085 武琉 vs 毅:「人類の限界 その1」
ゆらりと、酔いどれの様に平衡感覚を失った「武琉」が、「聖霊」の匂いに誘われて、…ミリアムを見つけ出す。
ミリアムは未だ身動きを封じられた侭、凍りついた侭、電池のキレた玩具の様に転がり、…
不意に現れた絶体絶命の脅威の前に、葛葉が、…立ち向かう。
葛葉:「ちっ、…」
しかし大和武琉の一撃を、生身の人間が避けきれる、受けきれる筈も無く。
フェイントの筈の武琉の初弾は見事、葛葉の分厚い胸筋ごと、右肺の肋骨を、…押し潰した。
葛葉:「ぐぁ、…」
葛葉は涎とも呻きともつかないものを、吐き零し、…ギリギリ、意識を失いかけながらも、踏みとどまって、…堪える。
武琉の本命の右掌底を、一か八かを掛けた葛葉のダガーナイフが、受け止める!
武琉は、しなやかにそのナイフの刃を撫でただけで、…その瞬間には既に、武琉は第二撃の体制を整えている!
葛葉:(…もう、間に合わん!)
ワンテンポ早く! 放たれた背広女の銃撃が、武琉の肩を直撃するが、…銃弾如きで武琉にダメージを与える事は、…叶わない!
次の瞬間には、人間の反応速度を超えて方向転換した武琉の右抜き手が、背広女の胴体を、…貫通していた!
怯み、身構えるボディガード連中、しかしもとより相手になる訳も無い!
一瞬の隙を拾って防御の体勢を立て直した葛葉だが、…だからと言って、大和武琉に対抗できる様な手段が、…ある訳が無い。
ダガーナイフを盾にして、苦し紛れに放った葛葉の拳銃が、武琉の顔面を貫通するが!…破壊された脳の再生に稼げる時間は、…ほんの数秒?
喜多見は、ゆっくりと、浮かびながら、三条茜の目の前へと、音も無く移動する。
茜:「あなたは、…誰?」
喜多見:「私は、お前が果たすべき宿命を伝えに来た。只のメッセンジャーだ。」
楓が、茜の傍に来て、異様な姿の口裂け女から、茜を遠ざけようとするが、…
茜:「私に何を、伝えると、言うのですか?」
喜多見:「それは新しい世界だよ、…お前は、新しい世界の全ての生き物と交わり、孕み、全ての生き物の母となるのだ。」
喜多見は、まるで三面鏡に映った無限の像の様に、どこまでも茜の視線を捕えた侭で、手放そうとしない。




