったら…あいつは、鋼でお前を切り裂くぞ…!」


バルバスが言う。

その通りだ、この世界で、俺は殺されるしかない立場でしかないのだ。

攻撃するやり方を知らない、殺されるだけの立場だ。


しかし


俺は、俺の体の中で何かが渦巻いているのを感じた。

渦巻きに合わせて心臓が動いている。

心臓が動いて送り込まれた血が、ドクンドクンと体中を巡っている。

アタマが熱い、内側から溶けそうだ。

全身に力がみなぎってくる。


俺以外の全員が倒れている、敵を除いて。

辺りにまき散らされている黒く、深い闇が俺に力を与えてくれているような感覚だ。


俺は足を前に出した。


「なんだお前、そんなにワタクシに殺されたいのか?! ならば慈悲として一番に殺してやる! エヴィラの司祭、いや、エヴィラの勇者アキュラスに殺されることを名誉に思え!」


光の槍の先が、俺を向く。

俺はまた一歩、足を前に出した。


「前に出てきても無駄だ! この槍はお前をいとも簡単に貫いて、後ろのお前の仲間たちも貫く! 諦めろ!!」


辺りの闇に、俺は纏われていた。

頭の中が赤黒く染まっていき、視界のピントが中央に寄せられる。

腰に刺さっている短剣を抜いた。

俺はまた一歩、進んだ。


「なんだ… なんだお前!! エヴィラ様の邪魔はさせない…! 絶対に! この勇者アキュラスが!!」


俺はまた一歩、司祭に近づいた。

もう手を伸ばせば、届く距離に彼はいた。


「ぐ、な、なっ…!!! ぬううううううううううぅぅぅうぁああああああああ!!!!! 死ねえええええええええええ!!!!!」


アキュラスの手から、槍が放たれる。

それは俺の心臓にあたると、


はじけて、消えた。



「はぁっ…! はぁっ…! なぜ…!? 何故エヴィラ様は何も言ってこない!? エヴィラ様、こいつはどうやって殺せばよいか!?」


腰の短剣に手を伸ばし、抜く。

その動作にアキュラスは目にほんの少しの怯えを見せた。

抜いた短剣には、もらった時に見たのとは違う、光で形作られた刃が伸びていた。


「ひっ、光石の剣…!! ワタクシの光は、じゃあ確かに当たっていたはず!! 何故!? 何故お前は死んでいない!!! お前は一体何なんだ!!?」


俺は、俺は。


「俺は勇者だ。 光無き、勇者だ。」


剣を構え、振り上げる。

すると、後ろから、ザット達の声が聞こえた。


「…シュン!」


それが攻撃への肯定の言葉なのか、それとも否定の言葉だったのか。

それを聞かずに俺は、

その剣を振り下ろした。
















剣は司祭の足元に刺さっている。

司祭は困惑した表情で俺を見ていた。


「僕は、勇者としてあなたを傷つけたくない。 綺麗ごとかもしれないけど、僕が本当に勇者なら、この剣を振るうのは、本当の悪を討つためだけに使いたいんです。 あなたは、神の指示に従っていただけなんでしょう…? なら、間違っているのは、神で、あなたではないと思います。」


剣を抜いた。

光でできた刃は消えていて、もらった時の短剣に戻っていた。

それを鞘に戻す。


「ワタクシを、傷つけない…?」


アキュラスに背を向け、ザット達の方へと歩き出す。


「お前は… お前は…」



「大馬鹿者だなあああああぁああぁああぁぁぁぁ!!!!」


振り向くと、アキュラスは懐から小さなナイフを取り出して、俺に振りかぶっていた。

避けられない。

やっぱり、俺に勇者はできなかった。

この人も勇者だというし、この人に託してもいいんじゃないか。

そう思って、目をつぶった。


・  ・  ・


俺は痛みを感じることはなかった。

不思議に思って目を開けると、その目を疑った。


俺とアキュラスの間に、人がいる。

金色の衣を纏った人が。

その人は、輝き、優しい光を体の周りに浮かせていた。


アキュラスは後ずさりをする。


「誰だ、お前… なんなのだ… 一体…これは…!」


「エヴィラ様!?」


ロザリアが駆け寄ってきた。


「エヴィラ様…! 降りてこられたのですね…!」


なんだって? この光輝いている人物が、神のエヴィラなのか?


「嘘だ… 違う…! こいつはエヴィラ様じゃない!! お前は誰だ!!!」


アキュラスが叫ぶ。


『…エヴィラ。』


頭の中に直接声が響いてくる。

…不思議な感覚だ。


「違う… 違う…!! お前がエヴィラなら! 違うんだ…!!」


『お前は教えに背いた。』


「お前がエヴィラなら…、ワタクシに村を滅ぼせといったのは誰なんだ! あのローブの男は、誰なんだ!!」


え?

アキュラスに村を滅ぼすよう言い、力を与えたのはこいつじゃないのか?


『罰する時だ。』


「お待ちくださいエヴィラ様! ワタクシは、ワタクシは騙され———――――」


神の指先から小さな光が飛び出た。

それはアキュラスの心臓あたりにあたると、アキュラスの体を光で包んだ。


すると、アキュラスの顔にどんどんとしわが増えていった。

身体もどんどんと小さくなっていっている。


「ああああぁあぁあぁぁ……!! ワタクシは…! エヴィラ様を…しん、じ…て。」


そこまでいうと、アキュラスの体がさらさらと崩れていった。

さっきまで、そこにいた司祭は、灰へとなり果ててしまった。


『次だ。』


エヴィラの体が空へと浮かぶ。


『全ての我が身体の中に浮かぶ命よ、有るべきところに有れ。』


そういって手を広げた瞬間、町全体が揺れた。

周りに倒れていた人々の体が、次々に灰になっていく。

血にまみれ、倒れていた人々の傷が塞がり、次々と起き上がる。


『死したものは生を求めてはいけない、か。 今回は勇者に免じて。』


そういうと淡い光と共に、エヴィラは消えた。


強い風が吹いた。

その風が、まわりにあった灰を空に運んでいくのを、俺たちはただ眺めているしかなかった。


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