日常
「夏鈴ちゃーん、悪いけど包帯持ってきてくれるー?」
私こと夏鈴の師匠シュトーレンは軽薄だ。
女に弱い
しかし、思慮深く膨大な知識を持ち、劉璃の今は亡き師、風音様には及ばないが強い
若い頃はよく風音様と仕事をしたり修行したと語っている。
嘘か本当かは怪しいのだが・・・
劉璃の相手をしている師匠の手は潰れた豆で血まみれになっている。
昔は血まみれの手になるのは劉璃だったのに
シュトーレンが受け流せないほど劉璃が強くなったと言うことなのだが
「そういや薬切らしてなかったっけ?」
たまに忘れそうになるが、私たちは表向きは薬屋として行脚している。
「傷薬と高麗人参、鬱金
この2つよく売れますね〜
あとは風邪薬
材料はあるけど、調合してないだけです」
いつも背負っている薬箱を整理しながら答える
「調合してから町に降りるかー」
すり鉢を取りだし調合を始める
辺りには
ゴリ、ゴリ、ゴリ・・・
漢方がすり潰される音だけが響く
今日は野宿だろう
立ち上がり
薪を拾いに行く。
師匠は気にすることなく、魔法のように薬を作っていく
拾った枝を抱えて戻ると、干し肉を枝に刺し、夕食の準備がされていた。
枝を組み、シュトーレンが火を点ける
「作ったの入れといたよ」
不規則に揺れ、はぜる火を見つめながら言った。
「そうそう、入ったから手入れしとけよ」
日常会話のように、しかし、冷たい響きを含んだ声が続けられた。
裏の仕事の話をするときは必ずシュトーレンは冷たい。
この仕事が嫌いなのだろう
表では生かす為に働き
裏では殺す
いつ死ぬかもわからない
死ねばなにも残らない
悲しむ者より喜ぶ者が多い
そんな世界なのだ