031鴫野瑞穂「ガールズ・トーク・イン・ザ・ルーブル その1」
ルーブル美術館、
ガラス張りの逆さピラミッドから漏れ溢れる午後の日差しが、様々な人種が屯する地下のフロアを柔らかく照らし出す。
そこから少し離れたテーブルで、私、鴫野瑞穂は手持無沙汰にスマホを弄りながら、恋人と電話する若い連れの姿を、ぼーっと眺めていた。
なんて可愛らしい顔をするのだろう、なんて不安そうな顔をするのだろう。
人の心は移ろい易く、取り留め様も無い。
時としてその儚さが、羨ましくさえ思える事がある。
何故ならば其れこそが、人があらゆる可能性に繋がる資格を得た証だから、なのだろう。
藤沢:「済みませんでした。」
鴫野:「いちいち気を使わないで、…電話、大和君から?」
ほんの少しふっくらとした美少女が、苦笑いしながら私の前に腰を下ろす。
藤沢:「はい、なんか、渋滞に巻き込まれたみたいで、遅れるって。」
鴫野:「そう、」
大和武琉とは、一年前の夏に「とある事件」に巻き込まれて、通称「進化薬」(コードネーム;ネクター)を投与された青年である。 今回彼はその後の体調変化を精密検査する為にパリの研究機関を訪れていた。 私はその検査の一部を担当した科学者で、私と一緒のテーブルで照れ笑いしている藤沢明里は、表向き「大和武琉の通訳兼付き添い」と言う事になっていた。
藤沢:「星田さん、まだトイレから戻らないんですか?」
鴫野:「ええ、」
星田翔五とは、まあ、…どうでも良いか、
藤沢:「心配ですね、何かに当たったんかな?」
鴫野:「全く、だらしない男よね。」
本当、四六時中心配ばかりかける、困った、…奴、
藤沢:「お二人は、付き合ってるんですか?」
迂闊にも、無表情に徹していた筈の私の顔が、…瞬間沸騰した!
鴫野:「…ナイナイナイナイ、…そんな良いもんじゃないわよ、私達は、」
藤沢:「でも、お二人仲良いですよね。て言うか鴫野さんて、何だかんだ言って星田さんに優しいですよね。 …お二人はどう言う関係なんですか?」
時としてその唐突さが、…羨ましく思える事がある。
鴫野:「どうって、まあ、出来の悪い弟ミタイナものね、しょうがないから、面倒臭いけど、面倒見てるだけよ。」
そう、それだけ、…本当に、あいつは、甘えん坊で手のかかる、…奴、




