039葛葉 毅「世界統一政府 その1」
ベルサイユ宮殿からそれほど遠くない郊外の私有地、
公園の様な広大な敷地に、黒のカワサキ製大型バイクが滑り込んで行く。
チキチキと、鋭い羽音を立てて飛び回る黒い飛蝗の群れを払いながら、葛葉毅がバイクを降りて、古びたビルディングの脇の従業員通用口へ入って行く。
エレベータ・ルームには、同僚のイボンヌが待っていた。
葛葉:『全くこの飛蝗の大量発生は何なんだ? フランスじゃ当たり前の季節物イベントなのか?』
イボンヌ:『そんな訳ないじゃない。こんなのは私も始めてよ。飛蝗なんて、これまで見た事なかったわ、』
(注、『』は英会話)
イボンヌは葛葉をリフトに迎え入れて、地下6階にある管制室とは別の、4階(日本で言う5階)のスイッチを押した。
葛葉:『何処へ行くんだ?』
イボンヌ:『幹部からの特別召集があったの、最上階の特別フロアに行くわ。多分「ミリアム」に関する極秘命令だと思う。』
葛葉:『「人造聖霊」の出動? 今迄に実際の出動は何回位あったんだ?』
イボンヌ:『無いわ、此れが初めてかもね。』
リフトのドアが開いて、狭い廊下の正面の、もう一つのドアを、ノックする。
直ちに内側からドアが開けられて、その向こうに全面ガラス張りの明るいフロアが見えた。
おかしい? この部屋は、窓一つない壁に囲まれている筈なのに、何故360度全方位ガラス張りなんだ?…などと言う瑣末な疑問を差し挟む余裕も無く、部屋の中央の大きなデスクの前に整列した、上級士官連中が、声を掛ける。
大佐:「遅かったな、何か問題でも有ったのか?」
葛葉:「はい、街中に大量の飛蝗が発生していて、道路は何処も大渋滞していたもので。」
見ると、天井から吊るされた幾つものテレビモニターに、パリで発生した飛蝗の大群に関する臨時ニュースが流れている。
葛葉:「今回の緊急招集と、この飛蝗の大群とは、何か関係が有るのですか?」
大佐:「許可された以外の質問は認めない。此処は平和ボケした極東の島国とは違うのだ、分かったか。」
葛葉:「了解です。」




