082 喜多見:「這い寄る混沌 その12」
フリオ:「…人の苦しみは、…持つ者と持たざる者との違いから生まれる。 …では、何故人は皆等しく平等ではいられないのだと思うかね?…ある者は親兄弟を失い、ある者は九死に一生を拾う、…ある者は全財産を失い、ある者は謀らず富を得た。」
自らの役割の終わりを確信したか、フリオ・キャンベラの眼差しは、意外にも穏やかだった。
フリオ:「…全ての密度の異なりは、音楽の旋律にも似て、…神々の為に、この世界の悲鳴を美しく奏でるのだ。…だから人は、その為に、痛みから逃れる事は、出来ないのだよ。」
茜:「でも、…」
武琉が、茜の肩を掴んで、フリオを生首から、…目を背けさせる。
武琉:「死に損ないの戯言に耳を傾ける必要は無い。 俺達は、俺達のやれる事をすればいい。 敵が神だと言うのなら、神と戦うまでの事だ。」
葛葉:「何か、策が有るのか?」
武琉:「そんなものは無い、…が、ただ、人間ってのはそう簡単には死なないって事は知っている。 仮令頭を潰されたとしても、指一本しか残らなくても、細胞の一つ一つに、思いは残る。 そして、俺の血を使えば、細胞一つからでも、…人間を復活させる事が出来るかも知れない。」
喜多見:「残念だけど、それは見当違いだよ。…大和武琉、」
いつの間にか、誰一人として気付かない内に、…耳元までぱっくりと口の裂けた女が空中に出現して、胡坐を掻いた格好で、…逆さまに吊り下がっていた。
そして、僅か数十cmの至近距離で、武琉の耳元に血生臭い息を、…吹きかける。
武琉:「……!」
武琉は、一瞬で反応して裏拳を放つが、…既に其処に喜多見の姿は無く、恐らく見えているモノは只の、…「幻影」?
武琉:「貴様! まだ生きていたのか!」
背広女達が、一瞬遅れて拳銃を発砲するが、…命中している筈の銃弾は、まるで蜃気楼の様に喜多見の身体を、すり抜けるのみ。
葛葉:「ミリアム!」
呼びかけた毅の直ぐ傍らに、…プロメテウスが墜落して! まるで陽炎の様に、消失する、
ミリアム:「え?」
ミリアムは突然消失したプロメテウスから放り出されて、地面に膝を付き、…そのミリアムの胸を、長さ3m余りの、ロンギヌスの槍が、…貫いていた。
ミリアム:「ナニ、コレ、…」




