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森の中

いつ開けるかもわからない森をただあてもなく突き進む。

地図なんて持っていない。

とにかく歩くだけだ。


永遠に続くものなんてない

いつかは必ず終わりが来るのだ。いのちも

芸術も

永遠に続くものなんてない

絶対に滅びぬものなどない


ざくざくと歩いていると、微かに子どもの泣き声らしきものが聞こえてくる。

「こんなところに家なんてあんのか?」

思わず呟き、耳を澄ませる

移動はしていないらしい。

同じ声量ならばの話だが。

聞いてしまったものは仕方ないと思い、声をたどって行った。



「うわぁぁぁぁぁーーん」

そこにはログハウスが建っていた。

子どもの声はそこから聞こえる。

「一体どんな声帯してやがる、ログハウス突き抜けて聞こえるなんてあり得ねぇ・・・」

悪態をつきつつ、ドアを開けるとそこは普通の山小屋だった。

ただ、布団代わりと思われる藁に横たわる女と泣きじゃくる子どもを除けばの話だが。


「おい」

声をかけると子どもは振り返り、怯えたように顔を強張らせた。

「ま、ママ・・・」

まだ5、6歳位の男の子だ。

泣き止んだ少年は藁に横たわる女にすがり付き動かない。

「どうした?」

子どもは反応しない

ただただ怯えるだけだ。

「・・・わたしの」

死の香りを身に纏う女はよく見ると目がわずかに開いている。

しかし、焦点は合っていない。

「私の病気が悪化して、動けなくなったんです。

でも、身寄りがなくて

この子を連れて行ってくださいますか?」

子どもを思いやってあえて言わなかったのだろう


自分が死ぬことを


「連れて行くとはどこに?

俺は旅人だから、子どもの安全は保証出来ない」

「どこかの施設でもよいのです、お願いします、旅の方」

子どもは不安げにこっちを見ている

「わかった

けど、あんたはどうする」

「わたしはここに残ります

アレン、この人と行きなさい

ママは大丈夫だから」

母親は我が子をしっかり抱き締め、そしてそっと背中を押した。

「準備は良いか?」

「・・・うん」



小屋を出ても子どもはちらちらと振り返る。

「お前、名前は?」

子どもに合わせながら広く深い森を歩く。

「アレン」

見えなくなった小屋を振り返りながらも答える。

「そうか

良い名前だ

お前は強くなるぞ?」

「本当に?

ママを守れるくらい?」


あれほど衰弱していればそう長くは生きられまい。


それでも

「お前次第だがな」

嘘をついてやる

これから強くなるであろう少年のために

優しさと言う人に必要な嘘を

「兄ちゃんはなんて言うの?」

子どもがこちらを見上げる。

「俺か?俺は劉璃だ」

「りゅうり?」

「あぁ、そうだ」


あぁ、俺は劉璃だ・・・

人を守ることなんて出来ない

今まで沢山の人の命を奪ってきたからだ

血塗れの俺には純真な子どもは似合わない

純真さを汚してしまう


「アレン、町に行こう

そこでお前は変われる筈だ

辛いかもしれないが」

歩くのが遅いアレンを背負いながら言った。



森はまだまだ深いようだ


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