連載になるかもしれない、ネタ。14
すいません、相変わらずのネタです。
設定集ともいう。
たぶん、きっとコレはどこかで使いまわす予感。
目の前に跪く五人の騎士。
その後ろには兵士たちが周囲を警戒し、豪華な馬車の前には折り目正しく控えるメイドたち。
物々しいソレに溜息を一つ吐いたところで、違和感を覚えて首を傾げた。
なんだ、この既視感。
もやもやと消化不良のようなソレを不快に思いながらもう一度、騎士を視界に入れた時。
前世ともいえる、記憶が蘇った。
一般的とは言い難い、一風変わったシナリオと設定の恋愛シュミレーションゲームを制作していた会社があった。
主に乙女ゲーを手掛けていたが、ギャルゲーやBLゲーも制作していたその会社。
優美なイラストと煩悩をガンガン刺激するフルボイス、そして飽きのこないシナリオで、販売シェアの四割を軽く占めていた。
この業界としては最大手ともいえる数字をたたき出していたこの会社、内情は代表の趣味の延長である。
そんな製作会社で、私はプログラムを組んでいた。
代表と絵師が昔馴染みの悪友で、声優たちも知り合いという気心の知れた仲間たちしかいない職場で、代表が書いたシナリオをゲームに起こしていた私。
で、既視感の正体は、そんな過去の記憶だったわけだが。
そう、ココは、乙女ゲームの世界である。
人誑しであったが同時に人嫌いであった代表の悪友のおかげで、少数で制作していた為に制作したすべてのゲームのイラストは絵師の悪友が、プログラムは私が起こしていた。
そのため、全てのゲームの内容は頭に入っている。
現状に既視感を覚えたのもそのせいで、よくよく思い返せば、今の私の姿も見覚えがありすぎる容姿をしていた。
よりによって、このゲームかよ、と思わなくもないが。
「第一皇女殿下。お迎えに上がりました」
今は、ゲームのプロローグ部分。
ヒロイン(=プレイヤー)である皇国の第一皇女(=今の私)のお迎えのシーンである。
100%奪略系とか、ライバルキャラが居ないとか、SFファンタジーとか、猟奇ホラーとか、一風変わったシナリオ設定のゲームしか制作しなかった会社だけあって、コレも一般的な内容ではない。
このゲーム、ヒロインが悪役なのだ。
いや、プレイヤーがヒロインではあるのだが、普通の乙女ゲーのヒロインとは違い、行動や選択肢がとにかく悪役染みている。
そのかわり、筆頭ライバルキャラである第二皇女がいかにもなヒロイン設定で、清廉潔白な聖女の如き少女である。
たしか、コンセプトは『ヒロインが白だと誰が決めた!』だったはずだ。
ちょうどその頃、巷では悪役ヒロインというモノが流行っていて、三人で飲んだ後の勢いで悪友たちと盛り上がって、そのまま商品化、という、本当にノリと勢いだけで出来上がったゲームがコレだ。
まぁ、シナリオ書くのがあの悪友だったから、流行っていた悪役ヒロインとはちょっとどころか、だいぶ懸離れたモノになっていたが。
「正妃は謀反人として陛下が斬首。生家である侯爵家も取り潰しになっております」
ただ、正妃の子である皇太子と第二皇女は今回の謀反に関わりなし、として咎も無く今まで通りの地位に在る、と言う騎士。
さて、ここで、ゲームであれば最初の選択肢が出てくるのだ。
①帰城を了承する。
②このまま残る。
③第二皇女の斬首を望む。
オープニング中に出てくるこの選択肢で今後のシナリオが変わるという大切なモノだが、③はないだろう。
③を選択すると、本当に第二皇女が目の前で斬首されて、今後のシナリオは正に悪役街道まっしぐらになるのだ。
解り易く、選択肢に『斬首する』が出てくる感じで。
当時の私たちは、一体何を求めていたのか。
いや、酔っぱらいの勢いに意味は無いのだが。
「今更でしょう。城を出て五年。最早わたくしたちの居場所など在りはしないでしょうに」
とりあえず、ココは現実。
選択肢など勿論出てこないので、情報の擦り合わせを行う。
今までの事もきちんと覚えているとはいえ、確認は大切である。
さて、このゲームはヒロインが15歳から16歳の成人を迎えるまでの1年間が期間である。
なので、今の私は15歳。
恋愛シュミレーションなので、この期間内に攻略対象者を落とすことを目的としている。
攻略対象者は関わりを持ったキャラ全員、という正気を疑う人数。
初期では15人位だったが、ユーザーの要望により、最終的に28人にまで膨れ上がった。
オンラインゲームだったため、数回アップデートをした。
都度シナリオを書く悪友も大変だっただろうが、ソレをプログラム化する私も大変だった。
一週間仮眠のみで働いたときは、幻覚まで見えたからね。
「何を仰いますか。貴女様の専属侍女はじめ私たち騎士、下仕えに至るまで貴女様にもう一度お仕えできる日を心待ちにしておりました」
恍惚とした表情でこちらに向けられ、その言葉が本心であると伝えてくる。
事実、嘘は無いのだろう。
城を出るまで私に仕えていた者たちのうち、高位の地位を持っていた者だけがココにきている。
皆一様に歓喜を隠さず、私の言葉を待っている。
「陛下も、皇女殿下ならびに第二妃様の御帰りを心待ちにしておいでです」
そう言葉を繋ぐのは、国王陛下の侍従長であった初老の男性。
とても私を可愛がってくれていたこの男は、信頼できる優秀な者を自ら選んで私の側仕えとし、自身も時間を作っては私に尽くしていた。
国王の侍従専用の御仕着せと侍従長の地位を表す緑色のタイが、まだその地位に在るのだと知らせた。
この男の言葉ならば、信じられる、が。
「御母様はココには居なくてよ」
ゲームのオープニング以前に、ヒロインの設定から外れてしまった私は、如何するべきなのかが問題である。
ゲームの設定では、ヒロインは皇国の第一皇女。
母は精霊国と呼ばれる王国の、皇国との国境に接している領地をもつ辺境伯の令嬢だった。
精霊の奇跡とまで謳われた美貌で引く手数多だった令嬢を射止めたのは、当時即位したばかりだった皇国の天皇。
精霊を祖とするこの精霊国では、王族はじめ上位貴族たちは精霊の力を借りて現象を起こす『精霊術』と呼ばれる特別な術が使える。
また、その身に流れる血の特殊性から、聖獣と呼ばれる強大な力を持つモノと契約を結ぶことすら可能だと言われている。
そんな特別な国の上位貴族の令嬢が、天皇とはいえ既に正妃の居る他国へと嫁ぐのには周囲の反対が凄まじかったが、国交の強化という観点から許可された。
そして、そんな二人の間に生まれたのが第一皇女(=ヒロイン)である。
最愛の妻から生まれた娘を、天皇は殊の外可愛がった。
精霊の奇跡と謳われた母の美貌を受け継いだ皇女は周囲の者も虜にし、正妃の子である皇太子も妹を溺愛した。
第一皇女の誕生から半年後に正妃の産んだ第二皇女との扱いの差は歴然で、その差に正妃はだんだんと心を病んでいった。
この世界では、10歳の年に魔力量と適性を調べる事が義務付けられている。
魔力を糧とした魔術と呼ばれるものを行使した生活が一般的であり、精霊術を使う精霊国の者たちも問題なく魔術を使う事が出来る。
皇女二人の魔力検査の日。
両親である天皇と2人の妃、兄の皇太子と忠臣達が見守る中、第二皇女には治癒や浄化に特化した真っ白の魔力が皇族の平均値以上に有るとされた。
第一皇女はどうか、と期待される中、しかし、第一皇女には何の魔力反応も出なかった。
魔力を持たない者など、この世界には存在しない。
そのうえ、第一皇女は母から精霊国の血を引いているにもかかわらず、精霊の力を借りることすら出来なかった。
そんな第一皇女は、この世界の理から外れた存在。
そのようなモノを、皇国の、それも皇族としておくのは問題である、皇国の皇女は稀有な魔力を持つ第二皇女だけで良い、と正妃が騒ぐ中、しかし、天皇はじめ臣下の誰一人として第一皇女を責めなかった。
天皇は、尊き精霊の血を穢した己にこそ責があると嘆き。
第二妃は、自身が精霊たちを怒らせてしまったのだと涙を流した。
皇太子は、第一皇女を抱き締め、魔術も精霊術も必要ない、自分が一生大切にすると誓いを立て。
忠臣達は、第一皇女が今後不自由をしないように、今以上に優秀な側近を揃えようと指示を出していた。
誰一人として、第一皇女を排除するとは言わなかった。
それどころか、大切に囲い込み、これで皇国より出さなくても良くなった、と喜んだ。
皇女として相応しい、それこそ他国にも自慢できる稀有なる魔力を持つ己の娘である第二皇女へは誰も関心を寄せず。
世界の理から外れた、排除すべき存在である第一皇女が大切にされる。
そんな、不条理ともいえる扱いの差に。
正妃は、壊れた。
常々第二妃と第一皇女の存在を疎ましく思っていた実家の侯爵家の力を借りて、2人に暗殺者を差し向けた。
自衛すらまともにできない第一皇女は優秀な護衛を付けられていたが、第二妃と一緒に居るところを襲わせ、その隙を突いて行き先を指定しない移転魔術で飛ばした。
飛ばされた先は、精霊国にある聖獣の森。
第二妃の実家である辺境伯の領内であったため、実家に保護される形で5年間隠れ住んでいたのだ。
と、いうのがゲーム設定。
ヒロインの生い立ちは、かなりの力作であるムービーによって語っていた。
ストーリーよりも手が込んでいたかもしれない。
酔っぱらいテンションこえぇ。
「第二妃様はどちらに?」
で、現状の私はというと、ちょっと違う。
「王城よ。一昨年、王妃様が亡くなったでしょう? 喪が明けた昨年、御母様は陛下に嫁がれたわ」
皇国では、三年陛下の同衿がなければ正妃といえども離縁される。
なので、第二妃であった母も三年過ぎた時点で離縁が成立しているはずなので問題ない。
ぴしりと固まった空気に、私が悪いわけではないが罪悪感が沸き起こる。
さて、ゲームの設定では第一皇女には何の力もなかったが、現実の私はというとちょっと違う。
魔力検査を行う十歳より前に、聖獣との契約が終わっていたのだ。
母は実家が国境沿いの辺境であることを良いことに、ちょくちょく私を連れて実家に遊びに来ていた。
母は精霊との相性も良く、精霊術も王族に匹敵する使い手だ。
なので、辺境伯領内にある、聖獣の森と呼ばれる精霊たちの住処へと定期的に赴いていたのだ。
母について森で遊んでいた私は、気づけば聖獣たちに気に入られ、知らない間に契約が終わっていた。
いやさ、コケて擦りむいた膝を舐められて契約完了とか、訳が分からないから。
聖獣と契約すれば、自身の持つ魔力は全て聖獣に流れ、魔術を使うことが出来なくなる。
そのかわり、精霊よりも上位の聖獣の加護によって、通常の魔術や精霊術以上の術がノーコストで使いたい放題になるのだ。
自然現象を司る聖獣の力を、そのまま使えるようになる、といえば解りやすいだろうか。
そんな騙し討ちのように契約完了されたのが八歳の時。
当時、森に来るたびに一緒に遊ぶ獣、という認識しかしていなかったが、くっついてきたソレラを見た母が腰を抜かし。
母の実家では上へ下への大騒動。
国王へ最重要機密として報告され、精霊国では国王すら私に礼を尽くす。
契約者である私の機嫌を損ねれば、敏感にソレを察知した聖獣たちが排除行動に出るためだと後から知ったが。
「では、皇国へはお戻りになられない、と?」
やっと正気に戻った父王の侍従長が問いかけてくる。
その顔色は悪く、今にも倒れそうだ。
「えぇ、すでに王妃ですし」
コレも設定から外れているのだが、精霊国の国王は、母の初恋の相手だったらしい。
七歳年上の陛下に一目惚れしたものの、精霊国では基本一夫一妻制。
既に既婚者であった初恋の相手とは結ばれることはないと諦め、それでも国王のために大国である皇国との関係強化に繋がる、と天皇へと嫁いだのだ。
「皇女殿下は・・・」
恐る恐る尋ねてくる侍従長に、にっこりと微笑んで。
「わたくし、精霊国の次期国王ですのよ」
だから、今更ですわね、と。
事実のみを簡潔に告げた。
この世界に、聖獣と呼ばれる存在は三体だけである。
空の支配者である鳳凰、地の支配者である白虎、水の支配者である水龍がソレであり、天候や自然災害まで自在に操ると言われている。
精霊国の聖獣の森に住んでいると言われているが定かではなく、契約者は数百年存在しなかった。
そんな聖獣たちの契約者となった八歳の頃から、私の周りは騒がしくなった。
聖獣の契約者とは、望んで得られるモノではない。
そもそも、聖獣が人間の前に姿を現すことが珍しいのだ。
一部では架空の存在とまで言われていた聖獣、それも三体同時に契約した私を巡って、皇国や精霊国はもちろん、周辺諸国も動き出した。
聖獣は契約者を至上の存在とするため、契約者の住む土地は栄えるのだ。
そのかわり、契約者に一度でも無体を働けば、その瞬間に国ごと滅びることになる。
そんな諸刃の剣ではあるが、だからこそ色々な意味で狙われる。
幸い、私は皇国という大国の第一皇女であり、精霊国の上位貴族の血を引いているため、ある程度の安全は確保されていた。
もともと私を溺愛していた両国関係者はますます過保護になり、契約者になることによって使えなくなった魔術で生活に不自由が出ないようにと、優秀な側付きたちが十二分に与えられた。
聖獣たちも私の側から離れず、今まで以上に不自由のない安全な生活を送っていた。
そして、十歳の魔力検査の日。
既に私には無意味なものだったので受けなかったが、第二皇女は検査を受けていた。
皇女の検査となれば普通、天皇はじめ皇族全員と忠臣たちが見守る中行われる。
慣例に従う形で、検査には出席した父や兄皇太子、忠臣たち。
結果は、皇族の平均値よりは多いが、皇太子よりは少ない魔力量と、浄化と治癒に特化した適正。
珍しく有用な適正ではあるが、聖獣の契約者である私という存在がいれば、浄化も治癒も第二皇女以上の術が使い放題である。
そのため、普通であれば諸手をあげて喜ばれる適正も特別なモノとは認識されず、第二皇女の存在価値向上には繋がらなかった。
聖獣たちに、私の魔力量が聖獣三体と余裕で契約できるほどあり、適正も全適正、と事前に聞かされていたのも原因だろう。
天皇からのお言葉もなく、結果を確認したらすぐさま皆が退室していく。
あからさまな落胆はなかったものの、どこの国へ嫁がせるのが有効かとの会話を隠さない忠臣たち。
ソレにキレた、正妃と実家の侯爵家。
浄化と治癒の適正など、普通であれば諸手をあげて歓迎される。
他国に嫁がせるなど愚の骨頂と、国で大切にされるのだ。
それが、正反対の対応を取られた。
正妃は天皇の寵愛を独り占めする第二妃と周りから溺愛される第一皇女を毛嫌いし、そんな正妃を天皇も、正妃の子である皇太子も邪険にして遠ざけた。
結果、皇太子の外戚であるという権力を当てにしていた侯爵家も敬遠され、形ばかりの役職を与えられるにとどまった。
それらの不満が、一気に爆発したのだ。
結果、愚かにも母と私を暗殺しようとした。
一応は考えていたらしく、私たちが精霊の森へと向かっていた道中、雇われた暗殺者が殺しにきたのだ。
母は精霊術はもちろん、魔術の才能も溢れている人なので自力で撃退、私は気づく前に聖獣たちが壊滅させていた。
コレに激怒したのは精霊国側。
精霊の奇跡とまで呼ばれた美貌の母と、伝説ともいえる聖獣の契約者である私を危険にさらしたことにより、皇国側が元凶を排除し内政を安定させ、迎えにくるまでは精霊国から出ることを禁止された。
連れてきていた皇国の側近たちに、その旨を認めた精霊国の国王並びに母の実家である辺境伯の書状を持たせ、追い出す形で帰国させ、私たちは精霊の森に匿われた。
聖獣たちの許可を得て屋敷が建てられ、聖獣たちが認めた者のみを使用人として、相変わらず溺愛されて何不自由なく過ごした。
一応、私たちが匿われているのは公然の秘密であるため、面倒な社交界の付き合いもなく平和な日常の中、皇国からの迎えはなく。
三年が過ぎて母と天皇の離縁が成立した時点で、王妃を亡くして傷心である国王を見舞うために母が登城。
まだまだ無くなってはいなかった恋情により国王を籠絡させ、後妻に収まった。
精霊の奇跡と謳われるほどの美貌と、辺境伯という実家の地位、そして自身も精霊術と魔術の優秀な使い手である母が後妻に納まる事に反対する者は居なかった。
母だけでもそこまでのスペックを持っているうえ、その娘である私は聖獣の契約者。
精霊国としては諸手を上げて歓迎する事柄だ。
国王には既に嫁いだ王女しか子が居なかったため、継承権は私にまわってきた。
もともと、精霊国では国王になる第一条件は精霊術が使える事である。
いくら国王の子であっても、精霊術が使えなければ王位は継承できない。
なので、次期国王は現国王の子である必要は全くなく、精霊の上位種である聖獣の、契約者である私以上に相応しい者はいない、とされたのだ。
ちなみに、私の婚約者は優秀者と名高い公爵家の次男である。
もとは第一位の王位継承権を持っていたが、私に移行したことによって私の婚約者へと立場を変えた。
本来ならばオープニングの今日、エンディングを迎えたことになるわけだが。
仕方ない、ココは現実なのだから。